なぜどこの国もパレスチナを助けないのか | ある女子大講師

なぜどこの国もパレスチナを助けないのか

なぜどこの国もパレスチナを助けないのか

1.端的に回答をするなら、「イスラエルが強いから」。

実際に、イスラエルが建国した当初は、イスラエルという国は地盤もなければ兵士もいない、アメリカを始めとした各国に広がったユダヤ人コミュニティの政治影響力で、有利な形で国連議決が取れただけの国家の体をなしていない国家。そんな国が、現在パレスチナ人と呼ばれる人々を押しのけて、パレスチナ地域の過半の部分を手に入れた。つまりそこがイスラエル。このとき人口に比べて突然広大になった土地を、まったく支配できていなかった。そして、イスラム教を信仰するアラブ人たちは、この国連議決に少しも納得していなかった。でも、イスラエルが建国した当時の、周辺アラブ国家の反応は、おそらく誰が見ても「はてな?」とは思わないものだった。

 

2.建国の翌日、周囲のすべてのアラブ国家が一斉にイスラエルに侵攻した。「同胞のパレスチナ人を助けろ! ユダヤ人をやっつけろ!」と一致団結し、「善は急げ」とばかりに各国全力で軍を動かした。この時のパレスチナ人及び周辺国家には、国連議決があるからユダヤ人の地域も残してやろうという発想は少しもなかった。ユダヤ人をパレスチナ地域から追い出し、イスラエルという生まれたばかりの国家を、この地上から完全に消滅させるつもりだったところが、生まれたばっかりのイスラエルは、実は強かった。最初は圧倒的劣勢で負けそうだったが、国連が「おいちょっと話ちげーだろ停戦な」と横槍を入れて停戦が成り立つと、その停戦期間を生かして戦力を再編した。第二次世界大戦でダブついた銃器をユダヤマネーでかきあつめ、世界中の戦場で戦ったユダヤ人も急遽駆けつけ、停戦期間が終わった頃にはまるで別物になっていた。

 

3.そこで反撃を開始し、今度はアラブ人たちの前線を押し返して、今で言うパレスチナ自治区に逆侵攻をかけて――というところで、国連がもう一度横槍を入れて、第一次中東戦争(イスラエルのいうところの、イスラエル独立戦争。パレスチナがいうところのナクバ)は終わり。この戦争は、イスラエルが国連の横槍によって勝ち、国連の横槍によって勝ち切れなかった戦争と言える。それから何度も戦争をやったが、今でもイスラエルは確固としてそこに存在。結局のところ、パレスチナの仲間といえる周辺アラブ国家はイスラエルを実力でどうにかはできない。

 

4.その点、イスラエルは徹底していて、国土の狭いイスラエルにとって怖いのは核兵器だが、周辺国が核兵器を持とうとすると敏感に察知して攻撃して潰す。この際、外交的に「それやめろや」とかの抗議はしない。核関連施設を作ったのを見つけると、無言で戦闘機を国境侵犯させて、無言でミサイルを撃って破壊する。イスラエルは普通にする。あるいは、核関係の科学者(つまり重要人物)を暗殺。それらを察知するための諜報網(モサド)にも、ものすごくお金と人員を投じている。そうなってくると、もう周辺のアラブ国家からしてみると、イスラエルと敵対するより仲良くしたほうが得なのだ。イスラエルはアメリカと仲が良いですし、アメリカに喧嘩売っても良いことなんてなんもない。パレスチナを見捨てさえすれば、アメリカを盟主とする西側陣営と仲良くできるし、実際にエジプトはそれで経済発展した。でも、パレスチナ人からしてみたら、たまったもんじゃない。ガザ地区で絞め殺されようとしてる。天井のない監獄と言われている地域だ。エジプトなんて元々は一番熱心にイスラエルを叩いてたのに、今じゃイスラエルを攻撃するどころか、ガザ地区から難民が入ってこないように戦車を配備して、鉄条網の壁の向こうにコンクリートの壁を三重に張って絶対入ってこれないようにしてる。唯一ガザ地区と国境を接しているイスラム教国なのに。どうしてみんな、そんなに酷いことするの。

