さて、そんな超胡散臭いツルコー野郎と焼き肉屋に行くことになりまして。なぜ知り合いのやってる店に行ったかというと、

やばそうな展開になったら裏口から逃がしてもらうためです。

 

いやはや他人の金で食べる焼肉は旨いものでしてね。特上カルビやら特上ユッケ、ワタリ蟹のケジャンとか高い物をジャンジャン注文しちゃいましたよ。

「悪いねぇ、こんな上等なものご馳走になっちゃって」

「どんどん食ってどんどん飲んでくださいよ、先輩。こんなの経費で落とせますから!」

ん?経費で落とすだと? 堅気の営業マンには見えないし、しょーもない商売やってそうだなと思いましたね。

で、こちらは常連客を観察しつつ小耳にはさんだどうでも良さそうな話をもったいぶって小出しにしつつ、ツルコーの素性を探ったわけです。

パチンコ屋のマネージャーは毎晩釘をいじってるとか、カウンターのお姉ちゃんとデキてるとか、品の良い奥様は釘の甘い台をこっそり教えて貰ってるとか、そんなどうでもいい常連客の噂話をテキトーに聞かせてやると、そりゃもう喜んじゃいましてね。

「先輩、やっぱ俺の見た通り、素人じゃありませんでしたね」

「へ?俺、まったくズブの素人だけど?」

「またまたぁ、とぼけないでくださいよ。誰にも言いませんから。俺と先輩の仲じゃないっすか」

いや、お前とはまったく仲間でも友達でもないし、何を言ってるんだか。と思いながらビールの大ジョッキをお替りしました。そんなふうにツルコーを喜ばせたり酔わせたりしながら聞き出した奴の素性とは、そりゃあもう胡散臭いなんてもんじゃありませんでした。

「俺ね、車でお釜掘られましてね、で、さんざんゴネて賠償金がっぽりふんだくったんで、それ元手にして保険の代理店始めたんすよ。ベテランのおばちゃん二人と若い姉ちゃん五人雇ってね。まあ一応社長ってわけです」

保険の代理店自体は堅気のまっとうな仕事なんですが、

どうやらツルコーは若い姉ちゃん使ってデート商法まがいの営業してるんですね。

 

古き良き時代の保険の営業って、ちょっとお色気使ったりなんてのは普通にあったのですが、それはあくまで個人の才覚や手腕でやるものという認識だったんです。ところがツルコーはお色気営業に特化した戦略で、その指南役としてお姉ちゃんたちに逐一指示をあたえているのです。

そこそこ従業員数の多い企業に営業をかける。狙うは入社したての若い男。服装は膝上のミニスカートとか、いわゆるボデコン(懐かしや)の身体の線を強調するもの。夏は胸の谷間なんか見せたりしてね。

最初からガツガツ営業せずにお菓子や飲み物の差し入れなんかしつつ、電話番号やメルアドの交換をする。その後は徹底的にスキンシップ戦略ですよ。手を握ったり太ももに手を置いたり、会話中に肩に抱きついたりとかね。

メルアド交換後はツルコーがメールの文面を指示するんです。会社の外でお茶しませんかぁだの、美味しいごはんのお店知りませんかぁとか、そうやってジャンジャン保険の契約とりまくるわけです。でもまぁ、本物のデート商法と違って、販売してるのは正規の保険商品ですし、インチキアクセサリやら絵画なんかを高額で売り付けて無理やりローン組ませるわけでもない。合法的な商売ですし、お姉ちゃんたちにはなんの罪もありませんよ。でもねぇ、、若い男たちのメールを読んで、カモが葱しょってやってきたぁと爆笑しながら、今度その美味しいお店連れてって下さーいとかツルコーが返信してるんですよ! ヒドイと思いませんか?

ツルコーがやってるのはそういったデート商法的なノウハウ指南であって、いわゆる通常の社長業務やら事務作業なんてまったく出来ないし、するつもりもない。だから当然出社もほとんどしないし、ベテランのおばちゃんに事務所まかせて外で遊んでいるんですね。

(最終的におばちゃんとお姉ちゃん達が結託して新事務所を設立したんで、ツルコーは孤独の身となったんですけど)

さてツルコーの素性はこの辺にして、パチンコの話をしましょう。

酔いがまわってきたツルコーは本命の質問をして来ました。

「先輩、あのパチンコ屋、磁石対策してますかね?」

うわ、こいつゴト師かよ! それにしても磁石とか古典的過ぎないか??

その頃のパチプロってのはゴト師といって、違法な手段を使って稼ぐヤカラが大部分でしてね、おそらく8割とか9割とかそんな連中です。なんで私がそんなこと知ってたかというと「釘師サブやん」という漫画を読んだことがあって、磁石だとかワイヤーだとかテグスだとか、変わったところではバターや整髪料を玉に塗ったりとかいろんなワルさを仕込むゴト師と日々戦う釘師の姿を知っていたからなんです。私?私はゴトなんてやりませんでしたよ。数少ない攻略プロをやったんであって、違法な行為は一切やってません。

「何?磁石使うの? どんな磁石使うのよ?」

「見ますか?今持ってるんすよ」

そういってツルコーは小さめのセカンドバッグからへんな塊を出しました。大きさはスマホを2枚重ねした位の物で、布袋に入れてあるんです。それをバッグに仕込んでさりげなく台に近づけて球を誘導するらしいです。

「これ、高田の馬場のプロから2万円で買ったんすよ」

バカじゃね?コイツ、そんなもん500円くらいで買えるだろ。と、私の侮蔑的な想いに気が付いたツルコー、

「あ、これ、警報とかにひっかかりにくい特殊な磁石なんすよ!」だって。

ああ、こいつ救いようのないアホじゃん。普段、若い男の純情を弄んでだましてるくせに、自分もコロっと騙されてやんの。

そして私は次の日、本物のパチプロ、攻略プロと運命の出会いをすることになるのです。

 

その➂に続く

 

 

じつは私、本職は映像屋さんだったりしまして、主に音楽関係のプロモだとかライヴ映像とか、そんなのをメインでやってたりしたもんです。

まぁ最近はすっかりやる気を無くしてグウタラしていますが。

学校卒業して就職して最初に配属されたのがラジオ番組の制作やら進行の部署で、えー、ボク映像志望だったのにラジオ番組ですかぁ?などと一瞬落胆しつつも毎日生放送の修羅場を経験したりして、それはまぁそれなりに鍛えられたりする有意義な経験を積ませていただきました。

そんで紆余曲折の末、映像ディレクターだのプロヂューサーなんちゃらになったりしたんですね。

この辺りの話に興味ある人も多いかと思いますので、それはまたの機会に必ずお話させていただきましょう。

 

さて今回はパチプロしてた時のお話です。

 

20代の後半に差し掛かったころ、なんだか仕事するの嫌になっちゃいまして、会社やめて、これからはフリーランスの作家様になるぞーなんて甘い考えでいたんですよ。んで、ちょこちょこ有名な監督様の助手についたりたまにショボい仕事の監督したりね。

そういう仕事ってだいたい数か月くらい休み無しのぶっ通しなんてのがしょっちゅうで、その後一か月くらいずーっと休みとか、えらく不規則なんです。

とある夏の日、次に決まってる仕事は秋からだし、それまでは一切依頼を受けずに遊んでやるぞと一大決心をいたしましてね、いや、遊ぶのに決心もなにも必要ないんですが。

それで家にいても暑いんで、そうだ涼しいパチンコ屋さんに行こう!と鼻息荒くして出かけたわけです。

結果ですか?夕方になっておなか空いたんでやめたんですが、2万円ほど負けましたね。

ええ、負けです、惨敗ですよ。

その頃(30数年前)のパチンコってのはまぁ古き良き時代のもので、勝っても負けても2万円くらい、今のパチンコって2時間で5万円負けました、3日で20万以上負けました、とかザラにあるらしいじゃないですか。

古き良き時代は、お小遣いで遊ぶ「遊戯」だったのです。

でもね、毎日毎日2万円負けました!なんて言ってるとそりゃもう大変なことになるわけで、その頃でさえ莫大な借金作ってにっちもさっちも行かなくなってしまう人もいたんですよ。

 

んで、次の日リベンジに燃える私はまたパチンコに出かけたんです。

そうして勝ったり負けたりしながら一週間位過ぎたころ、収支ちょいマイナスくらいで「遊び」としてはまぁそんなもんかなと達観してました。

私の場合、そういった遊びにハマるより、店に通う常連客を観察したり、負けを減らす作戦を考えたりするのが楽しくなっていたので、勝ち負けに熱くなったりすることはあまりなかったんです。

