今朝方 7時

 

 

 

 

 

 

 

讀賣新聞 編集手帳から

 

夜、ウミガメは陸へ上がって産卵し、波に帰っていく。

生態研究の糸口になるのは砂浜に残された足跡。

ある種のウミガメは水泳のクロールのようにひれを交互に動かし、左右の足跡が互い違いになる。体の大きい種はバタフライ式で進むから揃う。両方の特性に想を得て、月面の砂で車輪が空回りしないロボットを創り上げた。

月探査機「SLIM(スリム)」が着陸の際、地表に降ろした「SORA-Q(ソラ―キュー)」である。

野球ボールほどの球体はパカッと開いて両輪になり、左右自在に回転して斜面を駆け巡る。月の光景をカメラに収め、地球へ送信する。

 

開発には、玩具会社や大学が加わった。革新的に小さく軽い機体は、世代も仕事も違う人が持ち寄った英知と、日本が得手としてきた技術力の結集だろう。近年、研究開発力は低迷し、科学論文の数もふるわないといわれる。だが、数値では測れないものづくりの力が、ときに人の心を揺さぶり夢を広げる。

 

SORA-Qは38万㌔の彼方から映像を届けてくれる予定。自分のわだちは収めたであろうか。宇宙の歴史に刻まれる足跡である。

                  (2014・1・23)

 

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月着陸成功 

月探査機「SLIM」を運用する宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の地元・相模原市では20日未明、

パブリックビューイング(PV)が市役所やJR淵野駅前で開催された。

「世界から注目されるSLIMが相模原で開発、運用されていることを誇りに感じている。JAXA関係者の並々ならぬ努力に敬意を表したい」(相模原市長;本村賢太郎氏)

 

月探査機「SLAM」の「脚」は小田原市の鋳造会社「コイワイ」が制作した。自動車部品などを作る同社が開発したのは、探査機に装備された5本の脚の部品。アルミニウムを3Dプリンターで網目状のドーム形に成形し、着陸時に潰れることで衝撃を吸収して本体を守る役割を持たせた。

2016年頃にJAXAから依頼があり、共同研究を開始。50種近い試作品を製作しては潰す実験を繰り返し、2年ほどかけて部品を完成させた。

 

同社とJAXAの共同研究は今回が初めてではない。18年11月には、国際宇宙ステーション(ISS)で作られた、たんぱく質の結晶などを地球に持ち帰った小型カプセルの姿勢制御に関する部品を任された。

 

ただ、22年に月面着陸を目指した探査機「オモテナシ」では、衝撃吸収部品を製作したものの、打ち上げ後に通信が途絶えて着陸を断念。宇宙開発のハードルの高さを痛感した。

 

20日未明の歴史的快挙の達成を、小岩井修二氏(66)は「歩みを止めずに進み続けるという思いを込めた『今日のスペシャルは明日のスタンダード』とのわが社のスローガンを体現できた」と胸を張った。

 

           (2021・1・21 神奈川県版から)