四 季

江戸の川柳十句の内の三句

『誹風柳多留』から

 

        長谷川 櫂氏 選&解説

 

鬱陶しい気分を一新するには笑いが一番

 

下三角 借金を いさぎよくする祭まへ 

江戸っ子でも借金はさすがに気が引ける。とはいうものの先立つものがなくては、というのだ。何かと鬱陶しい昨今。気分を一新するには笑いがいちばん。庶民のたくましい暮らしぶりをのぞいてゆこう。

 

下三角六月は日帰り 春は御逗留(ごとうりゅう)

おや何の事?と思うだろう、これだけで「ははん」と膝を打つ人は勘が良い。答えはお雛さま。旧暦六月水無月は今の七月ごろ。

土用の虫干しのことなのだ。日のあるうち風に晒して、夕方には取り込む。なぞかけみたいな川柳である。

 

下三角にわか雨 昼寝の上へほうり込み

急に夕立が降り出した。あわてて干し物を取りこむおかみさんだろうか。そこまでは良いのだが、干し物の山の下には昼寝の亭主が。小さな部屋に小さな縁、その外に小さな物干しのある小さな庭。住まいの構造までいきいきとよみがえる。

 

 

 

 

 

稲垣栄洋氏の植物図鑑

1968年、静岡県生まれ。農学博士、静岡大学教授(雑草生態学)   農林水産省や静岡県農林技術研究所などを経て現職。

著書「植物はなぜ動かないのか」「身近な野菜のなるほど観察録」  「身近な雑草の愉快な生きかた」   「生き物の死に

ざま」等

 

教科書を開いても分からない雑草の不思議さに魅了された。

 

黄色い花鑑賞用のユリは発芽から花が咲くまで数年かかるが、雑草のタカサゴユリは花が咲くまで数か月かかる。タカサゴユリの特性を生かし、早く咲く鑑賞用のユリの育成に成功。

 

黄色い花道草が多かったが、何一つ無駄なものはなかった。雑草学という軸を持っていたお蔭。

 

黄色い花教壇で学生を前にすると、雑草の名前を調べるために植物図鑑を開き、コウガイゼキショウだと分かった時の気持ちの高ぶりを思い出す。指導教官があえてその名前を教えずに観察させることで、探究のおもしろさに気づかせてくれた。「自分で学んだことこそが力になる」

 

     (2020・6・1 たからもの から)

 

 

 

 

 

               

           2020・6・3 文化 歴史から

 

       関根達人・弘前大教授近著

     『石に刻まれた江戸時代』

北海道から九州まで全国で調査した江戸時代の石碑を通じて

苦難と向き合った先人の教訓を紹介している。

 

        石碑に刻んだ災厄

卒業証書石碑に刻まれた文字の中には、疫病や飢饉など過去の惨状を今に伝える貴重な情報が残されている。

 

卒業証書江戸時代は識字率の向上や石を運搬する海上交通網の整備などを背景に各地で多様な石造物が建てられ、災害や大火などの被害を伝える石碑も急増した。「死者を弔う供養碑は、それまでも盛んに造られていたが、江戸時代の人たちは子孫に教訓を残すため、より実用的なメッセージを碑に残そうとしたのだろう」

 

卒業証書東日本大震災を機に、過去の津波の到達点などを示した地震関連碑の重要性が注目されたが、新型コロナウイルスの流行で関心が高まる疫病の記録が刻まれた石碑も各地に存在する。

 

       安政コレラ禍 万人講の祈り

卒業証書埼玉県越谷市;安国寺

「去年の七月ばかり いとあやしき疾出来(やまいしゅったい)

コレラ流行時の様子を伝える一文から始まる。医者を迎える間もなく、数え切れぬ人々が命を落とす中、周囲の村から安国寺に集まった人々が様々な物を仏前に供え、昼夜を問わず死者を弔った。この「万人講」に参加した人は証しに石碑を建てたという。

 

       天明飢饉 備蓄の教訓

卒業証書青森県八戸市の対泉院にある天明の飢饉(1783~84年頃)の供養塔には、作物が実らず、疫病が流行し、多くの死者が出た農村の被害状況が刻まれる。蕨の根を掘り、海藻や山草のみならず、稲の茎や稗(ひえ)の茎も切って食物としたが、餓死者が絶えず、押し込み強盗なども相次いだ。領内では、人口の半数に近い3万人余りが亡くなる、前代未聞の事態だったという。

 

対泉院の供養塔には飢餓に備えて、「米穀などはきちんと貯蔵しておくべきである」と食糧備蓄の戒めも刻まれている。

 

卒業証書”コレラ禍”を乗り越えた信心深い住民の団結力、餓死者が相次ぐ村の悲劇ーーー。いずれも、医学が未発達な江戸時代における闘いの貴重な記録だ。不特定多数の目に触れる屋外の石碑は、より多くの人にメッセージを伝える点で効果的だった。

 

「古文書などと比べ、歴史研究で軽視されがちな石碑の文章だが、多大な労力をかけて石に文字を彫る以上、選び抜かれたメッセージが込められている」 と重要性を強調。

未曽有のコロナ禍の教訓を後世に残す意味でも、石碑に託された先人の思いの強さに学ぶべきことは多い。

 

 

 

 

 

 

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