毎日通ってる常連客達ってのは実に不思議な人達でして、スーツを着たサラリーマンらしき人や、上品な奥様、作業服を着たお兄ちゃん、いかにも江戸っ子らしいチャキチャキしたおばあちゃんとか、、この人たち、毎日朝からパチンコ屋に来てるけどなんなの?仕事してるの?ってお前が言うか!って話なんですが、ほんとに不思議なんです。

ですから私は、その人たちに接近しすぎないように注意しながら観察しつつ、店内をあちこち見回って負けない作戦を考えたりしてたんです。

「パチンコ入門」なぞという本なんかも買ってみまして、釘の読み方とか湿度や温度、台の傾きや曜日、時間帯なんかを総合的に考慮して勝負に挑む方法なんかも知りまして、収支もほんのちょいプラスになっていきました。

 

そんなある日、超胡散臭い男が隣に座りました。

 

「先輩、調子良さそうっすねぇ、あ、コレどうぞ」

そういうとその男は2本持っていた缶コーヒーの内一本を私に押し付けてきたのです。

うわ、やべえ奴が来たなぁ、と思いつつその男を観察したのですが、年齢は私と同じくらい、服装は勤め人風なのですが、テカテカした先の尖った革靴を履いてノーネクタイで趣味の悪いネックレスなんかをしてます。

こいつ堅気じゃないな、でも本物の極道でもなさそうだし、、嫌だなぁ、こいつ。と思いましたね。

ただね、顔はどことなく愛嬌のある顔で、鶴コーさんという関西の落語家に似てるんですよ。

体格的には小柄でヒョロヒョロしてるんで私にとって身体的な危険は無さそうだと判断しました。

「自分、最近この店に来たんすけど、いろいろ教えて貰えないっすか?なんならメシでもおごりますけど」

イキなり何言うんや?コイツと思いつつ、なんかこれは面白い変わった展開かもしれないと少しだけワクワクしてしまいましたね。

脚本のネタになりそうだと、ついつい首を突っ込んじゃうのは職業病みたいなもんです。

 

「俺の知ってる焼き肉屋なら行ってもいいよ」

 

と私が言うと、

「本当っすか!行きましょう、今すぐ行きましょう、奢りますから! じゃんじゃん飲んでじゃんじゃん食ってくださいよ!」 と、そりゃもう超ノリノリでメシを食いに行くことになったのです。

 

これは長くなりそうです。

あと三回くらい連載になるな、こりゃ。

というわけで次回に続きます。

なるべく早く書きますのでお待ちくだされ。

 

 

 

 

宮沢賢治 春と修羅 序 の続きです。

(先の記事を読んでいない方はこちらからどうぞ)

   ↓

わたくしといふ現象

そのとほりの心象スケッチです

 

   

           心象スケッチ

             春と修羅

                大正十一、二年

 

          序

 

        わたくしといふ現象は

        仮定された有機交流電燈の

        ひとつの青い照明です

         (あらゆる透明な幽霊の複合体)

        風景やみんなといつしよに

        せはしくせはしく明滅しながら

        いかにもたしかにともりつづける

        因果交流電燈の

        ひとつの青い照明です

        (ひかりはたもち その電燈は失はれ)

        これらは二十二箇月の

        過去とかんずる方角から

        紙と鉱質インクをつらね

        (すべてわたくしと明滅し

        みんなが 同時に感ずるもの)

        ここまでたもちつづけられた

        かげとひかりのひとくさりづつ

        そのとほりの心象スケッチです

 

        これらについて人や銀河や修羅や海胆は

        宇宙塵をたべ または空気や塩水を呼吸しながら

        それぞれ新鮮な本体論もかんがへませうが

        それらも畢竟こゝろの風物です

        たゞたしかに記録されたこれらのけしきは

        記録されたとほりのこのけしきで

        それが虚無ならば虚無自身がこのとほりで

        ある程度まではみんなに共通いたします

        (すべてがわたくしの中のみんなであるやうに

         みんなのおのおののなかのすべてですから)

 

人や銀河や修羅や海胆?海胆って寿司ネタのウニ

のことだよね?

 

銀河は宇宙塵をたべ、、ふむ、それは宇宙に漂う流星やチリを吸収

して成長するってことね、人と修羅は空気を呼吸すると。

修羅っていうのは人間と畜生の中間に位置する階層で、賢治は自身

を修羅と定義したのです。 昭和の少年少女なら知っている

「妖怪人間ベム」みたいな立場ですよ。 早く人間になりたーーい

って叫ぶアレです。妖怪人間ベムは善行を積み悪い化け物を退治す

ることで人間に近づける設定なのですが、これって法華の行者の賢

治が日々実践しようとした菩薩行と同じですね。

つまり賢治も「早く人間になりたーーい」って思ってたのでしょう。

 

で、海胆は塩水を呼吸すると。

この水はちょっとしょっぱいなとか、なかなか栄養豊富だなとか思

うんですかね?

もちろん人間のように脳を持った生物じゃありませんから、海胆な

りの感覚で捉えるのでしょうが。

そうこうしてるうちに、この先どうやって生きていこうとか、そも

そも自分とはなんぞや?なぜ来る日も来る日も塩水を吸っては吐き

吸っては吐きしているのだろうか?なぞと考えるようになる。

いや、あくまでも海胆なりにですよ。

空を飛んでいる鳥や穀物を盗み食いするネズミとか、すべての生物

や、鉱物やらなんやらの無生物達も同じように考えるようになる。

そりゃたしかに新鮮な本体論だよな新鮮どころかまったく未知の

領域ですよ。

 

そしてそれらも畢竟こゝろの風物ですとなる。

畢竟(ひっきょう)ってなんでしょう? 昔の作家とか知識人が好

んで使った言葉らしいんですが、意味は「結局のところ」とか「要

するに」とか物事の本質や結論を表す時に使う言葉らしいです。

さういへば芥川や漱石が使っていたよふな気ガス。

語源はサンスクリット語で、仏教経典に由来します。賢治は気どっ

てこの言葉を使ったわけじゃありませんね。

それでその宇宙のありとあらゆるものたちが、生きたり死んだり、

塩水がしょっぱいと思ったり、いろいろ感じたり考えたりしたこと

が宇宙を構成するすべてであり、それらはアカシックレコードに

記録されていく。

たゞたしかに記録されたこれらのけしきは

記録されたとほりのこのけしきで

ってことなんですね。

 

さて、天上天下唯我独尊って言葉がありますよね。お釈迦様が

生まれて間もなく仰ったお言葉らしいのですが。

現在では絶滅危惧種となった暴走族のお兄ちゃんやお姉ちゃんたちが

彼らのユニホームである特攻服に好んで刺繍したりしてた、あの言葉

ですよ。

「俺がいっちゃん強くて、いっちゃん偉いんじゃ、くそぼけぇ」

みたいな意味で使ってたようですが、たぶん、おそらく、お釈迦様は

そんな意味で言ったのではないと思われます。

わたくしといふ現象 の回で少し触れましたが、幼少期の私はかなり

変わった思考や感覚を持ったヘンな子供でした。(現在に続く)

自分の内側からこの世界を見ている、そして感じている。これって唯

一無二のものであり、とても崇高で、神聖で、特別で、なりより神秘

的であると、幼稚園児がそんなふうに思っていたのですよ。

ユング心理学や量子力学的な観点、視点で考えると、観測者の私がい

ることで私が観測している宇宙が存在する、成立している。

私がいなければ、私が観測している宇宙は存在しない。

つまり私という存在(現象)こそが宇宙のすべてであり、同時に構成

する事象としての、ミクロの点でしかない。

矛盾する定義が同時に存在しているのです。

ですから、それが虚無ならば虚無自身がこのとほり と賢治さんは看

破しているのでしょう。

 

ちょっと話が横道にそれますが、私の考える転生輪廻ってのは、以上

の観点から説明できます。

今、私やあなたが自分の内側から宇宙を見て感じている、その特別な

感覚は肉体を失えば一旦消滅します。

でも、またいつか、今、私や貴方が自分の内側から宇宙を見て感じて

いる感覚は繰り返されるのです。

それは魂が連続して生まれ変わるという意味じゃありません。

その感覚、意識の共有が連続し繰り返されるのです。

だから私、死後の世界とかあるのか無いのか知りませんが、あまり気

にしてません。

だって、またいつか今の自分と同じように自分の内側から宇宙を見る

感覚を味わうことになるのですから。

 

