J-POP LEGEND FORUM(6/21)その5 | ボクの奥さん

ボクの奥さん

ボクの奥さんは、半世紀に渡る甲斐よしひろさんファン。このブログは、主に彼女の『甲斐活』について綴っております。

今回の甲斐バンド特集にあたって「当時書かれたものを改めて見直したりしてたんですね
もちろん、まあCDを聞き直したりもしてたんですが
そういう時間がですね、この番組は楽しいんです」と田家さん

その田家さんも書き手のお一人だった甲斐バンドの機関紙「BEATNIK」には
「ブルーレターはスキャンダラスな歌か?」との考察が掲載されていて…

そこには…「男が歌ったSEXの歌は『抱きしめたい』という欲求を歌ったものか
『カーテン』のように行為を連想させるものが主流で
『やるまで』のドラマは歌になっても
『やった後』のホロ苦かったり辛かったりするヘビーな物語は歌にならず
ただ、涙やタメ息で泣くのすがるのといった演歌のパターンでしか歌おうとしない

『スキャンダル』は、リアルなテーマ性がなければいけないが
リアルというのは実生活のことじゃなくて
『甲斐よしひろ夫婦は上手く行ってるのか?』と心配するのは『ゴシップ』だ
物語を歌っても物語を越えたテーマを突きつけてしまうリアルさ
男と女の物語に関して、スキャンダラスな形になったのが『ブルーレター』だ」

…と記されていたんだけど、田家さんは「作家の亀和田武さんがですね
この『ブルー・レター』と、ロバート・B・パーカーというですね
作家の書いた『愛と名誉のために』を比較した文章というのがありました

この『愛と名誉のために』というのはですね
アル中で浮浪者になった男の贖罪…罪を償うという…
そして再生のためにですね、海に入って行くという小説なんですね

亀和田さんはですね、この『愛と名誉のために』と『ブルー・レター』の中で
甲斐よしひろが求めたものっていう文章を書いてて
それがね、良い文章だったんですね」と絶賛なさってました

亀和田さんの著書「愛を叫んだ獣」に収録されている、その文章には…
浮浪者になった主人公が海に入って行くシーンをお読みになり
「ある曲のイメージがダブっては来ないだろうか
甲斐バンドの曲に慣れ親しんだ者なら、ごくごく自然に
スーッとこの二つの世界を重ね合わせてしまうのではないだろうか

贖罪・死→再生のシンボルとしての『海』である
『愛と名誉のために』と『ブルー・レター』という二つの作品が伝えて寄こす強烈なイメージ
汚れた自分を波で洗い流し、過去を葬るというメッセージには注目せざるを得なかった」とか

「甲斐バンドの初期の曲には、例えば『夜汽車』という言葉が
ある心象風景を伝える比喩として使用されていた
僕は『最後の夜汽車』のような少年の切ないセンチメンタリズムを謳い上げた曲は今でも好きだ

しかし最近の…具体的には『破れたハートを売り物に』以降のスケールの大きな
成熟した男の力強さが前面に出ている曲と比べた時
どうしても脆弱な感傷性が目についてしまうのだ

ここ何年かの甲斐バンドがダダモノではない所以は
『海』というような強烈なイメージ喚起力のあるシンボリックな言葉を曲の中心に据え
そこから官能的で、骨太の、叙情味に溢れた物語を紡ぎ出せるようになったことだ」…と記され

更に、その「海に入って行く」という箇所で、バンドの演奏が鳴り止み
「甲斐よしひろのボーカルだけが、広い、本当に広い大阪城ホールに響いた
観客席は、水を打ったように音ひとつない
この時、僕は一瞬、泣きそうな衝動に駆られた

コンサートの後で酒を飲んでいる時、話がたまたま『ブルー・レター』のことになった
『すっごく気持ちいいよ、一人で歌ってるんだもん』…彼は、確かそんな意味のことを言った
そして、すぐに『あの時、僕、思わず泣きそうになったもんね』と続けた」とも明かされてます

ともあれ…「まっ、甲斐バンドについて書いた文章はですね
ホントに色んな人が文章を残しておりますね」と田家さん
「えー、亀和田さんはですね、甲斐さんと…コンサートを観るために
大阪駅で待ち合わせたんですって

で、新幹線から降りて来た甲斐さんが読んでいたのが
このロバート・B・パーカーの『愛と名誉のために』
甲斐さんは、ずっと移動中にですね、小説を読んでいたという、そういう文章だったんですね

…って、正確には、大阪城ホールでのライブをご覧になった翌日
待ち合わせていらした駅のホームに「甲斐よしひろが、この本を手に携えて現れ
ご一緒に東京へお帰りになる車中では「この小説に没頭していたように思う
ホームでは、まだ最初の方のページに指を挟んでいたのが
東京駅で降りる頃には、残りのページがあと僅かになっていた」そうです

「で、この『虜』のトラックダウンのためにですね、ニューヨークに向かった時もですね
飛行機の中で、甲斐さんが読んでた本というのもですね、えー、3冊ありました
『郵便配達は二度ベルを鳴らす』『エデンの東』『約束の地』

『郵便配達は二度ベルを鳴らす』というのは
ジェイムズ・ケインという人のですね、有名な小説で
81年に映画化されて、評判になったんですね
『エデンの東』は、あのジェームズ・ディーンの映画になった小説で、スタイン・ベック
『約束の地』というのはですね、この80年代初めにですね
ブームになったハードボイルド作家がいたんです…ロバート・B・パーカー…彼の代表作ですね

で、この『ブルー・レター』の中のですね
ちょっとこう…暗い、文学的な大人の叙情性というのはですね
そういう小説の中からの流れでもあったんでしょうね

当時、日本で一番流行ってた小説…田中康夫さんの『なんとなくクリスタル』ですからね
やっぱり、そういう軽佻浮薄のね、対極にいたのが甲斐バンドだったんだなと改めて思いました
こういう小説のようなロックは、当時誰もやってませんでした」と話されてましたが

亀和田さんによれば…パーカーの「初秋」が各所で絶賛されていたり
甲斐さんが日本ですでに読了なさっていた「約束の地」を
ニューヨークにまで持参され、三読四読なさっているのをご覧になったり

佐藤剛さんや北上次郎さんら、周りの皆さんがパーカー愛読者…
というより、主人公であるスペンサーのファンになっておられたり
…といった状況でも「ハードボイルドには全くと言っていいほど無関心だった」のが

甲斐さんと長電話なさっていた時に、発売されたばかりのスペンサーシリーズ最新刊
「残酷な土地」を甲斐さんが「僕、もう読みましたよ」とおっしゃったことで
「俺の友人たちが、これ程までに夢中になるロバート・B・パーカーというのは
いったいどんな小説を書くのだろうという好奇心が芽生え」

ついに「初秋」を手になさったら「本を読むのが遅い俺が
1日1冊のペースで読み進んだ」くらいハマられたらしく
「俺たちが、パーカー、パーカーと言うのを耳にして
1年に3冊しか本を読まない田家秀樹も、ついに『初秋』を手に取ることになった」そうです(笑)