平安時代のあれこれ | ある女子大講師

平安時代のあれこれ

平安時代のあれこれ

1.平安時代の寄坐と霊

三郎は母の仇である道兼(玉置玲央)の弟、右大臣家の道長(柄本佑)だった。ショックで枕も上がらぬ状態になってしまった、まひろ。彼女が快復するように、乳母・いと(信川清順)が祈祷の僧侶(植本純米)と寄坐(よりまし/傅田うに)を呼ぶ。植本純米、大河ドラマは『平清盛』『真田丸』に続き3回目の出演である。毎度なんとなく怪しげな僧侶の役なのだ。今回も怪しい。 寄坐とは、祈祷を行う際に霊をその身に乗り移らせ、語らせる者のことだ。僧が言うには、亡き母の霊が成仏できず、まひろの体調に悪影響を与えているのだと。現代人としては、先に乳母との会話で母を亡くしているという情報を得ているのでそういう流れになるのだろうな……と思ってしまう。なにせ、寄坐は「娘よ」と呼びかけるものの、まひろの名を言わないのだ。だって知らないから。 平安時代当時の人々は病気は物の怪が憑りついて引き起こすものと考えていたので、僧侶と寄坐の言うことを、いとが本気にするのを愚かとは言い難い。ただ、まひろと惟規(高杉真宙)が怪しむのももっともな祈祷だった。惟規ってお勉強はできないけど、お馬鹿さんではないんですよね。母・ちやは(国仲涼子)がまひろを祟るわけがないと、ふたりとも信じているのも大きいのだろう。 『源氏物語』でも光源氏の恋人・六条御息所の生霊が嫡妻(本妻)である葵上に憑りついて殺し、更に死後も妻の紫の上、女三宮らに憑りついて祈祷によって寄坐に降ろされるという展開がある。そしてこちらではドラマと違い、寄坐は光源氏が「御息所では」と思い当たる言葉を述べるのだ。紫式部も病気になったときは幾度も祈祷を受けただろうから、こういった経験があって説得力ある寄坐場面を書いたのかもしれない。

 

2.朗らかな男、藤原道綱

『蜻蛉日記』の作者、藤原道綱母(寧子/財前直見)登場! 平安女流日記文学のパイオニアだ。 『蜻蛉日記』は彼女が兼家と結ばれた20歳から40歳までの21年間、夫婦の生活を綴っている。お互いに若き日、兼家から熱心に求婚されたこと。道綱を産んだこと。彼に別の女ができて喧嘩が絶えなくなったこと……当時の女性の苦しみ悲しみが伝わるが、このドラマの視聴者として読むと、愛を語る兼家、妻の激怒に困らされる兼家、寺に籠った妻を説得して連れ戻す兼家、母を亡くして悲しみに沈む妻を慰める兼家……様々な彼の顔も浮き彫りになる。 藤原道綱母は、 小倉百人一首 なげきつつひとりぬる夜の明くるまはいかに久しきものかとは知る (嘆き悲しみながら寝る、孤独な夜が明けるまでの時間。それがどれだけ長いか、あなたはご存知ないでしょうね) この歌の作者でもある。これを贈られた男が兼家だ。 兼家と寧子を前に舞う朗らかな男。この夫婦の息子、道綱(上地雄輔)。道綱は弓と舞の名手との呼び声高い人物だ。反面『小右記』では実資に「一文不通(何も知らない)」「自分の名前くらいしか漢字を読めない」とクソミソにけなされている。 それを、ドラマでは父・兼家に、嫡妻・時姫(三石琴乃)の産んだ道隆・道兼・道長三兄弟の競争相手にならぬよう「控えめにしておれ」るよう、政治の場で活躍する公達としての教育を受けさせてもらえなかったから、という描写。 なんと残酷な……と思うと同時に、一族を率いて朝廷の頂に立つべく、父から直に手ほどきを受けている三兄弟がちっとも幸せそうに見えないので、人間としてはどちらが恵まれているのかと考え込んでしまう。 ちなみに、道綱は同時代を生きた女流歌人・和泉式部には「あはれを知る人」と評されている。政治家としてはともかく、情緒豊かな男だったのではないか。

 

3.いよいよ清少納言登場

激しく恐ろしい場面のあとに、帰宅してから泣くまひろを見てホッとした。長年の重荷を言葉として吐き出し、ようやく父の胸で泣くことができた。あの日の悲しみも抱えた苦しみも、消えたわけではない。が、この夜はまひろが、ひとつの区切りを迎えた夜となった。彼女と一緒に泣いたラストシーンだ。 家族を照らす月の光が、とても優しい。 次週予告。清少納言がいよいよ出てきますよ!! 兄・道兼の汚れ役ルートを確認する道長。今週に引き続き、何かの準備を着々と進めているらしき詮子。花山帝の閨で何かあったらしい。笑いに満ちる姫君サロン、まひろの座る位置が今までと違うね? 肇子さま、ご結婚なさったらやっぱり来られなくなっちゃうのね?「笑える話」ってなに。 第6話が楽しみ、待ちきれないですね。

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