プーチン大統領が狙うウクライナより大きな獲物 2022.2.10 5件のコメント 森 永輔 日 | ある女子大講師

プーチン大統領が狙うウクライナより大きな獲物 2022.2.10 5件のコメント 森 永輔 日

プーチン大統領が狙うウクライナより大きな獲物

5件のコメント

森 永輔

日経ビジネス シニアエディター

ロシアがウクライナとの国境周辺に10万人規模の部隊を展開。米国は、ロシアによるウクライナ攻撃は「早ければ明日かもしれないし、数週間後かもしれない」(サリバン米大統領補佐官)と警戒を強める。緊張を緩和しようと、フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相がウクライナ、ロシア、米国などを回る首脳外交を進める。緊張を高めるロシアのプーチン大統領の意図はどこにあるのか。ウクライナを舞台とする軍事衝突の蓋然性はどれほどなのか。ロシア政治に詳しい畔蒜泰助・笹川平和財団主任研究員に聞いた。

(聞き手:森 永輔)

ロシアの侵攻に備え、一般の市民も銃を持って訓練に参加している(写真:AP/アフロ)

ロシアの侵攻に備え、一般の市民も銃を持って訓練に参加している(写真:AP/アフロ)

ウクライナをめぐる緊張が収まる気配がありません。ロシアはウクライナとの国境周辺に10万人というかつてない規模の部隊を展開。米国も、ウクライナと国境を接するポーランドやルーマニアに3000人規模の部隊を増派する決定をしました。「NATO(北大西洋条約機構)同盟国への支援を示す」ためだといいます。米国のジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)はロシアによるウクライナ攻撃は「早ければ明日かもしれないし、数週間後かもしれない」と発言し、警戒を強めています。

 外交の動きも活発です。フランスのエマニュエル・マクロン大統領が7日にロシア、8日にウクライナを訪問。ドイツのオラフ・ショルツ首相も7日に米国を訪問。14日にはウクライナ、15日にはロシアを訪れる予定です。

 人々の耳目を集めたのは、ロシアが昨年12月、米国やNATOに対し「NATOがさらなる東方拡大を行わない」ことを約束し法的に保証するよう求めたことです。米国とNATOは1月26日、これを拒否しました。

 一連の行動を取るロシアのウラジーミル・プーチン大統領の意図はどこにあるのでしょう。また、このタイミングで行動しているのはなぜでしょう。

畔蒜泰助・笹川平和財団主任研究員(以下、畔蒜):プーチン大統領は、1989~91年に冷戦が終結しソ連(当時)が崩壊した後、米国1強の状況の中で培われてきた欧州安全保障の秩序の形成プロセスの歯車を逆回転させようとしているのだと思います。現行の秩序の象徴的存在がNATOの東方拡大です。

<span class="fontBold">畔蒜泰助(あびる・たいすけ)</span><br>1969年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、モスクワ国立国際関係大学修士課程修了。東京財団研究員、国際協力銀行モスクワ事務所上席駐在員を経て現職。専門はユーラシア地政学、ロシア外交安全保障政策、日露関係。著書に『「今のロシア」がわかる本』『原発とレアアース』など(写真:加藤 康)

畔蒜泰助(あびる・たいすけ)
1969年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、モスクワ国立国際関係大学修士課程修了。東京財団研究員、国際協力銀行モスクワ事務所上席駐在員を経て現職。専門はユーラシア地政学、ロシア外交安全保障政策、日露関係。著書に『「今のロシア」がわかる本』『原発とレアアース』など(写真:加藤 康)

 少し、時計の針を戻して順に説明しましょう。今回の緊張の高まりの発端は、2021年に入ってウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー政権が「ミンスク2合意を履行しない」との方針を明らかにしたことでした。これはウクライナ紛争を停戦するための合意です。ロシアにとって、親ロ派勢力が支配するドネツク州とルガンスク州に特別な自治権を与えるとの条項が非常に重要でした。これによりウクライナのNATO加盟を阻止することができる立て付けになっていたからです。

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