アンダー・ユア・ベッド | わたしと本と映画と

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覗いていたい。このままずっとー 

親からの愛情も受けず、友人どころか、卒業アルバムに写っていなくてもクラスメイトの誰一人気付きもしない、誰からも名前すら呼ばれた事の無い孤独な三十歳の青年、三井直人。三井の唯一の幸せな思い出は、大学時代に困っていた自分を三井君と呼んでくれて助けてくれた佐々木千尋との淡い思い出だけだった。

千尋は明るくて可愛くて、三井は自分とは間逆な眩しい存在の千尋に心をときめかせる。一緒に飲んだマンデリン、自分が趣味で育てているグッピーを千尋に譲ってあげた事、その淡い思い出だけで三井は一生孤独と共に生きていけそうだったのに、ある日千尋が身に纏っていた香水と同じ香りを嗅いだ瞬間に、千尋への思いが溢れ出す。

会いたい、もう一度三井君と呼んで欲しいー
三井は興信所を雇い、現在は結婚している千尋の新居を突き止め、偶然の再会を装い千尋に会いに行く。もしかして三井君じゃない?と千尋が言ってくれる事を期待していた三井だったが、千尋は三井とすれ違っても三井だと気付きもしない。そして学生時代はあんなにキラキラと輝いていた千尋なのに、今は暗く元気が無く虚ろな瞳をしていて、現在の結婚生活が幸せなものでは無い事は一目瞭然だった。

千尋と再会を果たした三井は、勤めていた観賞魚店を辞めて、千尋の家の近くに観賞魚店を開店する。そして千尋の家を監視し始める。千尋は思っていた通りに夫からDVを受けていた。三井は思い出す。学生時代にも恋人からDVを受けていた千尋を救った事、そして千尋と結ばれた事を。

三井の経営する観賞魚店にやって来た千尋。けれど三井にはやはり気付きもしない。そして学生時代に三井がグッピーを譲ってあげた事も忘れてしまっている様だった。三井はまた、グッピーを千尋に無料で譲ってあげる事にして、千尋の家に入る事に成功する。そして合鍵を無断で作り、盗聴器を設置し、不法進入を重ねる。DVを受けている千尋の声を聴きながら、助ける事が出来ない三井は、自分自身を責める。助けたいのに助ける勇気が無い、自分はただ見守る事しか出来ないのかー

三井がしている事は、明らかなストーカー行為。盗撮、盗聴、不法進入。それはもう愛とは呼べない。けれどDV被害を受けて傷付いている千尋は、誰かに監視されていると気付きながらも誰かに見守られている事に安堵感を覚える。誰かいるなら誰でも良いから出て来て、助けてー
それ位に千尋は追い詰められていた。そして三井は思い出す。学生時代にグッピーを千尋に譲る約束はしたけれど、結局千尋に断られていた事を。恋人から千尋を守り、二人が結ばれた事も自分の妄想だった事をー
だからこそ、今度は絶対に千尋を助ける、守る、そう決意する三井。千尋が自分を思い出してくれて、三井君、と呼んでくれた瞬間の三井の嬉しそうな顔。もうそれだけで、たったそれだけで今度こそ三井は一生孤独と共に生きていける事だろう。

けれど…私には全てが三井の妄想に過ぎなかっかもしれないという思いを払拭する事がどうしても出来ない。千尋との再会も、ストーカー行為も、千尋の夫を殺害してしまった事も…
三井は妄想の中でしか生きて行く事が出来ないのかもしれないと感じずにはいられなかった。

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