本作は、直球のタイトル+ファンタジックな表紙絵の効果かずいぶん書評に取り上げられていた記憶があります。合コン目的の大学サークルが女子学生を泥酔させてレイプする事件が多発し始めた頃。早稲田大の事件が突出して有名になったので、ここで下敷きになっている東大サークルの強制わいせつ事件はよく憶えていません。

主人公の美咲は横浜の中流家庭に育ち、良妻賢母の女子大へ。往年の美人女優に似ていると言われたりもするが、おくてで服装もやぼったい印象。事件を起こすきっかけとなる彼氏ほか東大生たちはほとんど裕福な家庭に育ち、母親たちも高学歴なキャリアウーマン多数・・・という設定。物語は彼らの中学時代からそれぞれ始まり、出逢い、終盤になって事件が起こる。

恋に恋する世代の女子と、大学名を旗印にすれば多くの女子大生が集まって来ることに味をしめた男子たちがちょっとしたきっかけからすぐLINE交換し、飲み会やカラオケに興じる描写は、その埒外にいた元・昭和のワセジョには腹立たしい展開です。

 

実際にこの事件が起こった2016年、ネットでは「東大生だからといって相手のマンションまでついて行き泥酔した女性も悪い」という批判が沸騰したらしい。基本的には同意だが、

(ネタバレになるが)一次会時に1万円で支払い、初対面の幹事に「おつりは後で返す」と言われていること、二次会には以前会ったことがある他の女性も居たことなどで、ついて行ってしまった経緯は同情の余地がありました。LINEだけで初対面がどんどんつながる今の時代はやはり危うい。

 

姫野カオルコは初めて読んだが、ベテラン作家の力量を見せつけられる思いです。「彼女は頭が悪い」と思っているのは東大生の側で、ヒロインもなかなか機転が利くところを見せるし、最後は因果応報が待っている。だからといって爽やかな読後感は得られない小説。

 

大学時代は遠い昔になったが、今度は親として見過ごしている部分はないか、錚々たるキャリアウーマンの男子側の母たちの描写に重ねて考えさせられるところはありました。