話をもとに戻しましょう。

私は涼宮ハルヒじゃありませんので、私がいなくなろうが観測をやめ

ようが実際のところ宇宙が消滅するなんてことは起こりません。

同様に観測している同胞たちが無数にいるわけですしね。

しかしながら、自分の内側から観測しているこの宇宙は唯一無二のも

のであることに変わりなく、同時に似たような観測をしている者たち

も存在しているわけで、ある程度まではみんなに共通いたします 

いうことになります。

そうです、だから

(すべてがわたくしの中のみんなであるやうに

   みんなのおのおののなかのすべてですから)

ってことなんでしょう。

これらのことから、賢治ってガチガチの相対論信者なのか?って疑いは

完全に晴れました。

(私は「相対性理論は間違っている」論者では決してありませんよ)

 

さて、今宵はここまでにいたしとう思いまする。  またね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのとほりの心象スケッチです

で紹介した「二十二箇月」前の賢治さんの恋心についてちょっと触れてみましょう。

 

宮沢賢治 心象スケッチ集 春と修羅 より引用

 

         春光呪咀

 

   いつたいそいつはなんのざまだ

   どういふことかわかつているか

   髪がくろくてながく

   しんとくちをつぐむ

   ただそれつきりのことだ

     春は草穂に呆け

     うつくしさは消えるぞ

       (ここは蒼ぐろくてがらんとしたもんだ)

   頬がうすあかく瞳の茶いろ

   ただそれつきりのことだ

         (おおこのにがさ青さつめたさ)

 

賢治さん、わかるよ、わかるその気持ち。喜び2割せつなさ8割だよねえ。

不粋ですが、ちょっと現代風に解釈してみましょうか。

 

 べ、べつに好きじゃないし、なんとも思ってないし、気にしてないから。

 だいたい黒くて長い髪なんてありふれてるし、おとなしすぎて愛嬌ないし。

 春になって草や花が咲き始めたら、そっちのほうが綺麗だし可愛いし。

 そうなったらまったく目立たないから。

    ま、まぁ、冬の間は少しだけいい感じかもしれないけど。

 ピンクのほっぺたとか茶色の瞳とか、フツーだから。ぜんぜんめずらしくないから。

   だ、だからぁ、なんとも思ってないから。ぜんぜん考えたことないから。

 

賢治さん、もがいてますねぇ、苦しんでますねぇ。 そして春を待ってますねぇ。

これ以上わたしはとやかく言うことはありませんね。

春光呪咀 これかなり好きな作品です。

 

 

 

 

 

 

 

前回、宮沢賢治の春と修羅 序 について少々持論なぞ述べさせていただきましたが、冒頭のみでしたので続きを書いてみたいと思います。

 

     ( 以下 宮沢賢治 春と修羅 序 より引用)

 

      これらは二十二箇月の

      過去とかんずる方角から

      紙と鉱質インクをつらね

     (すべてわたくしと明滅し

      みんなが 同時に感ずるもの)

      ここまでたもちつづけられた

      かげとひかりのひとくさりづつ

      そのとほりの心象スケッチです

 

唐突に 二十二箇月 という期間が出てきますが、これ、22か月前に賢治は激しく恋をしたらしいのです。(笑)

その刹那、自分の周囲が希望に溢れキラキラと輝き、色彩豊かなバラ色の世界になっていたのではないでしょうか。

もちろん苦悩もあったことでしょうし、嫉妬や猜疑心やモヤモヤとした陰気な心情もあったことと思われます。

その恋心を22か月間、胸に抱き温めてきた、

 ここまでたもちつづけられた かげとひかりのひとくさりづつ

そういった心情を、詩的に修飾された言葉ではない、感じたままに描いた

 そのとほりの心象スケッチです

と、いうことだと思います。

 

特に私が興味をひかれるのは、いかにも科学者らしい賢治の感性でして、

 

  過去とかんずる方角から 紙と鉱質インクをつらね

 (すべてわたくしと明滅し みんなが 同時に感ずるもの)

 

これって、特殊相対性理論を定式化するミンコフスキー空間の事だよね?って即座に思ってしまうわけなんです。3次元に方向性を持った時間軸を加えた4次元空間。

賢治が執筆活動を行っていた頃はまさにアインシュタインの新理論が世界中を騒がしていたころで、それはさすがに科学者として相当に意識していたんだろうなぁと。

ただし、賢治の面白さや私が共感する部分は、過去だの未来だの空間だのを数式で表す理論ではなく、心象スケッチとして 過去とかんずる方角 と言い表す点なのです。

ああ、そうか、時間って自分が感じる方角なんだなぁ、東西南北とかじゃない、過去と感じる方角、未来と感じる方角、そして現在をあらわす点(事象)ってことか。そして事象は即座に流れ変貌してしまう色即是空みたいなものか。と高校生だった私は感銘を受けたのです。

でもね、感銘を受けつつもどこかが違う、何かひっかかると感じる部分もありましてね。

なにしろアインシュタインの理論は光速不変を絶対値として、エネルギーやら物質やら時間やら空間やらを全部説明してしまう、そりゃもう凄まじい理論なわけで、宇宙とは森羅万象すべからく理路整然と説明することのできる完成された美しい世界だ! と仰せになるんです。

うーん、そうかな?本当にそうか? 現象や事象って変幻自在計測不可能なんじゃね?

時間って人によって違わね?と思ってしまうわけなんですよ。 

賢治さん、その辺どうなのよ?

   

 すべてわたくしと明滅し みんなが 同時に感ずるもの

 

おひおひ、賢治さん、アインシュタイン大先生の理論を完全に肯定してませんか?

あ、もちろん私は「相対性理論は間違っている」という相間論者ではありませんよ。

(すべてではないが)完成された美しい理論だと思っています。

で、その辺はもう少し読み進めていくと、ははぁなるほどと腑に落ちていくんですが今回はここまでにしておきましょう。このシリーズも結構長くなりそうな予感です。

 

さて、私が感じていた、なんか違うという感覚ですが、はっきりと違うと確信した出来事を経験したことがありましてね。ミンコフスキー空間の大外に放りだされたというか、証明されることの無い数式にハマってしまったというか、そんなありえないような出来事なんです。

 

ある日、仕事の途中に時計を見たら三時少し前だったんです。それで休憩しよ、おやつ食べよって思いまして、広場のベンチに座ってラジオ聞きながら本読んでおやつ食べてたんです。ラジオは生放送の番組やってまして3時の時報も流れました。しばらくして体感的には30分位経ったと思った頃、さぁ休憩終わりにして仕事に戻るか、と思って時計を見たら、、3時ちょい前なんです。 え? なんで? おかしいだろ?って思ったらラジオから3時の時報が流れて、今まで聞いていた生放送がまた始まったんです。

軽くパニックになりつつも、こういう時は冷静に落ち着いて行動しないと魔界にハマってしまうとなんとなく判っていたので、身の回りを点検確認しました。

おやつ、たしかに食べ終わって包み紙しかない。缶コーヒー、飲み終わって空。

本、20ページほど読み進んでいる。 体感時間30分位、周囲の状況証拠から間違いない。

さあどうしたものか。タイムスリップしたのか、それともパラレルワールド的な空間移動してしまったのか、周囲の状況や景色に異常や違いはないので、無事帰還したのか?

