《はじめに》
11月に、議会へのタブレット導入の先進市である愛知県安城市議会を視察した。
先進とはいえ、今年度本格導入したばかりで、現在進行形の議会である。その生々しい姿は、まさに今導入に取り掛かろうとしている上越市議会にとって、参考となることが数多あった。
安城市の導入前の検討から導入、そして現況まで、各ディメンションを確認し、これから導入しようとしている上越市にとっての参考点を抽出してみたい。
《考察》
1.導入のきっかけ
安城市議会
平成22年、市民へのアンケートを行った結果、市議会は市民の意見を反映していない、活動が分からない、市民との接点がない、情報が少ない、などの厳しい意見が上がってきた。それを受け安城市議会は「より市民に開かれた議会」=見える化が必要と考えた。以来、全議員参加による決算特別委員会の設置、閉会中の通告制質疑の実施、議員定数の削減など様々な取り組みをしてきたが、一番新しい取り組みの一つとしてタブレット導入を柱とした「ICT推進」を行っている。
上越市議会
(以下、あくまで滝沢個人の所感である点に留意いただきたい)
◎上越市議会の場合、議会改革の一環、というか現在某シンクタンクの調査で「議会改革度全国第3位」とされその‘名誉ある’地位を維持したい、その手段のひとつとしてタブレット導入を図ろうとしていると感じるところもある。
◎市民に開かれた議会でありたい、換言すれば「議会は市民のためにある」という当たり前のこと、しかし最も大切なことを確認し、それを目的の地平(最終目的)に据え、手段としてタブレット導入を図ろうとした安城市議会は、上越市より頭ひとつ意識が高いという感じだ。
◎またタブレット導入のプロジェクトではなく、ICT化という大きなくくりの一手法としてのタブレット導入としているところも見習う点ではある。
◎少なくとも上越市議会としても、安城市議会のような、根本の確認を今一度しておくべきであろう。
2.ICT推進へのプロジェクト発進
安城市議会
平成27年「安城市議会ICT推進プロジェクトチーム」発足。年度中に15回の会議を開催した。メンバーは、6名。※議員定数28名
上越市議会
◎安城市議会は定数28名でプロジェクトチームの人数は6名。
◎上越市は、議運のメンバー全員がプロジェクトチームメンバーとされている。9名+オブザーバーとして議長・副議長。実質11名のプロジェクトチーム。
◎会派数などの条件もあり致し方ない面もあるが、正直言って多すぎる。船頭多くして…云々、あるいは尖ったアイデアが丸められ平凡になる可能性もある。できれば具体のシステム設計を行う5名ほどの特任チームを編成し、他の委員は承認機関として存在するというかたちにならないか、と思う。
◎会議を年15回開いたことには少々驚いたが、確かにそれくらいのスピード感と集中が必要だ。上越市議会もそうあるべし。
3.プロジェクトチーム(以下PT)での検討事項
安城市議会
論点整理を行ない、ICT化の目的と効果を明確にした。
⑴目的 ①議会運営の効率化・迅速化
②議会の見える化・魅せる化
③危機管理体制の強化
④議会の活性化・議員の資質向上
⑵効果 ①定量効果 特に人件費・ペーパーレスによる紙の節減・業務スピードアップ
②定性効果 とくに市民への情報の伝達力のアップ
上越市議会
◎これらの論点整理は、そのままいただきたいくらい、すっきりまとまっている。
◎が、すでに上越市議会でも、論点整理にかかっているので、今は触れない。
4.ICT化は議会単独か、行政側も同時にICT化するのか?
