脱炭素とグローバル化で狙うのは総合力世界一 | ある女子大講師

脱炭素とグローバル化で狙うのは総合力世界一

脱炭素とグローバル化で狙うのは総合力世界一

1.日本製鉄は社長交代を発表した。4月1日付で社長の橋本英二氏(68)が会長兼CEO(最高経営責任者)に、副社長の今井正氏(60)が社長兼COO(最高執行責任者)に就く。「2019年4月に社長に就任して、何はともあれ収益力の抜本的な立て直しを公約に掲げた。ソフトとハードのいろんな改革をやった。ビジネスの環境そのものは2019年4月より悪くなっているが、収益力はまずまずまで来た。もう一段高みを目指す発射台を作ることができた」。

 

2.2020年3月期、同社史上過去最悪となる4315億円の最終赤字を計上した日本製鉄。橋本氏は、製鉄所のシンボルともいえる高炉4基を休止(さらに1基休止を決定済み)、広島県の製鉄所閉鎖を含む国内事業の構造改革を進めてきた。その橋本氏が「私をはるかにしのぐ知力、胆力の持ち主」と評する今井氏。東京大学大院で金属工学専攻修士課程を修了、マサチューセッツ工科大学大学院の材料工学博士号を持っており、旧新日本製鉄出身者として初の「技術系社長」となる。

営業面では、自動車メーカーなど国内の大口顧客に対する「ひも付き価格」の交渉で、供給削減も辞さない剛腕で値上げを勝ち取り、業績をV字回復してみせた。

 

3.製鉄所の生産技術に強く、名古屋製鉄所所長を務めたほか、常務として国内生産改革の具体的な絵を描いた。「従業員に負担を強いるとか、地域社会へ影響を与えるとか、それらを踏み越えてやるべきことは何か、まずそれをいちばんに考えた計画を立案した」(今井氏)。現在は脱炭素や電炉転換プロジェクトのリーダーも務める。今井氏のミッションは、「最大のテーマ」(橋本氏)である脱炭素に道筋をつけることだ。日本全体の約14%、国内産業部門で最大のCO2(二酸化炭素)排出源である鉄鋼産業にとって脱炭素は最重要かつ最も難しい課題だ。対応できなければ事業の存続さえ許されなくなる可能性がある。

 

4.脱炭素について、今井氏はまず「(北九州市の)八幡と(兵庫県姫路市の)広畑での電炉建設をどう進めていくかが課題だ。技術的な検討は詰まってきており、巨額の投資判断の経済性が最大のカギになる」と述べた。更に、この2カ所の電炉転換のメドを2030年とする一方、技術的・経済的なハードルが高い高炉での水素還元は2040年以降を目指し開発を進める考えを示した。

 

5.USスチール買収に自信

脱炭素とともにテーマとなるのがグローバル化の推進だ。

日本製鉄は、顧客である日本メーカーの海外進出に応じる形での海外展開を進めてきたが、「『客を追って』というのは本当の意味での海外展開ではない」(橋本氏)。橋本体制では、2019年に欧州アルセロール・ミタルとの合弁でインド鉄鋼大手を7700億円で買収。2022年には日本製鉄単独でタイの電炉メーカーを買収したほか、昨年12月にはアメリカの老舗鉄鋼メーカー、USスチールを2兆円で買収することも決めている。

ただ、USスチール買収は全米鉄鋼労働組合(USW)や一部の政治家が反対しており、関係当局の承認取得など先行きを見通せない状況だ。そのような懸念に対し、橋本氏は次のように自信を示した。

「(日本製鉄には)技術の優位性があり、100%子会社なら技術を全部出せる。お金も持っていく。組合との関係はUSスチールが結んでいる労働協約を100%守る。(日本製鉄は)アメリカにほとんど輸出していないので市場占有率も高まらない。アメリカにとってマイナスはない」

 

6.「経営責任を引き続き全うする」

USスチールを含めた海外の大型投資にメドをつけるまでは、CEOとして橋本氏が「経営責任を引き続き全うする」ことになるようだ。日本製鉄が掲げる「総合力世界ナンバーワンの鉄鋼メーカー」の目標。橋本氏は5年間で設計図を描いてみせた。「実際に完成させて名実ともに日本製鉄を総合力世界ナンバーワンにするのが務め」と今井氏は話した。「剛腕」と呼ばれる橋本氏と「技術系」の今井氏。まずは二人三脚で目標に向かって歩を進めることになる。

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