週刊一色塾 Vol.508
2023.4.18(国語科:高村康典)
春になったと思ったら、もう初夏のような日々ですね。
桜はとうに散り、そろそろ山吹が咲いて藤の花へ、という感じですね。
4月のことを古くは「卯月うづき」と言いましたが、これは卯の花が咲く季節だったことから付いた名称と言われています。
現代では5月頃に咲くので、旧暦とのズレですね。
ところで、春の花といえば、もうひとつ「桃の花」があります。
桜と山吹の間をつなぐように咲きます。
しかし、なぜか古文ではさほど存在感が強くありません。
画像:Wikipediaより拝借
自分で撮影した花桃の写真が探せないのでWikipediaから拝借しました。
『古今和歌集』には「物名」ということば遊びの部に「からもも(杏)」と「すもも」が出てくるのみ。
『後撰和歌集』には1首もありません。
『拾遺和歌集』には「賀」の部に、「三千歳みちとせの桃」という三千年に一度だけ花を咲かせるという伝説上の花を題にした凡河内躬恒の歌がある他、「雑春」の部に詠み人知らずの歌が1首あるのみ。それと「物名」のことば遊びに使われているだけ。
みちとせになるてふ桃の今年より花咲く春にあひにけるかな
咲きしときなほこそ見しか桃の花散れば惜しくぞ思ひなりぬる
「物名」は遊びなのでカウントしない方針でいくと、『拾遺集』にかろうじて上の2首があるのみ。
しかも、「三千歳の桃」は伝説だし、そもそも「賀」というお祝いの歌なので、直接に桃を詠んだ歌ではない。
というわけで、まともに桃を詠んだ歌は「三代集」の中に1首しかありませんでした。
『万葉集』には、大伴家持の有名な歌があります。
春の苑紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ少女をとめ
「すもも」含め他にも少しだけありましたが、やはり数は多くない。
『枕草子』の「木の花は」の章段でも、
木の花は濃きも薄きも紅梅。桜は、花びら多きに、葉の色濃きが、枝細くて咲きたる。藤の花は、しなひ長く、色濃く咲きたる、いとめでたし。
として、桃の花は綺麗にスルーされています。
「山吹もないやんけ」と思うかもしれませんが、「草の花は」という別の章段に、
萩、いと色深う、枝たをやかに咲きたるが、朝露に濡れてなよなよとひろごり伏したる、さ牡鹿のわきて立ち馴らすらむも心ことなり。八重山吹。
として、格別な趣のある花のひとつに数えられています。
どうしてですかね?
古来、桃は邪気を祓うと信じられており(桃の節句)馴染みがなかったわけではないのですが。
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