わかりませんね。今、この文章書いてる時点でも一体自分はどこに行ったのか、いやひょっとして帰ってないんじゃないか? それはもうわからないんですよ。

幼少時から変な体験や超常現象みたいなものを経験していたので多少の免疫みたいなものはあるのですが、絶対に不変で抗うことが出来ないと思っていた時間の流れが、じつは不確かなものだと体感したんです。

でも、自力でなんとかできる状況じゃないし、日々の生活に不都合は無いし、ジタバタすることもないかなと、まぁ達観しておこうかなと。そんなふうに思う次第です。

パラレルワールドに関してはべつの経験もあるのですが、また機会があったら書くことにしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

私の幼少時代は、たぶんおそらく扱いづらく大人達から理解されない奇妙な規格外の子供だったと思われる。

(奇人変人という意味では現在も評価は変わっていない)

一般的な人々の生活というものは、物質優位の物理法則や原理原則に従い従わされ、それらを基盤とした産業構造や社会構造の中で築かれた「常識」に沿った人生を送るのが普通。

つまり早い話、私が幼少期を過ごした昭和の時代の価値観というものは、学校で先生のいうことをよく聞きしっかり勉強をして優秀な成績を治め、良い大学を卒業し一流企業に就職し、あるいは家業を継ぎ、結婚して幸せな家庭を築き豊かな老後を迎える。皆、当たり前にこの価値観や常識に従って人生を送るべく生きていたのです。

 

まったくもって正しい。疑いようのない正解。まず間違いなく豊かな人生を全うするであろう。

だがしかし、幼少期の私は(今現在も)そのような価値観に強い疑いを抱いていた。

 

それは思想や人々の行動に疑いを抱いていたわけでは無く、もっと根源的な領域についての疑いなのであった。

上記の価値観に従って生活をする人々(自分も含む)の苦悩の大半は、まず肉体を持つことに起因する。肉体を維持するするために飯を食う。飯を食うために労働する。肉体の維持には睡眠や休息が欠かせない。そのために風雨を凌げる家屋で寝食を行う必要がある。隣の家は自分の家より大きくて立派だ。同じクラスの梨花さんは家がお金持ちなので、いつも綺麗で上等な服を着てくる。山田君は成績優秀で、自分はどれだけ勉強してもかなわない、負けたくない、馬鹿にされたくない、、、などなど嫉妬したり自己嫌悪したり競争にさらされて肉体も精神もぼろぼろに疲れきるのです。

当然私も毎朝家を出て学校へ向かう、舗装されたアスファルト道路やガタガタの砂利道を踏みしめて歩き、コンクリートと鉄の扉で出来た校門を通り下駄箱に靴を入れ上履きに履き替える。これは皆が共通して認識している「現実世界」の空間における生活なのです。

 

だが私はまるで別種の、誰からも共有されることの無い複数の「現実」を認識していた。

それは世間でいうところの超心理学的な世界とか超常現象が普通に起こる時空間である。

 

たとえば明け方や夕方に妖精のようなものが現れる。キラキラと光っているそれはクルクルと回ったり飛び跳ねたりしていて、私はそれを当たり前に眺めていた。

上空から何かの鳴き声が聞こえて見上げると、狐が空を飛んでいた。

通常見えるはずの無いもの、存在するはずの無いものがなんの不思議な感情も抱かずに見えることがある。

学校で隣の席の子の「いけない、消しゴムを忘れた」という心の声がイキなり脳内に直接飛び込んで来て、「消しゴム貸そうか?」とその子に声をかけるとギョッとされたり。

例を挙げるとキリがないのだけど、そういった非科学的で非論理的とされる現象が起こる時空間もまた、私にとっては確実に存在する「現実世界」だったのです。

小学生の頃の私は、妖精の話や空を飛ぶ狐の話を隠すことなく周囲に話していた。

ほとんどの場合「そんなのあるはずない」「嘘に決まってる」「本当なら見せてみろ」と言われてしまう。挙句、教師に告げ口されて職員室に呼ばれ、説教を喰らうハメにさえなってしまった。

 

そうすると一体全体どの「現実世界」が正当なものなのか、本当の世界、本当の自分とは一体何なのかが不明瞭になってしまう。そうして私は世間一般に共有される価値観や現実に対する認識に疑いを持つようになったのでした。

 

その後私は周囲からの強烈な疎外感や自分に対する異物感を感じて生きることになった。

共有されない「現実世界」は誰に話すこともなく、隠すようになり、上辺だけは皆が共有する「現実」に迎合し調子を合わせるようになった。それは異物である私が平穏な社会生活を送るために必要不可欠な処世術であったから。

 

そして思春期の出口が見え始めた高校一年生の夏、とんでもない衝撃に見舞われる出来事があった。

夏休みの課題のために、とある作家を研究論評しようとその作家の書物を手に入れた

のですが、それは宮沢賢治「春と修羅」でした。

冒頭のたった一行で、それはもう目をカッと見開き叫び声を上げそうになるほどの衝撃。

以下、少しだけ引用紹介してみよう。 

(やっと今回の本題ですよ、、以下宮沢賢治 春と修羅 序 より引用)

 

            心象スケッチ

             春と修羅

                大正十一、二年

 

          序

 

        わたくしといふ現象は

        仮定された有機交流電燈の

        ひとつの青い照明です

         (あらゆる透明な幽霊の複合体)

 

 

ん?なんだそれは?わたくしといふ現象?? 現象?わたくしは現象なのか?

いいのかそれで?いいのか?

どこかいびつな疎外される自分、まともな人間として成立しているのか良くわからない自分、物質優位の物理法則が支配している「現実世界」で肩身の狭い思いをしている自分。それはあくまで「現象」であるというのか?いや「現象」として存在していいのか!

もうね、分厚い雲の下でモヤモヤしてグズグズともがいていた自分に細い光の筋がさしたような気がしました。これはこの先もっとすごいことが書かれているはずだ!

と思って読み進めましたよ。

仮定された有機交流電燈の  仮定か、こんなのもあっていいしあんなのもあるかもしれない、実体は一つに固定されず存在の形態はあくまで仮定されてるだけか。

有機交流電灯って、肉体を持ち精神を宿し、それぞれ固有の波長(振動)を持ちながら自分自身や外部と関わりあう生命体ってことみたいだな。しかもそれはあくまで仮定されているに過ぎない!! ひとつの青い照明です  うーーん青い照明? なんだろ青いって。青って冷たそう。ふむ、太陽のような赤く熱を放射し周囲を明るく照らす光ではないな。ひっそりと存在を示すだけの光、蛍や夜光虫の発するような冷たい光だな。 (あらゆる透明な幽霊の複合体) これはありとあらゆる「現象」や存在の形態が許容される、誰からも着色されないし形を決められることのない「幽霊」が折り重なり融合したりして「わたくしといふ現象」になってるんじゃなかろうか?

 

すごいぞ! 宮沢賢治って天才かよ!

       

       風景やみんなといつしよに

       せはしくせはしく明滅しながら

       いかにもたしかにともりつづける

       因果交流電燈の

       ひとつの青い照明です

        (ひかりはたもち その電燈は失はれ)

 

因果交流電燈  これは一体なんぞや? さっきは有機で今度は因果か。ああ、そうか。 夕食の支度をしようと八百屋へ買い物に行ったとする。野菜を選んだり店主と話したり、金銭のやり取りをしたりする。肉体の物理的な運動もあれば、言葉を交わしたり思考を巡らせたり、何らかの感情の動きがあったりする。金銭と商品の物質的な移動もある。これ、つまり様々な因果が発生し、交流してるってことだな。有形無形関わらずあらゆる存在が仮定されている時空間で、無限の因果が生じるんだ。これは野菜の産地の空気や土、水なんかにもその因果が及ぶことになるし、生産者の肉体的な労働や、生産に対しての情熱や感情なんかにもやはり因果が及ぶ。これは時間や空間の距離に関係なく一瞬にして即座に因果が生じるのだ!八百屋で一つ野菜を買っただけで限りなく広範囲にありとあらゆる事象に対して即座に因果交流関係が生じるのだ!!

だからこそ 風景やみんなといつしよに せはしくせはしく明滅しながら いかにもたしかにともりつづける ってことになるわけだ。

ひかりはたもち その電燈は失はれ  

 いずれ肉体は滅びるが「わたくしといふ現象」が「風景やみんなといつしよに」

発した「青い照明」の軌跡は永遠に高次のアカシックレコードに記録され保存されるのでしょうね。

私はこれを読んで、異物な自分自身や自分の周りで起こる事を受け入れることが出来ました。そして自由で気ままな人生を送って来ました。もちろんツライことも悲しい事もたくさんありましたけど。 あまりにも自由に勝手な人生を送ってきたので、いつか野垂れ死にすることになるでしょう。でもね、私、今現在すでに「めっちゃ楽しくて面白い人生だった」って心の底から思ってるんです。肉体が滅び魂が乖離するその瞬間、うははははーって大笑いして往生すると思います。

ああ、春と修羅 序はまだこの先があるんですけど、今回は「わたくしといふ現象」にフォーカスしたかったので、いったんここで終わりにします。この続きは相対性理論やら量子力学なんかを当てはめて解釈するとまた面白いのですよ。 ま、気が向いたらまた書きますね。

じゃ、最終段の一文を引用して終わります。

 

        すべてこれらの命題は

        心象や時間それ自身の性質として

        第四次延長のなかで主張されます

      

 

それじゃ、またね。

 

 

 

 

 

 

 

 第一章 初めて森へ行く

 

 

 ゴローリゴロゴロ ガタンゴトン

 ゴローリゴロゴロ ガタンゴトン

これはいったい何の音でしょう?

