単純な素数 | Itchiefilm

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人生とは映画である。
誰にでも、その人が主役のストーリーが待っている。
ハッピ−エンドになるかどうかは、その人次第。
このブログは、私自身の映画を映しだしていくスクリーンである。

scene1 公園 ー DAY
小川望美(19)が公園中央にある、噴水の周りを歩き回っている。ベンチに腰を掛ける。携帯を開いて、留守電が入ってることに気づき、メッセージを聞く。
公園には様々な遊具、ブランコ、等がある。望美以外見当たらない。
(望美:ナレーション)
彼の名はサーガ。
正確にはその呼び名も通称。
本名はまったくもって不詳。
私が初めて彼と出会ったのは、ある春の日の黄昏。
寂れた郊外の公園だった。

彼は私のところまで歩いてくると開口一番こういった。
(サーガ)
・・・君の話し相手になりたい。

scene2 レストラン ー DAY
レストランで、望美が働いている。お店は賑わっていて、望美たち店員は忙しそうに動いている。ふいに皿の割れる音が店内に響く。望美ガラスを割ってしまう。顔色はよくない。お客の何人かが音のする方を振り返った。
(店長)
今日はもういいから帰って休みなさい。
(望美)
はい、申し訳ありませんでした。

scene3 公園 ー DAY
サーガが望美に話しかけている。
(サーガ)
ボンソワール。マドモアゼル。
そんなに浮かない顔をして何事かお悩みかな?
先程から君がその噴水を回った数、11回。
歩数にして202歩。
距離にして、132メートル。
愚かな提案があるのだが、どうだろ?
私で良ければ、君の話し相手になりたい。

scene4 望美の部屋 ー DAY
トイレ、水が流れっぱなしの音が響く。バスルームに入ったまま、彼女の姿は見えない。
部屋のテーブルの上には、ドラッグストアの袋がおいてある。

scene5 公園 ー NIGHT

(サーガ)
世界は数字に囲まれていると思ったことはないかね?
(望美)
え? いえ、、、
(サーガ)
例えば、私のポケットには今275円が入っている。硬貨の枚数は、6枚だ。100円が2枚に50円玉が1枚、10円玉2枚、そして、5円玉が一枚だ。お昼に、パンとコーヒーを買った残り全部だ。パンが120円で、コーヒーが105円だった。500円玉で払ったんだ。
あの月を見てごらん、ちょうど半分、角度にして180°の半月だ。あと、15日後には満月になるだろう。このあたりで一番月がよく見えるのは、の丘だろう。

望美は困惑している、が賢者は構わず話をすすめる。

(サーガ)
私がこの公園にきてから、そろそろ一時間が経つ。
分にして、60分
秒にして、3600秒だ。
と、言ってる間にも すでに12秒がたってしまった。
この世界は実に難しい、方程式に覆われているように見える。
が、その実、真理は実に簡単な数式に宿るものだ。
(望美)
私、あなたのそんな話につき合ってる場合ではないんです。
(サーガ)
マドモアゼル、よければ、君の悩みをお聞かせ願えるかな?


scene6 望美の部屋 ー DAY
望美は、電話をかけている、 電話の向こうで何度もコールするが、一向に出ない。 留守電につながる。
(望美)
何で、出てくれないの? 私、、、

望美の肩越しに、ドラッグストアの袋が見える。 なかに入っているのは、妊娠検査薬の空き箱だった。

scene7 公園 ー DAY
望美が公園のベンチに座って、携帯電話を取り出し、入っていた留守電を聞いている。
(留守電の声:男)
もう、俺達別れたんだから、どうするかわかってるっしょ。第一、俺の子かもわかんねえだろうが。

scene8 公園 ー DAY
望美がサーガと話している。
(望美)
彼にも見捨てられて、もうどうすればいいのか・・・
(サーガ)
君の悲しみを因数分解してみようか?

まずは、この公園に誰もいない、それが0だ。
そこに私が現れた、それが1だ。
そして君が現れた。それが2だ。
実に単純だ。
しかし、そこにこそ真理が宿る
そんな容易なことにさえ自らを閉ざして、
気付けないときもあるのだ。

scene9 産婦人科医院 - DAY
望美が医院から出てくる、手に母子手帳を持って。
その表情は明るい。 
(サーガ:声(回想)
簡単な素数にこそ、真理は宿る。
幸せの数を数えてごらん?
心は決まったようだ。
胸を張って、御生きなさい。
君はもう一人じゃないのだから。



scene10 公園 - NIGHT
《一週間後》
(サーガ)
ここでとある女性と会ってからちょうど一週間。
時間にして、168時間。
分にして、10800分
そこの若者、そんなツライ顔してどうした?
私で良ければ、どうだろ? 
君の話し相手になりたい。