家計赤字化目標に拘る政府 | ある女子大講師

家計赤字化目標に拘る政府

経済はデータが全て

1.「GDPは生産の合計であり、支出の合計であり、所得の合計である」「誰かの黒字は誰かの赤字、誰かの資産は誰かの負債」といったことは基本的な事実だ。もしかしたら、「経済評論家」と名乗っていた連中も理解していなかったのかも知れない。政府の支出はGDPを増やすと話すと反発されたりした。

2.名目GDPは「民間最終消費支出」「政府最終消費支出」「民間住宅」「民間企業設備」「公的固定資本形成」「純輸出」(と在庫変動)で構成される統計なのだから、政府が支出(消費や公的固定資本形成)を増やせば、GDPは否応なしに増える。もちろん、政府が所得移転系(年金など)の支出を増やすと、それが100%需要になるかどうかは分からない。誰かがおカネを使おうが、おカネはこの世から消えないし、GDPは消費や投資に誰かが使った金額の合計なのだから、政府が支出すれば増えるのは当然。

3.日本政府はPB(基礎的財政収支)の黒字化を目指している。政府の財政を黒字にするためには、他の誰か(民間、もしくは海外)に赤字になってもらわなければならない。内閣府の官僚たちも「他の誰かの黒字を減らさずに、政府の赤字を減らし、黒字化する」シミュレーションはできない。内閣府は経済財政諮問会議で、中長期の経済・財政に関する試算を示した。財政健全化の指標となる国と地方の「基礎的財政収支」(PB)について、近年の税収増を前提にしているが、足元の世界経済は減速しており、実現性は不透明だという。

4.内閣府の試算によると、民間の黒字は、今年度までは対GDP比8.8%と、比較的高い水準を維持するが、来年度は3.2%と大幅に削減。政府の赤字を圧縮する以上、反対側で誰かに黒字を減らしてもらうから。来年度、日本政府は対GDP比5%超、つまりは30兆円規模の「我々の黒字」を奪い取ることを予定している。そうしなければ、25年度PB黒字化のシミュレーションが成立しない。国民一人当たり、25万円、来年度、我々は一人当たり25万円の純資産を奪われることになる。

5.現実には民間の黒字を対GDP比で5%も圧縮することは不可能だが、少なくとも内閣府が「そう、シミュレートしている」ことは事実だ。マスコミは、政府の黒字化にばかり注目し、内閣府のシミュレーショが意味する恐るべき事実(国民一人当たり25万円、純資産を奪う)には触れない。結局のところ、「数字」を基に「真実」を解き明かすという分野は、今でも不透明だ。国民を貧しくするPB黒字化目標は破棄あるのみだ。

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