中近東で問われる日本外交 | ある女子大講師

中近東で問われる日本外交

中近東で問われる日本外交

1.ハマスのテロに始まった争いだが、情勢が緊迫するなか、伝統的に中東各国と良好な関係を築いてきた日本は未だに「外交力」を発揮できないでいる。邦人の安全確保に向けた岸田政権の初動対応が遅かったと指摘されている。テロ発生後、首相官邸の危機管理センターに「情報連絡室」が設置されたのは10日で、外務省がガザ地区と境界周辺の危険レベルを、最高度のレベル4(退避勧告)に引き上げたのも10日だった。

 

2.米英、独仏伊の各国首脳は9日、共同声明を発表して、「ハマスによる恐ろしいテロ行為への明白な非難」を表明した。G7議長である岸田首相も「テロとの闘い」で声明に加わり団結して強く非難すべきだった。その上で、日本だからこそできる「独自外交」「バランス外交」で指導力を発揮すべきなのだ。日本は、イスラエルやパレスチナにとどまらず、サウジアラビア、イラン、ヨルダン、アラブ首長国連邦(UAE)などの各国と、イスラム教のスンニ派、シーア派問わず、長年、良好な関係を保ってきた。

 

3.パレスチナ和平については、小泉首相(当時)が2006年に提唱した、日本、ヨルダン、イスラエル、パレスチナの4者による「平和と繁栄の回廊」構想を主導してきた。中東における日本の外交力が特に発揮されたのは、第二次安倍政権時代だった。アルジェリア人質事件(13年)が起きた際、安倍氏は外遊先の東南アジアから関係諸国に電話をして〝極秘情報〟を収集し、日本に対応を指示した。核合意をめぐってトランプ政権とイランの緊張が高まっていた19年には、イランを訪問して両国の「仲介役」まで果たした。日本の国益を守るという意味でも、中東全体にアドバンテージを持つ日本の外交力を発揮するのはまさに、今ではないか。

 

4.米国は今回の大規模テロ発生後、イスラエルへの協力姿勢を強め、原子力空母「ジェラルド・フォード」を中核とする空母打撃群を東地中海に派遣するなど、軍事的支援を中東に向けている。そのぶん、ロシアによる侵略が続くウクライナへの支援や、台湾に圧力をかけ続けている中国への抑止力が手薄になる恐れがある。原油を中東に依存しているという経済的側面を考えても、日本は今回の事態で「バランサー」として役割を果たすべきだ。安倍氏は在任中、イスラエルとパレスチナ双方を訪問し、ジェリコ農産加工団地などパレスチナを支援することで平和的共存を主張した。

 

5.岸田首相は、イスラエルとパレスチナに限らず、サウジアラビアやイラン、エジプト、トルコなどと連携して、情報収集や解決に向けた働きかけに注力すべきだ。中東で特定の国に偏らない外交を展開できるのは日本の強みだ。これまでの歴代首相の「外交資産」を活用した日本独自の外交を展開すべき時だ。