天才を見抜けなかったという烙印、鈴木啓示と土井正三 | それもまた良し

それもまた良し

関西のとあるベンチャーで働くSEのブログ。

日々のインプットから、アウトプットを定期的に行うことが目標です。主に組織論やドラッカーの話題が中心ですが、タイトルにもあるように「松下幸之助氏」のような互助の精神を持ち、社会人として成長出来る事が最大の目標です。

WBCでも活躍しているイチロー選手、そして去年引退した野茂選手。
共に「天才」という枠で語られそうな、努力するプロ野球選手だ。

彼らは才能に溢れ、そしてその才能を余すことなく発揮出来た選手である。

しかし彼らは間違いなくエリート街道を歩めたかと言えば、疑問符である。
そして彼らが唯一無二の存在であったかと言えば、それも疑問符である。


彼ら以上の存在がいたかどうかと言えば、間違いなく居たと思う。
ただ、活躍することが出来なかっただけではないか、と推測する。

きっと野茂氏も、イチロー選手もそれに気付いている。
だからこそ彼らは練習を疎んじ無いし、自分が凄いとも思っていない。


なぜか?
それは、彼らが冷遇された時代を経験しているからである。

組織に冷たくされる。
或いは、組織が理解してくれない。

そんな時、人間の反応は2つに1つである。


組織の無理解に拗ねてしまう。
若しくは、理解出来ない組織が悪いと開き直ってしまう。

組織とは、ある目的を達成するための集団を統率するツールである。
つまりルールによって成り立つ。

あの自由人・仰木彬氏ですら彼なりのルールに基づいた組織を形成した。



では野茂氏やイチロー選手の場合、なぜ所属する組織の理解を得られなかったのか。
そこで注目を浴びるのは、彼らを指導する立場にあった総大将・鈴木氏と土井氏である。

鈴木氏は史上最高の先発投手と言われ、輝かしい成績を残している一方で、我儘で、聞かん坊で、頑固だった。
一方の土井氏はV9時代の超2流選手であり、巨人時代は名コーチとされていた。


あまり関係性の無いように見えるが、幾つものエピソードに触れるに連れ、ある共通点を持っていることに気付く。

■強烈な成功体験の持ち主である
■野球に対して常識を持っている

鈴木氏の場合だと、最後の300勝投手という強烈な成果の持ち主であり、言わば「自分の成功例を持って、他の人にも通用するはず」という価値観を持っている。
それだけでなく、西本監督の下で、剛速球投手からコントロール重視投手へと見事な転換を経ており、どうしても人間はやれば出来るんだ、という精神論を持ちがちである。
(精神論で諭すことが悪いのではなく、精神論だけでは成果主義者に対する対論が出来ない点で厄介なだけである。精神論でモチベーションが上がる人間に対しては、精神論で話せば良い)

土井氏もまた、V9という成功体験を持っている。そしてとくに、川上野球を最も経験しているだけに、所謂オーソドックス、当り前のことを当たり前に出来る野球が一番強いということを知っている。
それだけでなく、巨人時代のコーチ経験を通じて、野球に対して深い理解と常識を兼ね備えたとされている。


鈴木氏も、そして土井氏も、成功体験は豊富であり、そして野球との係わりから「これはこう」「あれはそう」という常識を持っていた。
そして、それがイチロー選手と野茂氏の活躍を見抜く際、邪魔になってしまった。



土井氏の場合、イチローの能力を見抜けなかった等と言われているが、これは嘘である。

イチロー選手が1軍に出場してホームランを打った際、2軍に落としたが、その後に宮内オーナーに対して「凄い選手がいる」と言い、異例の2軍視察を行った程である。
恐らく、いや間違いなく、彼はイチロー選手の才能を見抜いていた。

なぜ、彼はイチローを2軍に落としたか。

理由は2つである。1つは外野陣の層が厚かった、そして代打陣も外野手が主であり、若手選手であるイチロー選手の入る隙間が無かったこと。
そして振り子打法に関して、土井氏が「これは今のイチローにしか出来ない打法だ」と察知し、2軍で修正しろと命じたと言われている。



鈴木氏の場合も同様である。

野茂氏との確執が噂されるようになったのも、トルネード投法に対して「いずれ通用しなくなる。だから、通用しなくなる前に変えろ」と言ったことが問題だと言われている。



もうお解り頂けたと思う。

鈴木氏にしろ、土井氏にしろ、彼らの野球という常識には、イチロー選手や野茂氏が「非常識」に見えたのだ。
そして「親切心」で彼らの「長所」を無くそうとした。

土井氏も鈴木氏も、天才を見抜けなかった。
いや、今までの彼らが歩んだであろう歴史を見れば、2人の天才に何度も出会ったはずだ。

しかし監督という管理職に就任した途端、それが見えなくなってしまう。



人を育てる際、マニュアルが無いように、今までの歴史は参考になるが絶対では無い。
なぜなら人を育てることは0を1にすることだからである。

今までのやり方が通用する可能性の方が、実は低かったりする。
しかし人は、人を育てる際に不安になり、ついつい過去を見てしまう。振り返ってしまう。


今を改善するには、マーケティングが欠かせない。
しかし、何か違うことをしようという場合、欠かせないのはイノベーションである。

そして人を育てるということは、イノベーションに近い。
形にはめて成功する例は少なく、成功したとしても通用するのは1年~2年ではないだろうか。



鈴木氏と土井氏は、恐らく間違っていなかった。
そして、野茂氏もイチロー選手も、間違っていなかった。

ただ、やり方が通用しなかっただけだと思う。
そして成果が出なかった。

人間の真価が問われるのは、その瞬間だ。


チャレンジする際、成功よりも失敗が多いかも知れない。
しかし、土井氏や鈴木氏のように、それを失敗と受け止めてはいけないと思う。

仕方が無い、そのやり方しか無い、と拒絶の姿勢や拒否の構えを示すのではなく、コミュニケーションを取るべきではなかったか。
失敗の理由、経過を辿るべきである。



なぜか?

失敗か成功かは、当事者が決めるのではなく、今日と未来の利益享受者が決めるからである。