小塩隆志『高校生のための経済学入門[新版]』ちくま新書 | ある女子大講師

小塩隆志『高校生のための経済学入門[新版]』ちくま新書

1.著者は官庁エコノミストから早々に学界に転じて、現在は一橋大学の研究者。[新版]と銘打っている通り、2002年版があるが、今年2024年になって新しい新版が出版。理工学部生や文学部生に日本経済を教える場合、高校生に教えるのと大きな違いない部分も少なくなく、本書を手に取ってみた。タイトル通りに、本書冒頭で「高校生に経済学の初歩を学んでもらうための入門書」と明記。

 

2.対象は基本的に高校生であって、経済学なので、需要曲線と供給曲線の交点で価格と需要量=供給量が決まる、という広く知られた関係から始まる。本書で取り上げられている順に、需要と供給、市場メカニズム、金利、格差、効率と公平、景気、物価、GDP、人口減少と経済成長、インフレ、金融政策、税金と財政、社会保障、円高と円安、比較優位、貿易と世界経済、ということになる。

 

3.カプラン教授の『選挙の経済学』などから経済学では想定しないような間違い、例えば、ロックフェラー一族とアラブの王様が結託して石油価格を釣り上げて庶民を苦しめている、といった反市場バイアスに対して、価格は市場で分散的に決まり、競争的市場で決まった価格シグナルによる資源配分は厚生経済学的に最適である、といった世間一般の誤解を解くとともに、経済学部生も含めて、もちろん、他学部生にも、経済や経済学であるので世間一般の常識をそのまま当てはめて理解することも十分可能である。

 

4.例えば、学生でもスーパーで安売りをするのは量をたくさん売りたいという意図に基づいている、ということくらいは理解できるから、価格低下と販売量の増加が相関していて、逆は逆であるとかだ。最後に、第5章の金融に関してミクロ経済学の視点がなく、マクロ経済学の観点だけからの説明しかないように感じた。すなわち、金融や金融機関、例えば、銀行のもっとも重要な役割は決済であり、支払いを滞りなく済ませるという観点が抜けていて、マクロの金融仲介機能とか、日銀の役割だけが取り上げられている。全体的には経済学のいい入門書だ。