仔猫のちまが荷車を曳いている音です。

ちまは町外れのクマのパン屋で働いています。

今日はクマの親方から、外へ出てパンを売ってくるように言われたのです。  

ちまは滅多に外へ出ないのでどうすれば良いか判らず困っていました。

 どうしよう、どこへ行こうか、何をすれば良いのかわからないや。

それに全部売れるまで帰っちゃいけないなんて…

 町の中心へ向かうと誰かに会ってしまいそうなので、とりあえず町から離れることにしました。誰かに見られたら恥ずかしいような気がしたのです。

ちまはノロノロと森へ続く丘を登り始めました。

 

 ゴローリゴロゴロ ガタンゴトン

 ゴローリゴロゴロ ガタンゴトン

 丘を越えてしばらく歩くと森の入り口に来ました。森の中は薄暗くて少し怖かったのですが、おもいきって入ってみることにしました。

するとどうでしょう。入ってしまえば怖いこともなく、風は涼しいし、草や花の匂いがしていい気分になります。

 なんだ、少し暗いけど気持ちいいや。

ちまは大きく息を吸い込むと、細い道をゆっくり進んでいきます。

たまに立ち止まって目を閉じると、風の音や木の葉がさらさらと鳴る音が聞こえてきます。

 ああ、気持ちいいなぁ、ウトウトしちゃいそうだよ

親方はボクが一人で森にいるなんて、想像もしてないだろうなぁ。

どうやらちまは本当にウトウトし始めたようです。

 その頃、

町では、クマの親方が店の奥でソワソワウロウロしていました。

あっちへ行ったりこっちへ来たり、なんとも落ち着きなく歩き回っています。

店先から羊のお姉さん店員が、奥をのぞき込んで言いました。

「親方、ちまちゃんの事が心配なんでしょ」

「い、いや、そんなことはない。これっぽっちも心配なんてしているものか」

クマの親方は、お姉さん店員から目をそらしてそっぽを向いてしまいました。

 クマのパン屋さんには店員が3名います。

販売接客担当の羊のお姉さん、製造担当のクマの親方、そして自称住み込み店員のちまです。 

 ある嵐の晩のこと、店の物置の前で泣いているちまをクマの親方が見つけました。その時、雨に濡れぶるぶる震えて泣いているちまを、親方が保護したのです。親方はちまを優しく毛布で包むと、温かいミルクを飲ませてくれました。

 次の日からちまは自称住み込み店員になりました。とは言っても、ちまに出来ることは何もありません。とにかく親方の後ろをついて回ります。

親方がどこへ行っても、いつでも後ろをついて歩くのです。親方が生地をこねると、真似をして同じように手や体を動かします。粉を計ると、同じようにしかめ面をしてはかりの針をにらみます。

親方はちまに、羊のお姉さんと一緒に店に出るように言いましたが、ちまは親方の背中に隠れて出てきません。

 そんなちまを、親方は可愛いと思う反面、たまに邪魔に感じてしまうこともあります。なにより、いつも自分の背中に隠れてしまうばかりでは一人前の大人になれないと、それが一番心配だったのです。

 そこで親方はちまに厳しくすることにしました。

荷車にたくさんパンを積むと、ちまに全部売ってくるように言いつけたのです。

ちまはいつものように親方の背中に隠れようとしましたが、親方は強引にちまを店の外に出すと扉を閉めて店の奥に引っ込んでしまいました。

 ちまは困った顔をしてウロウロしていましたが、やがて荷車を曳いてノロノロと歩き始めました。

 そんなちまの後ろ姿を、心配そうに羊のお姉さんが見送っていました。

 

 しばらくウトウトしていたちまですが、はっと我に返りました。

ああ、いけない、ボクはこんなのんきにしている場合じゃなかったんだ。パンを売らなきゃ店に帰れないんだった!

ちまは目を開けると、またゆっくり歩き始めました。

 

「ちょっと、仔猫ちゃん」 

大きな木を通り過ぎたところで、誰かに呼び止められました。

 「ニャ!」

ちまはびっくりして飛び跳ねました。尻尾は太くなり耳はペタン と寝てしまい、背中がぐぐーっと丸まっています。

え?え?誰にも会わないように森に来たのにどうして?誰?どこにいるの?

 キョロキョロ見回すと、大きな木の下に赤い屋根の小さな家があります。小さな家の大きな窓から、メガネをかけたアライグマのおばあさんがこちらを見ていました。

「仔猫ちゃん、いい匂いがするけど何を運んでいるの?」

「え、あ、あのパンを、パンを売りにきたクマで、、あ、ちが,、クマのパン屋がパンを売るので、、」

ちまは緊張して頭の中が真っ白になり、何を言っているのか自分でも判らなくなってしまいました。

 どうしよう、どうしよう、もう、なにがなんだかわからないぞ、なんかおばあちゃん笑ってるし、、ええええーーーい!

「町から来たクマのパン屋ですっ」

「あら素敵。クマの親方が焼くパン屋さんかしら?」

「はい!そうですそうなんです!町からパンを売りに来ました」

 おばあさんが優しく笑ってくれるので、ちまはなんとか落ち着いたようです。

「仔猫ちゃん、偉いわねぇ」

「あ、あの、ボ、ボクは身体は小さいけど、もう子供じゃありません、身体がちょっと小さい大人の猫なんです」

 おばあさんはクスっと笑うと、

「まあ、それは失礼いたしました。私はアライグマのラルク、あなたは?」

「ボクは、ちまです」

 ああ、あせっちゃったけど、おばあちゃん優しそうでよかったな。親方の事知ってるみたいだし。

「じゃあ、ちまちゃん、窓の所まで来てパンを見せてくれる?」

「はい」

ちまが窓のそばまで移動すると、おばあさんが窓際の長椅子に足を乗せて座っているのが見えました。片方の膝には包帯のようなものが巻かれています。

 おばあちゃん、ケガでもしたのかな?痛いのかな?

心配そうに見ているちまに気がついたおばあさん、

「歳のせいであちこち調子が悪くてねぇ。最近は膝が痛くてあまり歩けないのよ。昔は週に何度か町へ行って、クマの親方の焼くパンを買ってたんだけど」 

おばあさんはふぅっとため息をつきました。

「さぁ見せて頂戴」

「はい、食パンにぶどうパン、クリームパン、小豆のパン、他にもいろんなパンがあります」

おばあさんは楽しそうにパンを見ています。

「たくさんあるのねぇ、うーーん、それじゃ、ぶどうパンを貰うわ」 

「はい、ぶどうパンは銅貨2枚です」

 あれ?パン売れた?おばあちゃんと話してたらパンが売れたよ!

ちまはうれしくて顔が緩みそうになるのを必死にこらえ、できるだけすました顔をするように頑張ります。

おばあさんはエプロンのポケットから銅貨を2枚取り出してちまに渡しました。

「はいどうぞ、ちまちゃん」 

「どうもありがとうございます」

銅貨を受け取るちまの顔は、目が真ん丸でキラキラして鼻と口の周りがムズムズと動いていて、嬉しさを隠そうとしているのがバレバレです。

 あらあら、小さな仔猫ちゃんが頑張って大人のふりをしているのね。可愛らしいこと。

 おばあさんはちまに何かご褒美をあげたくなりました。

「ちまちゃん、お願いしたいことがあるのだけど、聞いてもらえないかしら?」

「はい!なんでも言ってください」

ちまはおばあさんの頼みならなんでも聞いてあげたいと、心の底から思いました。

「すぐそこに木苺がなっているの、見える?」

おばあさんが指差す方を見ると、こんもりとした茂みに紫色の木苺がたくさんなっています。

 わあ、あれが木苺なのか。親方が作るジャムは、あんなに小さな実から出来てるんだな。

「ちょうど今が食べごろなのに私は膝が痛くて摘めないのよ。ちまちゃん、摘んで貰える?」

「はい、喜んで!」

ちまがぶどうパンを渡すと、おばあさんは代わりに大きなかごと小さなハサミを渡してくれました。

 今日はちまにとって初めての事ばかり。

一人で店の外に出るのも、森へ来るのも、クマの親方以外の誰かと話をするのも、すべてが初めての事ばかりです。

 このハサミは、、たしかこんなふうに、、ここに指を入れるんだな、、

親方がハサミを使っている姿を思い出しながら、ちまは木苺のなる茂みに近づいて行きます。

 ちょっきん、ちょっきん、ぷちん、ぷちん

 ちょっきん、ちょっきん、ぷちん、ぷちん

初めてさわる木苺の実は、ぷにゅぷにゅして柔らかく、自分の手のひらの肉球のような感触です。

 わーいこれは楽しいぞ。それちょっきん、ほれぷっちん、今日は初めてで良くわからないことが多いけど、やってみると楽しいや。

いつも親方の後ろで真似するばかりのちまですが、今日は自分で作業しています。楽しくて我を忘れてどんどん木苺を摘んでいきます。

気が付くと茂みの木苺は全部無くなって、かご一杯になっていました。

「おばあさん、全部摘み終わりましたよ!」

「まあ、ちまちゃん、どうもありがとう。のどが渇いたでしょ?さあこれを飲んでね」

 おばあさんが飲み物を渡してくれました。ハチミツ入りのレモネードです。

おばあさんにかごを渡すと、さっそくレモネードを一口飲んでみます。

 うわぁ、これ冷たくて甘くてちょっとすっぱくておいしい!こんなの初めてだ!