でも、エジプトの感情も冷静に見てみれば分かる。イスラエルは、パレスチナ問題さえ看過してくれれば、意外と物わかりがいい奴なんだ。実際、イスラエルは戦争でシナイ半島をぶんどった。

 

5.これをエジプトに無償で返したんですね。仲良くしてくれるなら、シナイ半島くらい返すよ、と。当時は「領土と和平の交換」なんて言われたが、これってなかなかできることじゃない。しかも、既にシナイ半島にはユダヤ人入植地があったのに、軍を使って彼らを強制的に連行してでも、シナイ半島を返した。そんな中で、パレスチナ難民をエジプト国内に入れたら、彼らは何をするか。イスラエルへの憎悪がMAXで敵愾心のゲージは振り切れているような人たちだ。そんな人たちを国内に招き入れたら、絶対に反イスラエルの活動をするし、過激派になる。国内でテロ組織を作ったり、イランからロケットをもらってイスラエルに発射したりもするでしょう。イランはハマス等のパレスチナテロリストの武器供給源。そのロケットが発射されて民間人に死傷者が出たら、イスラエルは「どうにかしろ」ってエジプトに要求する。そうしたらエジプトは「パレスチナ人狩り」しなくちゃならなくなる。もちろん、そんなことをしたら国政は荒れる。エジプトには、ユダヤ人が嫌いで仕方がない国民も多い。実際にそれで宥和政策を取った(シナイ半島を返してもらった)首相は暗殺されている。放置してロケット撃たせっぱなしでいいのかというと、そしたらイスラエルは自力でどうにかしようとする。つまりエジプト国内に破壊工作をして行為を止めようとする。そうしたら当然、国交は悪化し戦争になりかねん。そうなるのが最初から見えてるから、目の前であれほど苦しんでいるのに、エジプトは難民を受け容れない。結局のところ結論は一つで「イスラエルが強いから」だ。弱くなったら、第一次中東戦争のように全方位から大喜びで進軍して、イスラエルを揉み潰すでしょう。そして、イスラエルもそれが分かっているから「自分達は強くあらねば殺されてしまう」という強い信念がある。

 

6.最後に、イスラエルの有名な隻眼将校であるモシェ・ダヤンの有名な演説 の内容を紹介。この演説は、越境攻撃によって死んだロイというキブツの青年を追悼したもの。ロイは合法的に入植地に定住し、小麦を栽培していた。そして、小麦畑から小麦を盗もうと越境してきた人たちを追い払おうとしたところ、襲われ、ボコボコにリンチされ、挙げ句殺され、その遺体はガザ地区に運び込まれ、ズタズタに損壊された。当時、ガザ地区は壁で封鎖されていなかった。ちなみに、モシェ・ダヤンは第二次世界大戦から第一次、第二次中東戦争まで実戦で指揮を取っていたゴリゴリの将校。軍のキャリアとしては参謀総長までのぼりつめ、43歳で政界に転身した。「昨日の早朝、ロイが殺された。だが、今日は殺人者たちに罪をなすりつけるのはやめよう。彼らは8年もの間、ガザの難民キャンプに住み続けていた。そして、祖先が住んでいた土地や村に我々が住み、豊かな土地に変えてゆくのを、目の前で見てきたのだ。私達は今日、ロイのことを自分のこととして考えなければならない。我々は定住する世代であり、鋼鉄のヘルメットと野砲の砲口がなければ、土地に木を植えることも、家を建てることもできない。我々の周囲に住んでいる数十万のアラブ人は、感情を煽りたてられ、嫌悪感に満ちた眼差しで我々を見ている。我々は彼らから目をそらさないように、そして腕を鈍らせないようにしなければならない。それが、我々の世代の宿命だ。そしてそれは、我々が選んだことなのだ」。