僕のように外交インテリジェントほぼ零に等しいものにとって、佐藤優氏の数多の外交分析には常に瞠目させられる。彼の理屈、彼の思想をそのままコピー&ペーストしてはいけないよという警鐘がかすかに脳みその奥から響いてくるのだが、大脳皮質あたりは佐藤氏の言葉を幾度もリフレインさせ自分の言葉に思えてくるように僕を仕向ける。
例えばこんな佐藤氏の言葉に僕の脳は浸されている。
今月号の文藝春秋『古典でしか世界は読めない』より、「キム・イルソン略伝」に記されている日本観を逆手にとって北朝鮮に対する外交戦略を構築すればいいというくだりを少々長いが引用させていただく。
「(キム・イルソン略伝には)金日成の日本観が端的に示されている。(中略)以下の四点からなる見事な喧嘩の技法だ。」
「一.日本に対して、いかなる幻想や期待も持ってはいけない。二.日米同盟にくさびを打ち込み破綻させる。三.国際舞台で日本を孤立させる。四.日本国内の反政府勢力との連携を深める。」
(中略)
「それならば、日本としてはこの技法を逆用し、以下の四点に留意すればよい。」
「一.北朝鮮や中国に、対日関係の改善が自らの国益を増進することになるという外交戦略を構築する。二.武器輸出三原則の緩和と機動的運用、TPPへの参加を加速し、日米同盟を実質的に深化させる。三.慰安婦問題、歴史認識問題などで、国際的に日本が孤立しないようにする。四.日本社会が結束を強め、外国に付け入る隙を与えないようにする。」
これが書かれたのは、少なくても二週間は前だろう。
いままさに安倍首相が歴史的認識論の修正をせざるを得なくなっているのをまるで予言しているかのようだ。
首相は佐藤氏が挙げた「二.日米同盟の深化」には積極的であるのは確かだが、「三.歴史認識問題」でわきの甘さを露呈した。
佐藤氏のような異能のインテリジェントが、これからの日本外交にはもっと必要になってくるのではないだろうか。ラスプーチンも時代が時代なら、聖人となっていたかもしれないのだ。
僕の脳細胞は、今回もまた佐藤氏の言葉に震え、いくどもこだまを響かせている。