ちまの顔がぱぁっと明るくなりましたが、またしてもすまし顔にしようと頬を引き締めます。

 おばあさんは、そんなちまを見てニコニコとしながら、木苺を大きなかごから小さなかごへ少し移しています。

「はい、ちまちゃんありがとう。」

 おばあさんは大きな方のかごを、ちまに向かって差し出しました。

「え、えーっ。こんなにたくさん?ボクは小さい方でいいです」

「あら、これはちまちゃんが摘んでくれたのだから、全部ちまちゃんのものなの。おばあちゃんが少しわけてもらったのよ」

 おばあさんはちまの手に、大きなかごを持たせてくれました。

「あ、ありがとう。おばあちゃん、ありがとう」

ちまにとっては初めての作業と初めてのご褒美です。自分の顔が少し熱くなったのがわかります。

 なんだか熱くてふわふわするな。へんな感じだけどすごく嬉しいな。

「ちまちゃん、今日はありがとう。また来てもらえる?」

「はい。もちろんです。毎日でもお伺いします」

「ふふふ、毎日じゃなくていいの。3日に一度くらいパンを届けてくれると助かるわ」

「はい、それじゃ親方に頼んで3日に一度ぶどうパンを焼いてもらいます!」

「楽しみに待っているわ」

「おばあちゃん、ありがとう。また来ますね」

 ちまはおばあさんに背を向けて歩き始めました。

とたんに顔がふにゃふにゃに緩みます。自然に笑顔になります。今まで我慢してすまし顔をしようとしていたぶん、余計に緩んでしまうようです。

 ああ、良かった。森に来て良かった。やさしいおばあちゃんに会えて良かった。また来よう。おばあちゃんに会いに来よう。

 少し進んだところでちまは後ろを振り向いてみました。するとおばあさんがニコニコ笑って見送ってくれています。

「おばあちゃん、ラルクおばあちゃん、どうもありがとう!」

ちまはおばあさんに向かって大きく手を振りました。

 おばあさんは、ちまが遠ざかって行くのを見送っていました。たぶん笑っているのでしょう、ちまの肩が少し震えているのがわかります。

突然ちまがくるっとこちらを向きました。

手を大きくぶんぶんと振っています。

ちまの、ありがとう、と言う声が聞こえてきます。

 あらあら、本当に可愛い仔猫ちゃんだこと。

おばあさんは、少し膝の痛みが楽になったような気がします。

 また、ちまちゃんが来てくれる日を楽しみに待つことにするわ。

おばあさんは、ちまに向かって優しく手を振って返しました。

 

 

 第二章 森は暗いけど明るい

 

 ゴローリゴロゴロ ガタンゴトン

 ゴローリゴロゴロ ガタンゴトン

ラルクおばあさんと別れてから、ちまはさらに森の奥へ進んで行きます。

気分が変わると景色の見え方が変わります。

 あ、あそこに白い花が咲いてるな、あっちには赤い小さな花。

さっきまで気がつかなかったけど、森にはきれいなものや可愛いものがたくさんあるな。ウフフフ、アハハハ。

自然と笑顔になり、笑い声も出てきます。

ちまが進む細い道にはキラキラと木漏れ日が落ち、まるでちまの進む方向を教えてくれているようです。

 わあ、キラキラだ。風が吹いたり木が揺れたりすると、もっとキラキラになるんだな。ボクはもう、ずっとこのキラキラの下を歩いて行こう!

ちまは楽しくなりスキップしてしまいました。

 ガタタン、ゴットン

ああ、いけない。スキップしたら荷車が傾いちゃうよ。失敗、失敗。

失敗したちまですが、なぜか顔はニコニコと笑っています。

そんな時、キラキラの奥から、なにかがすぅーっと飛んで近づいて来ました。

「やあ仔猫ちゃん、こんにちは」

「こ、こんにちは」

ちょっと前までニコニコしていたちまですが、途端に緊張してしまいます。

「オイラはとんぼのトム。キミはこの辺ではあまり見かけない顔だけど、何をしてるんだい?」

「ボクはちまです。パンを売りに来ました」

「ふーん、そうなの、、」

トンボのトムは荷台の上のパンを眺めています。

 トンボさん、青や緑に光っててキレイだな。目も大きいし、透明な羽でスイスイ飛んでるよ。

ちまは初めて見るトンボの姿に目を輝かせました。

「パン屋さん、パンを売りに来たのなら、もっと宣伝しなきゃ」

「せんでん?」

ちまは意味が良く判らず、首をかしげます。

「そうさ、宣伝さ。宣伝しなきゃダメに決まってる」

ちまはもっと大きく首をかしげてしまいました。

「キミはどこから来たの?」

「町から来ました」

「誰?」

「クマのパン屋です」

「何を積んでるの?」

「おいしいパンがたくさんあります」

「そう、それ全部続けて言ってみて」

「え、、えーと、町から来ました、クマのパン屋です、おいしいパンがたくさんあります」

「そうだよ、それが宣伝だよ。それを大きな声で言いながら歩かなきゃ」

「いや、そ、それはちょっと恥ずかしいです…」

「はぁー、、キミは何を言ってるんだい?」

トムは緑の目をクリクリ動かしながら、ちょっと呆れた様子でちまを見ます。

「森にパン屋さんが来てるなんて知ったら、みんな喜ぶよ。オイラちょっと先回りして皆に知らせておくから」

トンボのトムはいったんキラキラの中へすぅーっと飛んで行きましたが、くるっと向きを変えて戻って来ました。

「いいかい?宣伝だよ、大きな声で宣伝しながら歩くんだよ、いいね?じゃ

またね、バイバイ!」

「あ、トムさん、教えてくれてありがとう」

トムは念を押すようにそう言うと、今度こそキラキラの中に消えて行きました。

 さあ、困ったぞ。ボクに宣伝なんて出来ないよ。大きな声を出しながら歩くなんて、ムリムリ、絶対ムリ!

