トヨタの全固体電池革命 | ある女子大講師

トヨタの全固体電池革命

トヨタの全固体電池

1.トヨタ自動車は次世代バッテリー「全固体電池」を早ければ2027年に実用化すると発表した。この技術が実用化されれば、EVだけでなく、交通システム全体を大きく変える可能性があるという、英紙「フィナンシャル・タイムズ」が、全固体電池の持つ可能性について探った。

 

2.「ポータブル家電革命」を起こしたリチウムイオン電池。リチウムイオン電池を数十年も研究してきたソニーは1990年代、ポータブル家電に革命を起こした。小型で軽量のビデオカメラや携帯電話などの製品を生み出し、何十億人もの人々の生活を変えた。 電池はいま、世界の輸送システムを刷新し、化石燃料への依存を断つ上での中核となっている。

 

3.リチウムイオン電池の製造コストは大きく下がり、電気自動車(EV)の販売は近年、飛躍的に伸びた。しかし、その技術の骨子は実用化以来ほとんど変わっていない。 しかし、30年にわたって徐々に開発が進められた結果、その形はまもなく変わるかもしれない。世界最大の自動車メーカーであるトヨタは、2023年10月半ば、「全固体電池」の技術的ブレークスルーを発見したと発表した。実用化されれば電池のゲームチェンジャーとなりうると言われてきた次世代技術だ。

 

4.同社が6月に全固体電池のEVへの投入を示唆して以来、注目が集まり、トヨタの時価総額は15兆円程度も跳ね上がった。 もしその開発がうまくいけば、トヨタは早ければ2027年に同電池を搭載したEVの販売を始められる。より安全で、より速く充電でき、航続距離も現在の倍程度になったEVができるだ。1回の充電で、1200kmまで走れる。 英国の電池研究機関ファラデー研究所の共同設立者で、チーフ・サイエンティストのピーター・ブルースは言う。 「全固体電池の開発競争は全世界で起きている。トヨタか他のメーカーが充分な耐久性と寿命、およびコスト競争力のある全固体電池を作ることができれば、破壊的な影響がある。電池のエネルギー密度はさらに上がり、充電時間も向上させられるでしょう」

 

5.この技術が実現すれば、現在、テスラと中国のBYDの2社が独占するEV市場が揺るがされる。それは地政学的な意味も持ちうる。現在、中国がバッテリーとその原材料を独占しているため、西側諸国は不安を抱いているからだ。更に全固体電池は、航空機など、幅広い輸送分野へ新たに応用できる可能性もある。このインパクトは、固定電話から携帯電話への移行と同じくらい大きなものになりうる。

 

6.全固体電池開発への懐疑。しかし、全固体電池技術に対して懐疑的な見方もある。科学的な基本的課題は本当に解決されたのか、本当に高速で大量生産できるのか、対象となる市場は充分に大きいのか、数々の疑問が挙げられている。「全固体電池が非常に注目され、既存のバッテリーでは不充分だというような印象を受けた。しかし、そんなことはない。既存のEVの売り上げは年率20~30%で伸びている。すでにEVに乗りはじめた人たちの殆んどが、もう元には戻れないと言っている」と米投資会社カナコード・ジヌイティのアナリストは話す。

 

 

7.全固体電池を用いることで世界の交通をどこまで脱炭素化できるのか、トヨタの発表以降、議論が高まっている。アルゴンヌ国立研究所のエネルギー貯蔵共同研究センターのスリニヴァサン所長は、全固体電池はバッテリー業界における「聖杯」、つまり、長期的に達成すべき非常に高い目標だという。トヨタは研究室レベルでの実験に目処がついたとするが、それに対して彼はこう述べる「全固体電池のための興味深い技術革新を研究室で生みだせても、大量製造できるようになるまでにまだ大きな飛躍が必要なのか、それともすぐにできるのか、私にはわからない」。

 

8.固体で電流を通す。全ての電池は同じように機能する。イオンとして知られる電荷を帯びた原子が、電池の負極から正極まで電解質の中を通って流れることで、電流が発生する。 全固体電池が現在のリチウムイオン電池と異なるのは、電解質が液体ではなく固体という点だ。固体電解質として利用できるか、ポリマー、酸化物、硫化物などさまざまな材料でテストしている。液体の電解質は火災の危険性があるため、固体のものを使うほうが遥かに安全だ。 しかし、電解質を変えるだけで、バッテリーの性能を飛躍的に高められるわけではない。注目すべきは、リチウム金属アノードという技術開発である。現在、負極材料として使われているグラファイトの代わりにリチウム金属を使えば、バッテリーを軽量化し、航続距離を2倍にできる。

 

9.全固体電池は、長年にわたって基礎技術における課題があった。ひとつは、充放電を繰り返すと樹状突起(デンドライト)が形成されることだ。それが電池の構造に傷をつけるため、電池の性能を維持するのは難しい。もうひとつの課題は、固体材料同士を安定的に接触させるのが困難なことだ。 トヨタは10月半ば、石油化学グループの出光興産と提携し、全固体電池に応用するための硫化物電解質を共同開発・生産すると発表した。出光の木藤俊一代表取締役社長は、トヨタとの共同記者会見で「この硫化物系固体電解質はバッテリーEVが抱える航続距離への不安や充電時間の長さといった課題を解決する、最有力素材である」と述べた。 全固体電池の開発に際してはさまざまな技術的課題があるが、基本的なものは克服できると、より多くの科学者が考えるようになってきている。

 

10.次の課題はその大量生産だ。正極と負極のセルを、材料を傷つけずに迅速かつ高精度に積み重ねる必要がある。 トヨタの技術者たちは、この点に関しても進展があったと語る。現行のリチウムイオン電池と同じ速度でセルを積層できるようになると、彼らは自信を持って語る。 しかし、本格的な大量生産のためには、他の技術的なハードルをクリアする必要がある。9月に開催された、記者、アナリスト、投資家向けの愛知県の貞宝工場見学で、あるエンジニアは言った。「電池材料の量と品質を確保するためには、まだブレークスルーが必要です」。

 

11.「全固体電池」には“交通の未来”を変える力がある。トヨタ自動車は次世代バッテリー「全固体電池」を早ければ2027年に実用化すると発表し、世界を驚かせた。この技術が実用化されれば、EVだけでなく、交通システム全体を大きく変える可能性があるという。英紙「フィナンシャル・タイムズ」が、全固体電池の持つ可能性について探った。「ポータブル家電革命」を起こしたリチウムイオン電池。この電池を数十年も研究してきたソニーは1990年代、ポータブル家電に革命を起こした。小型で軽量のビデオカメラや携帯電話などの製品を生み出し、何十億人もの人々の生活を変えた。電池はいま、世界の輸送システムを刷新し、化石燃料への依存を断つ上での中核となっている。リチウムイオン電池の製造コストは大きく下がり、電気自動車(EV)の販売は近年、飛躍的に伸びた。しかし、その技術の骨子は実用化以来ほとんど変わっていない。しかし、30年にわたって徐々に開発が進められた結果、その形はまもなく変わるかもしれない。世界最大の自動車メーカーであるトヨタは、2023年10月半ば、「全固体電池」の技術的ブレークスルーを発見したと発表した。実用化されれば電池のゲームチェンジャーとなりうると言われてきた次世代技術だ。