「AI先進国」になれるチャンスが日本にも到来 本郷バレーがシリコンバレーを超える | ある女子大講師

「AI先進国」になれるチャンスが日本にも到来 本郷バレーがシリコンバレーを超える

「AI先進国」になれるチャンスが日本にも到来 本郷バレーがシリコンバレーを超える

1.文章や画像、音楽などを自動的に生成する「生成AI」は、その進化が著しく、もはや「SFの世界」の話ではなくなってきた。2023年12月には、インテルがパソコンでAIが効率的に使えるようになる半導体を正式発表。設備投資においても、AIの普及で通信企業がデータセンター(DC)の整備を急ぐなど、経済への波及効果も見られる。 このようなAIの経済効果や労働への影響について、駒澤大学経済学部准教授・井上智洋氏の最新著書『AI失業』より、日本がAI先進国になるために必要な施策。

 

2.生成AIの利用が盛んな日本  現在は、ChatGPTなどによってAIの世界が劇的に変わろうとしており、ある意味で日本にとってはチャンスが到来しています。  図4‐5のように、ChatGPTへのアクセス数が多い国は、アメリカ、インド、日本の順番です。アンケート調査によってはChatGPTを使っている日本人は少ないというデータもありますが、「アクセス数」がデータとしてはもっとも客観的です。そこを見る限り、日本は世界3位です。

ちなみに中国は、中国独自の言語生成AIを使っており、ChatGPTは使えません。たとえば、ChatGPTに「天安門事件とは?」と聞いたらもちろん答えてくれますが、中国の言語生成AIは答えてくれません。中国では、インターネットでも「天安門事件」が検索できないようになっています。  こうした障壁を「グレート・ファイアウォール」と言います。目に見えない万里の長城のような巨大なインターネットの障壁が中国全土を覆っていて、政府にとって不都合な情報にアクセスできないようになっているのです。

ChatGPTを使わせないことも、グレート・ファイアウォールの一種とみなすことができます。ChatGPTがもし中国で利用できるのであれば、中国がアクセス数でトップになる可能性があります。  いずれにせよ日本は、アメリカ、インド、中国に比べても、人口が少ないので、1人あたりの平均アクセス数を考えたら主要国で1位になるでしょう。少数のヘビーユーザーが過度にアクセスしている可能性もありますが、かなり利用されていることに間違いはありません。

 

3.AI好きな日本人の国民性とドラえもんの関係性  日本で、ChatGPTのような言語生成AIに夢中になる人が多いのはなぜでしょう?  日本では以前から『ドラえもん』のような、人と友だちであるかのようなフレンドリーロボットが漫画やアニメで描かれてきました。  おそらく日本人は潜在的に、友だちのようなAI、自分とコミュニケーションができるAIが欲しかったのではないでしょうか?  『ターミネーター』のような、AI・ロボットが人間に反旗をひるがえす映画を作るアメリカとは対照的です。

実際、イーロン・マスク氏や、スティーブ・ジョブズ氏とともにアップルを創設したスティーブ・ウォズニアック氏は、2023年3月にAIの開発を一時停止すべきであると提言しました。それだけAIを脅威としてとらえている人がアメリカには多いのです。  ヨーロッパにも、物理学者のスティーヴン・ホーキング氏や哲学者のニック・ボストロム氏のように、AI脅威論を唱えた著名人が何人もいます。  それに対し日本では、AIの開発を停止すべきだと言う人はあまりいません。日本ではAI脅威論が少ないので、それゆえにチャンスだということです。

 

4.ChatGPTは、ビジネスパーソンに広く浸透しつつあるのに対して、画像生成AIは日本のオタク文化と相性がよいと言えます。画像生成AIは、同人誌的な2次創作に似たような面があります。人が作った画像をかき集めてきて、それを改良してまた新たな画像を作っているからです。2次創作そのものであるかのような創作活動をしている人もいます。  私のある知り合いは、アニメに登場する女性キャラクターの、たとえば浴衣を着ている姿などを画像生成AIで作って大人気になっています。その画像を2万円で売ってくださいという人まで現れるほどです。でも本人はあまり儲ける気はないそうです。

これはまさに同人誌的な2次創作を、今度は画像生成AIを使って楽しんでいるということになります。なお、2次創作については著作権的な問題があるのですが、黙認されている状況です。 GPUなどを買う資金力が足りない  生成AIの利用という面では、日本はむしろ進んでいる面があるという話をしました。それでは、研究のほうはどうやったら推し進められるでしょうか?   今後、日本の企業や大学が、OpenAIと提携して共同研究をさせてもらえることもあるでしょう。そうすればノウハウが直接手に入るので研究がより早く進み、先端的なレベルに到達しやすくなります。したがって、このような動きは歓迎すべきです。

 

5.ただし、日本はAIに関わるノウハウや人材が不足しており、海外から取り入れる必要がありますが、もっとも足りないのは資金力です。  いまのChatGPTと同レベルの言語生成AIを開発するには、数百億円が必要だと言われています。特に、生成AIを動かすには高性能な「GPU」(グラフィック処理装置)がいくつも必要なので、それを購入するための資金がなくてはなりません。  私たちが持っている普通のパソコンで情報処理に使われているのは、「CPU」(中央処理装置)です。GPUは、元々コンピュータのグラフィックを描くために使われていた専用の処理装置です。それがAIの処理にも適しているということで、今ではAIを動かすのに欠かせないハードウェアになっています。ほかにも、グーグルの開発したTPUをはじめとするAI用の処理装置がありますが、今のところGPUが広く利用されています。それゆえ、GPUを開発している企業であるエヌビディア社の株価が劇的に上昇していて、10年前の100倍以上になっています。

そういうこともあって、最近日本では、GAFAMに代わって「MATANA(マタナ)」という言葉が使われ始めています。これは、マイクロソフト、アップル、テスラ、アルファベット(グーグル)、エヌビディア、アマゾンの頭文字をとっています。比較的時価総額の低いフェイスブック(メタ社)が抜けて、それより時価総額が高いテスラとエヌビディアが入っているのです。 

 

6.日本の半導体産業の凋落  GPUの世界シェアは、アメリカのエヌビディアとインテル社、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)社の3社にほとんどが占められています。インテル社は、元々はCPUの最大手で「インテル入ってる」というCMで有名な企業です。AMD社もGPU以外にCPUも作っていて、インテルと競合しています。

残念ながら、CPUと同様にGPUでも日本企業の世界シェアはゼロに近いです。おまけに、CPUやGPUの材料となる半導体の世界シェアで、日本は最盛期の1988年には50%を超えていましたが、今では6%ほどに凋落しています。  経済産業省の予測によると、2030年頃には日本のシェアはほぼゼロに近くなります。凋落の最初のきっかけは、1986年の「日米半導体協定」です。安い価格で半導体を輸出しないことや外国製品を20%輸入することなどがアメリカから日本に要求されたのです。以下、