ちまは首を横に振りながら歩いていましたが、一度立ち止まって深呼吸しました。涼しい風が顔にあたり、花のいい匂いがして来ます。

ちまはハッと気が付きました。思い切って森に入った時、やはり同じようにいい匂いがしていたことを。

 そういえば、、少し怖かったけど森に入ることができたんだ。それからおばあちゃんと話も出来たし、パンも売れた。ハサミも使えたし、木苺もたくさん摘めたっけ。

 初めて森へ来てからたくさんあった楽しい出来事を思い出すと、少し勇気が湧いてきました。

 よし、やってみよう。宣伝してみよう。

「え、えー森から来た、、いや、町から来たクマのパン屋、、、」

ぶつぶつと小さな声でつぶやきながら歩いていると、道端から何かがぴょんと飛び出してきました。

「ストップよ!ストップなのよ!」

ちまはまたしても飛び跳ねそうになりましたが、なんとかこらえます。

目の前には頭に赤いリボンをつけた仔狐がいて、通せんぼをするように両手を広げています。

「トンボのトム君から聞いたんだけど、パン屋さんが来ているらしいの。アナタ何か知ってて?」

「ボ、ボクは、その、町から来たクマのパン屋で、、あの、それで、、」

「へぇー、あれあれあれーーーっ、これはひょっとして、、」

仔狐は、ぐるっと荷車の周りを回りました。

「アナタ!パン屋さんね。アナタがパン屋さんなのね!キャー」

仔狐はちまに抱き着くと、顔をスリスリして来ます。

「らんらんらん、ずんちゃちゃちゃ、るんるんるん!!」

仔狐はちまを抱いたまま、くるくる回ったり飛び跳ねたりしながら踊り始めました。

「さぁさぁ、アナタも踊りなさい!踊るのよ!!」

「にゃ、にゃーー」

ちまはとうとう悲鳴をあげました。すると仔狐は踊るのをやめて、

「あら、アナタ、踊れないのかしら?」

「はい、ボクは、そ、そういうのは良く知らなくて、、」

ちまはゲホゲホと咳き込みながら、やっとの思いでそう答えます。

「踊りを知らない子供がいるなんて!そんな子は森にいないわよ」

「そ、それからボクは子供じゃなくて、もう大人です」

「え?アナタ、私よりずいぶん小さくてよ?」

「カ、カラダは小さいけど大人なんです」

「そうかしら? それにアナタ、女の子なのにどうしてボクって言うの?」

そうなのです。男の子のような話し方をしますが、ちまは女の子なのです。

「それはちょっとボクにもわからくて、、おかしいですか?」

仔狐は一瞬考えると、

「ううん。ちっともおかしくないわ。ちょっと不思議な気がしただけよ」

ちまはクマの親方としか話しをしたことが無いので、自然と男の子のような話し方になったのです。

「そういえば自己紹介をしていなかったわね。私はマリヤ、アナタは?」

「ボクはちまです。町から来たクマのパン屋です」

マリヤはドレスの端をつまむような仕草をして、軽くお辞儀をしました。

「ちょっとマリヤ、一人で急に家を飛び出して、いったい何をしているの?」

「あ、お母さん、パン屋さんよ。パン屋さんが森に来たのよ。この子はパン屋さんで名前はちまちゃん。それで今日から私の妹になったのよ」

狐のお母さんは眉間に指をあて、やれやれと首を振りました。

「マリヤったら。ついこのあいだも野兎のリルちゃんを妹にしたばかりじゃないの」

「いいのよ、妹はたくさんいたほうが楽しいわ。」

「ごめんなさいね、ちまちゃん。この子はいつもこんな調子なのよ」

狐のお母さんは申し訳なさそうにちまに言いました。

 妹?ボクのこと?何?なんで?

ちまはあまりの急展開にまったく理解が追いつきません。

「見て。ちまちゃんと私はそっくりでしょ。身体は明るい茶色で尻尾の先とおなかと手足の先が白いの。おそろいだわ」

ちまは自分とマリヤの身体を見比べました。たしかにおそろいに見えます。

「それよりお母さん、パンよ。美味しそうなパンがたくさんあるわ。何か買うのよ!」

「そうねぇ、、今日の晩御飯はシチューだから、なにかシチューに合うパンを選びましょう」

「シチュー!今日はシチューなの!? やったー、シチューよ!」

マリヤはその場でぴょんと跳ねると、バレリーナのようにクルクル廻ります。

「シチュー、シチュー、シチューに合うパン、らんらららん」

マリヤは歌を唄いながら、おかしな振り付けで踊っています。

ちまはそれを見て、ぷぷっと笑いそうになりましたが、ほっぺたにチカラを入れて我慢しました。

すると、マリヤは踊るのをやめてちまに近づいてきます。

「あれ?ちまちゃん、アナタ、笑いたいの我慢してない?」

「そんなことありません」

ちまは口をすぼめてやっと答えます。

マリヤはじとっとした目でちまの顔を覗き込むと、

「そうかしら?どう見ても我慢してるようだけど」

えい、えい、えいとマリヤがちまのほっぺたをいじり始めました。つねったり揉んだりムニュムニュしたり、やりたい放題です。

「ほらほら、どう、これでどう?」

とうとうちまは、ぷはーっと笑ってしまいました。

「あははは、笑ったわね。ちまちゃん、笑いたいときは笑うのよ。我慢なんてしちゃダメよ。あはははは」

「あはは、あははは」

ちまも一緒に笑います。

狐のお母さんも口に手をあててクスクス笑っています。

「子供は誰だって、可愛い花を見たら笑いたくなるし、キラキラした道を歩く時はスキップしたくなるのよ。アナタだってそうにちがいないわ」

マリヤはビシッとちまを指差し、そう言いました。

その瞬間、ちまの身体はピキッと固まり動けなくなります。顔がかぁーっと熱くなり胸もドキドキしてしまいます。

「…ひょ、ひょっとして、見てた?」

「え? 何を? なんのことかしら?」

一瞬、二人の間に沈黙が訪れました。

「はははは、図星ね!大当たりなのよ!! 」

マリヤは腰に手をあて、胸をそらして勝ち誇っています。

「町の人達はみんなお面をかぶったような顔をしているわ。ちまちゃん、アナタは私の妹になったんだから、そんなのはダメ。お面をかぶったような顔をしてちゃいけないのよ」

ちまはどうやら、マリヤの妹から逃れられない運命のようです。

「町は明るいけど暗いの。でも、森は暗いけど明るいのよ」

「森は暗いけど、、明るい、、ですか、、」

マリヤはとても不思議なことを言ってるとちまは思いました。

「ちょっとマリヤ、パンは選ばなくていいのかしら?」

お母さんの言葉に二人とも我に返りました。

「そうよ、パンを選ぶんだったわ。シチューに合いそうなパン、、」

うーん困った困ったとマリヤは言いながらニコニコしています。ちっとも困ったようには見えません。

 ちまもシチューが大好きです。クマの親方がたまに作ってくれるシチューには大きな野菜がたくさん入っていて、そこに少し固めのライ麦パンをひたして食べるのです。

「シチューにはライ麦パンが良く合います。シチューにひたして食べると美味しいですよ」

ちまの言葉に、マリヤの耳と尻尾がピンと立ちました。

「お母さん、ライ麦パンよ。ライ麦パンで決定よ」

「はいはい。それじゃちまちゃん、ライ麦パンをいただくわ」

「はい。ライ麦パンは銅貨三枚です」

ちまは狐のお母さんにライ麦パンを渡しました。

「どうもありがとう。ちまちゃん」

ちまは銅貨を受け取ると

「ありがとうございます」

大きな声でしっかりお辞儀をしながら言いました。

「ちまちゃん、ありがとう。次は私の家に遊びに来てね。あそこが私の家よ」

マリヤが指さす方を見ると、たくさんの可愛い花に囲まれた家が見えました。

「あのお花は私が育てているの。可愛いでしょ」

マリヤが少し得意そうな顔をして言いました。

 ああ、あんなお家に住めたら楽しそうだな。気持ちが明るくなるな。

そう思った時、ちまは気がつきました。

そうか、森は暗いけど明るいんだ。ボクは今日、森でたくさん明るくなれたのに、どうしてマリヤちゃんの言うことがわからなかったんだろう。

「ほら、ね。森は暗いけど明るいでしょ?」

「本当だ。森は暗いけど明るいです」

二人は顔を見合わせるとニッコリ笑いました。

「さぁ、マリヤ、そろそろ帰るわよ」

「そうね、早く帰ってシチューを食べなくちゃだわ」

「まだ夜には早いわよ。その前にお母さんのお手伝いをしてね」

「わかったわ。妹のちまちゃんが頑張っているのだから、お姉ちゃんの私も負けていられないわ。ちまちゃん、今日はありがとう」

マリヤとお母さんは二人で手をふりながら帰っていきました。

「マリヤちゃん、お母さん、どうもありがとう」

ちまも大きく手をふって見送りました。

マリヤちゃんはまたしてもへんな振りで踊りながら帰っていきます。

ちまは今度こそ我慢せずに、ぷぷっと笑うことが出来ました。

 

 

  第三章 水は山から流れてくる

 ゴローリゴロゴロ ガタンゴトン

 ゴローリゴロゴロ ガタンゴトン

ちまはキラキラの道を宣伝しながら歩いて行きます。

「町から来たクマのパン屋です。おいしいパンがたくさんありまーす」

ずいぶんと大きな声が出せるようになってきました。誰かに見られても恥ずかしいと思わなくなったのです。

 あの明るい光はなんだろう?この道を歩いていくと、あの光の場所に行けるのかな?

