2023年4月 葉山にて

 

 

 

 

 

 

四 季

長谷川 櫂氏 選&解説

 

坪内稔典 最新句集『リスボンの窓」から十首

 

<出アフリカの 午前のように 黒揚羽>  坪内稔典

何と軽快な言葉たちだろうか。出アフリカ、午前、黒揚羽。互いに指先だけ触れながらダンスを踊っている。人類の祖先は大昔に東アフリカで誕生、世界中に広がった。これが出アフリカ。

 

 

<弟よ 鰆(さわら)一本 提げて来い>

すぐ近くに住む弟に電話でもかけているような雰囲気。ところがこの句のいくつか前に「油蝉ばっか弟三回忌」があって、すでにこの世の人ではない。それがわかれば、遺された兄のやるせない気持ちもわかる。

 

 

<抱いてむく 土佐文旦も 思い出も>

朱欒(ざぼん)文旦(ぶんたん)のこと)は大きな蜜柑(みかん)。なかでも巨大な晩白柚(ばんぺいゆ)となると抱いてむくのも一苦労、これは土佐文旦をわが胸に押しつけて割っているところか。あなたとの思い出もこんなふうに大事にしている。

 

 

 

<腸捻転 超超捻転 蝶(ちょう)捻転>

あまり大きな声ではいえないが「坪内腸捻転さん」と呼びそうになることがある。この名前のおもしろさを自分でも察知しておられるのだろう、こんな句が生まれる。最後の「蝶捻転」はクルリと宙返りする蝶。

 

 

<東風(こち)吹いて アイツが好きで やや困る>

野球でもラグビーでも敵チームの選手なのに馬が合う。そんな「アイツ」がときどきいるものだ。目先の利害対立を超えた人間対人間の付き合い。「やや困る」だろうが、そんな「アイツ」のいない人生は殺風景。

 

 

<机辺とか 帰帆とか好き 雲は春>

軽い音のハ行(パ行を含む)は、稔典さんの俳句で特別の位置にある。「三月の甘納豆のうふふふふ」とか「たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ」とか。この句は四つ。この音を軸にいろんな言葉が結びつく。

 

 

<恋情は 水槽の蛸(たこ) 動かない>

恋の悩みの一句。心の奥にわだかまる恋の思いをつくづく観察すれば、水槽の底にうずくまる蛸のようじゃないか。八本の足をからませ、その奥の臆病な目で世界を眺めている。痛手を負った蛸のようである。

 

 

<卓上を 転がり影を 曳(ひ)いて梨>

椅子にかけるまでモナリザは何をしていたのか。立ち上がったら何をするのか。絵画は一瞬の静止画像、その前後は鑑賞者の想像力に委ねられる。言葉は動きを描くことができる。

この句は卓上を転がる孤独な梨。

 

 

<捩花(ねじばな)と キース・ジャレット だけでよい>

キース・ジャレットの「ケルン・コンサート」。20代のころ、レコードを聞いて、こんな静かな人生が送れたらと思った。その願いは叶ったのかどうか。捩花は作者が愛する野の花。捻(ねじ)れて(捻転)いるからか。

 

 

 

<夏がゆく たっぷんとっぷん 海の音>

おとぎ話「桃太郎」の「どんぶらどんぶら」は 大きな桃が川を流れてくる音。この句の「たっぷんとっぷん」は太平洋のような大海原がゆっくり揺れる音。過ぎ去ろうとする夏を海自身が惜しんでいる音である。

 

 

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孫が我が家に泊まる折、娘は「お母さん何にも構わなくていいからね」と私に言い、孫へは「おばあちゃんの手を煩わさないように!」と言ってるのです。

 

今日早朝、使った布団を干しに来て、先ほどそれを仕舞って帰っていきました。

 

義息子と買い物へ連れていってくれましたので、🌸花弁がチラチラと散る葉桜🌸を眺め、少しの時間ながら満足して戻ってきましたよ。