永遠に僕のもの | わたしと本と映画と

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「みんなどうかしている。もっと自由に生きられるのに」

そう呟きながら留守宅の豪邸にするりと入り込み、勝手にレコードをかけて一曲踊ると、宝石などの戦利品を手に盗んだバイクで帰宅するカルリートス。
ブロンドの巻き毛に透き通る瞳、艶やかに濡れた唇と陶器の様な滑らかな素肌。神様が愛を込めて創ったとしか思えない美しすぎる十七歳の少年だ。

存在するだけで数多の人を魅了する彼は、黙っていても、微笑むだけでも"欲しい"と思えるもの全てを手に入れる事が出来るであろうと感じるのだけれど、彼は強盗を繰り返す。彫刻の様に魅力的な彼が欲しいと言えば与えてもらったり譲ってもらえるだろうけれども、それではカルリートスは満足出来ないのかもしれないと感じる。盗み、奪う事により快楽を感じていて、その行動は日常と化していた。

カルリートスの両親は至って善良で常識的な夫婦で、強盗を繰り返す息子を心配し諭すのだけれど、その想いは悲しい事にカルリートスには届かない。何故なら彼は罪悪感や倫理観を持ち合わせていないから。他人のものなんて存在しない、全部僕のものなのだからー

やがて新しい学校で出逢った荒々しい魅了を放つラモンと意気投合したカルリートスは、ラモンに仲間や相棒以上の感情を覚え、ラモンはカルリートスにとって特別な存在となっていく。

ラモンの父親も母親も犯罪者で、ラモンは産まれながらの犯罪者でそういう意味ではカルリートスより不幸な境遇だなと感じた。生まれ育った環境が違っていれば、もっと違う人生を歩めたはずだ。ダンサーにだってなれていたかもしれない。

カルリートスはラモン家族と出逢った事により、拳銃を手にし、強盗も大胆なものへとエスカレートしていく。拳銃店を襲撃し拳銃や銃弾を根こそぎ奪い、宝石店から根こそぎ宝石を奪い、目撃者は即座に射殺する。宝石店にあった大きな金庫が気になったカルリートスは、バーナーを持ってきて開けようと提案するのだけれど、ラモンに危険過ぎると却下される。あの金庫にはきっと素晴らしいものが入っているはずなのにー

そして盗んだ絵画の処理の為に裕福なフェデリカという男に接触を試みるカルリートスとラモン。フェデリカは有名な男色家で、ラモンはフェデリカに気に入られ特別な関係になって行き、カルリートスは不安と苛立ちを抱く様になっていく。自分は見捨てられるのではないか?現に盗難車に乗っていたカルリートスとラモンが検問で捕まった時も助けてくれたのはフェデリカだった。そして上手く立ち回り留置を免れたカルリートスが、保釈されたラモンに会いに行くと、ラモンは留置所で親しくなったミゲルという男を新しい相棒にしていた。

ラモンにとって相棒は自分じゃなくても良いのか?そしてミゲルからラモンは犯罪から足を洗って、フェデリカとフランスへ行くと聞かされたカルリートスは、ラモンを行かせない為にわざと車で衝突事故を起こす。ラモンは永遠に僕のものー

自分もラモンと一緒に死ぬつもりだったのかは分からないけれど、生き残ったカルリートスはミゲルを相棒にしてあの宝石店をもう一度襲撃する。あの金庫、あの金庫の中にはきっと素晴らしい何かが入っているはずなのだからー

カルリートスが犯罪を犯していたのは決してお金が目的だったからではない。漠然とした虚無感を埋め合わせる為の手段に過ぎなかった。スリルと快楽で虚無感は消えた様に思えていても、本当に欲しいものは決して手に入らなかった。邦題は「全部僕のもの」で良いのではないかと感じていたけれど、カルリートスのラモンへの想いに気付いた瞬間に邦題が愛おしいものとなった。

何を奪っても手に入れても満たされない、空っぽなカルリートスの心。それはまるで何も入っていなかった宝石店の金庫の様にー
カルリートスが最後に流した涙、最後に訪れた場所。今度はラモンと一緒にダンスを踊れていれば良いのだけれど。

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