★家も子も構はず生きよと妻言ひき
怒りて言ひき彼の夜の闇に
高安国世(たかやす くによ 男性)
1913年~1984年
歌人・ドイツ文学者(専門はリルケ)
夫と妻との危機をはらんだ作であり、暗鬱な葛藤を含んでいる。
「家も子も構はず生きよ」という内容は具体的にはわからない
けれど、世俗の常識など棄てられるのなら棄てて生きよ、という
のが妻の怒りをこめた言葉であった。それは学者としての道に
立てよ、という、単純なものではない。人間関係の割り切れなさが
隠された、どこか短編小説になりそうな「彼の夜の闇」の出来事で
あった。 「生きよと妻言ひき怒りて言ひき」には息を入れる隙の
ない迫真力があろう。
★かなしみをかなしみとして嚥(の)むごとく
冬夜ねむればわれあたたかし
坪野啓久(つぼのてっきゅう)
1906年~1988年
歌人 ・ 妻 山田あき 歌人
ある達観の境地をもつ作者の姿勢が見える。かなしみをかなしみ
として嘆くじめじめしたものはここでは省略され、「冬夜ねむれば
われあたたかし」として転生してくるのである。かずかずの困難を
経過した末に得た思いなのであろう。熱時熱殺、冷時冷殺という
禅の至り得た言葉を思い出させる一首ではある。
★リラの花 卓(つくゑ)のうへに匂ふさへ
五月(さつき)はかなし汝(なれ)に会はずして
木俣 修(きまた おさむ)
1906年~1983年
歌人・国文学者
リラの花のもつロマンと「汝に会はずして」という思い入れの
柔軟さが、この一首を何と美しい世界に招き寄せてくれること
だろうか。
怒りて言ひき彼の夜の闇に
高安国世(たかやす くによ 男性)
1913年~1984年
歌人・ドイツ文学者(専門はリルケ)
夫と妻との危機をはらんだ作であり、暗鬱な葛藤を含んでいる。
「家も子も構はず生きよ」という内容は具体的にはわからない
けれど、世俗の常識など棄てられるのなら棄てて生きよ、という
のが妻の怒りをこめた言葉であった。それは学者としての道に
立てよ、という、単純なものではない。人間関係の割り切れなさが
隠された、どこか短編小説になりそうな「彼の夜の闇」の出来事で
あった。 「生きよと妻言ひき怒りて言ひき」には息を入れる隙の
ない迫真力があろう。
★かなしみをかなしみとして嚥(の)むごとく
冬夜ねむればわれあたたかし
坪野啓久(つぼのてっきゅう)
1906年~1988年
歌人 ・ 妻 山田あき 歌人
ある達観の境地をもつ作者の姿勢が見える。かなしみをかなしみ
として嘆くじめじめしたものはここでは省略され、「冬夜ねむれば
われあたたかし」として転生してくるのである。かずかずの困難を
経過した末に得た思いなのであろう。熱時熱殺、冷時冷殺という
禅の至り得た言葉を思い出させる一首ではある。
★リラの花 卓(つくゑ)のうへに匂ふさへ
五月(さつき)はかなし汝(なれ)に会はずして
木俣 修(きまた おさむ)
1906年~1983年
歌人・国文学者
リラの花のもつロマンと「汝に会はずして」という思い入れの
柔軟さが、この一首を何と美しい世界に招き寄せてくれること
だろうか。