安城市議会
結果としては、行政側(市執行部側)は参加せず、議会単独でのICT化を推進することとなった。
上越市議会
◎現在上越市において、行政側は導入に対し消極的である。このままいくと安城市と同様、市議会単独の導入となりかねない。が、それで導入の意味はあるのだろうか、極めて疑問である。単にペーパーレス化のために行うのであれば、その在り方も可だろうが、議会や委員会の先進化や「見える化」に大きく資するとは思えない。
◎安城市議会のICT化への取組は画期的であるが、行政側の参画がないという時点で、色あせているようにも感じられる。
◎上越市議会としては、行政の参画を強く要請するべきだ。同時でないにしても、年限を区切り導入を約束させることが必要であろう。
5.システム構成・ハード・費用など
安城市議会
電子会議システム ⇒ Sidebooks ※採用理由 操作性の良さ
ハード ⇒ ipad Pro 12.9インチ ※採用理由 操作の容易さ・ほぼA4サイズの画面
導入費用 ⇒ 契約形態はレンタル 私費無し・公費2500円・政務活動費2000円
※レンタルの理由 買取りだと市の資産となり、庁舎外に持ち出せない
故障修理は無償 紛失も年2回までは無償
上越市議会
◎すでに上越市議会でも検討を始めており、これについては論評しない。
6.ICT利用のルール化
安城市議会
◎タブレット端末を庁舎外へ持ち出し可能
◎常に携帯を心掛け、スキルアップを図る
◎標準以外に必要なソフトは各自判断でインストール
◎議員活動と無関係な用途に用いることは禁止
上越市議会
◎タブレット端末を持ち出せないことはあり得ないということだ。
◎議案に関わること以外の利用、例えば資料サーチなど、当然行えるべきだし、議員一人ひとりのモラリティの範囲で、自由に使えなくてはならない。そうでなければただの箱である。
7.ICT化推進のプロセス
安城市議会
27年5月 FAX廃止・すべて電子メールで情報
8月 全議員で、ペーパーレス会議のデモンストレーションを実施
11月 システム・グループウェア決定
12月 タブレットをipadPROに決定
28年1月 納入業者決定
2月 使用基準決定
同月 タブレット・ペーパーレス会議システムの利用講習会を実施
3月 以降、議会の会議等で、すべてタブレット端末を利用し実施
上越市議会
◎このスピード感、見習うべし。
8.紙とタブレットの併用について
安城市議会
当初の予定は1年間併用、紙は不要との声が上がり、6月議会より全議員がタブレットを活用。
紙の削減率は累計で、74.5%の減
上越市議会
◎議員から紙不要との声、これに一番驚いた。
◎現在、上越市議会では、1か年度など一定期間の紙タブレット併用(しかも全員)の方向へ向かっているが、安城市の例からすれば、上越市でも完全ペーパーレス化が早まるかもしれない。しかし、議員の平均年齢が少々違うようであるので(上越市の方が高い、現在約62歳平均)、どうだろう。
◎紙の削減率はこんなものかと思う。
9.今後の課題
安城市議会
◎手書き入力の改善
◎編集画面と閲覧画面の切り替えの簡易化
◎同一アプリケーションの複数表示ができない
◎改選後のタブレットの入れ替え
◎ペーパーレス化事態は目的ではなく、
議員活動の充実が本来目的であることを確認しなくてはならない
◎定期的なフォローアップの必要性
上越市議会
◎タブレットの場合、手書きが非常にやりにくいし、綺麗にいかないのは宿命的ともいえる。タブレットのタッチパネルに直接書き込んだり、マウスで書き込んだりするだけでなく、机上に広げるマット型の入力システムも併用すべきである。これは議員自身が揃えることができるので、それぞれが工夫すれば済むことであるが。
◎同一アプリの2画面表示ができない点だが、システム自体の改良を業者に望むというより、単に二つのタブレット、PCを並べれば済む話で、それでよいのではないか。
◎定期的なフォローアップは当然であろう。
《総括》
◎導入は決まっているのだから、その方向へ向かう点はぶれてはならない。が、行政側の参画がないタブレット導入にどれほどの意味があるのか、今一度確認することは許されよう。
◎プロジェクトチーム内の少人数の特任チームを編成することをご検討いただきたいことを再度記しておきたい。
以上