 道を照らす木漏れ日は黄金色ですが、道の奥には白い光が見えています。

ちまはその白い光の場所まで進もうと思いました。進むにつれて、その光はどんどん大きくなってきます。

 もう少しだな。もう少し歩けばあの光ってる場所に着くぞ。

すると、頭の上から声が聞こえました。

「パン屋さん、こんにちは」

ちまは声のする方を見上げました。木の枝の上に小さな可愛い動物がいます。

「僕はシマリスのクッキー。パン屋さんのことはトムから聞いたよ」

「こんにちは、ボクは町から来たクマのパン屋です。名前はちまです」

シマリスはするすると木の上から降りて来ました。

「いろんなパンがあるね。上からだと良く見えたよ」

シマリスは、小さな身体に大きくて太い尻尾があります。身体と同じくらい大きな尻尾がくるんと丸まっています。

「どんなパンがお好みですか?」

「クルミのパン、僕はクルミが好きなんだ」

「ああ、今日はクルミのパンは無いんです、、今年はクルミが少なくて、なかなか仕入れられないって親方が言ってました」

シマリスはとても残念そうな顔をしています。

「代わりにこんなパンはどうですか?これはカボチャのパンです」

黄色の生地に緑のタネがたくさん乗っているパンをシマリスに見せました。

「ああ、それは美味しそうだ。僕は木の実やタネを良く食べるからね。それじゃ、カボチャのパンとそっちの木苺をいくつかくださいな」

シマリスは荷台の端っこにある木苺のかごを指さして言いました。

「あ、これは売り物じゃ無いんです」

シマリスはまたしても残念そうな顔になりました。

「ラルクおばあちゃんから頂いたものなので、良かったらクッキーさん、いくつかどうぞ」

「え、本当?貰えるの?おばあちゃんの家の木苺はすごく美味しいんだよ!」

シマリスは三つの木苺を腕に抱えました。

「じゃ、三つ頂くね。いまお金を持ってくるよ、パンはいくらかな?」

「かぼちゃのパンは銅貨三枚です」

シマリスはパンを頭に乗せてするすると木に登ると、幹の途中にある穴に消えて行きました。

 あれ?シマリスさんの家はあんなところにあるのか。木に穴があって、そこに住んでるんだ。

「パン屋さん、木の下に来てくれる?」

木の穴からシマリスの声が聞こえます。

「はい、来ましたよ、クッキーさん」

シマリスは穴から顔を出し、ニッコリ笑いました。

「じゃぁ行くよ、しっかり受け取ってね」

穴からポロリと丸いものが落ちてきました。

 んん?なんだコレ? 丸くて固くて茶色くて、なんかシワシワしてるな。

ちまが不思議なものを手に取って調べていると、次々にポロポロと落ちて来ます。全部で五個落ちて来ました。

「全部拾えたかな?」

シマリスは木の穴から出て地面までおりて来ました。

「拾えたと思うんですけど、、なんですか?コレ?」

「それはクルミだよ。クルミは固い殻に入ってるんだ。町の子供は知らないだろうね」

 そうかぁ、クルミってこんなものだったのか。木苺だってジャムしか知らなかったし、ボクは知らないことばっかりだな。

「そのクルミを持って帰って、クマの親方にパンを焼いてもらってよ」

「はい、わかりました。クッキーさんは親方を知っているのですか?」

「ああ、クマの親方はもともと森に住んでいたからね。良く知ってるよ」

「ボクはそんなことちっとも知りませんでしたよ」

「はい、これ銅貨三枚。それからパン屋さん、次に来るときはクルミパン忘れちゃダメだよ。親方によろしくね」

そう言うとシマリスはまたするすると木に登っていきました。

「クッキーさん、どうもありがとう」

「うん、パン屋さん、またね。木苺をありがとう」

シマリスの家の扉がパタンと閉まりました。

 あれ?シマリスさんの家の扉はクルミの殻で出来てるんだ。よっぽどクルミが好きなんだなぁ。

ちまはクスクス笑いながら、また歩き始めます。明るく光っている場所に近づくと、サラサラチャプチャプと音が聞こえてきました。

 なんの音かな?水の音に似てるけど、さらさらちゃぷちゃぷってずっと続いて音が聞こえる。なんだろう?

 ちまはとうとう明るく開けた広場のような場所に着きました。

「やあ、仔猫ちゃん、待ってたよ」

トンボのトムさんがすぅーっと飛んで来ました。

「トムさん、ここはずいぶん明るくて広いところですね」

「ああ、ここは森のみんなが集まる水場だからね。すぐそこに川が流れているんだ」

 かわ? かわってなんだろう? 

「オイラについておいで」

トムさんの後について行くと、なんと、

 水だ、水だよ! なんでこんなにたくさん、すごい量だ!それに動いてる。

どうして?なんで?

ちまは川に近づいて、そっと水にさわってみました。

 冷たい! これはたしかに水だよ!

ちまが知っている水は、親方がどこからか汲んでくる大きな桶に入った水か、たまに空から降ってくる雨だけです。

「ここは水がたくさん流れている川っていうところさ」

「かわ? この水はどこからやってくるんですか?」

「水は山から流れてくる」

「やま?」

トムは川の上流に向かって少し飛び上がりました。

「あれだよ。あのずいぶん遠くに見える大きな白いかたまり。あれが山さ」

ちまはポカンとして山やまわりの空やあちこちを見回しています。

 すごい、すごいや! 白くて大きな山が水を流して川になる。青い空もすごい、キラキラのお日様もすごい、森もすごい、全部すごいや!

「ふふふ、すごいものはまだあるよ。ほらあそこ」

トムはこんどは少し下流に向かって飛びます。

「あれはビーバーさんが作ったダム。それとダムから水を引いて作った池」

川の途中に石や木を積んだこんもりとした場所があります。そこは水の流れが

ゆっくりになっていて、くちばしの黄色い白い鳥たちがぷかぷか浮いて泳いでいるようです。すぐ近くに丸くて大きな水たまりもあります。

「さあ、ダムへ行ってビーバーのおじさんに挨拶するよ。すぐそこだ」

ちまはトムの後について行きます。

「おじさん、こんにちは!トムです」

ちまも慌てて挨拶します。

「こんにちは、クマのパン屋のちまです」

するとダムの石と木の隙間からヌッと顔が出て来ました。

「やぁ、トムと仔猫ちゃん、こんにちは。わしはビーバーのドムスだ。仔猫ちゃん良く来たね。クマの親方は元気かい?」

「ドムスさんは親方を知ってるんですか?」

「ああ、古い知り合いさ。そこの池は親方が掘って作ったんじゃよ。森のみんなはその池に水を汲みに来るんじゃ」

「へぇーそうだったんだ。クマさんは森のみんなの恩人なんだな」

トムが感心したように言いました。

「知ってるかい?オイラは長い間水の中で暮らしていたんだよ」

「え?トムさん空を飛んでるのに?」

「子供のころはそこの池の中で何年も暮らしていたんだよ。そしてやっと大人になって空を飛ぶようになったんだ」

「そうだったんですか。ボクは知らないことや判らないことばかりです」

「気にすることはないぞ。仔猫ちゃんは自分が知らないことばかりだと知っている。それだけでもたいしたもんじゃ」

ドムスおじさんの言葉にトムも大きくうなずいています。

「さぁ、そろそろみんなが集まってくるよ。オイラが宣伝しておいたからね。

仔猫ちゃん、パンを売る準備をして」

ちまは慌てて広場の入り口においてきた荷車を取りに戻りました。

 わいわいガヤガヤ ワイワイがやがや

広場が賑やかになり、あちこちからちまの知らない動物たちが集まって来ました。大きな角の鹿の親子、野兎の兄妹、イノシシの集団などなど、町では見かけない動物たちが大行列です。

「さぁさぁ、みんな並んで並んで、順番だよ。はいそこ横入りしちゃダメ」

トムさんが忙しく飛び回って仕切ってくれています。

「パン屋さん、ぶどうパンをください」

「俺には小豆のぱんをくれ」

「こっちは木苺のジャムパンね!」

ありがとうこざいます。どうもありがとう。ありがとうございます。

ちまは大忙しでペコペコお礼を言いながらパンを売っています。

すぐそばでビーバーおじさんも手伝ってくれています。

やがてとうとうパンは売り切れになりました。

 ああ、やった、とてもムリだと思ったけど、とうとう全部売り切れたよ。

ちまはその場にペタンと座りこんでしまいました。まわりを見るとあちこちで笑いながら話をしている人、美味しそうにパンを食べている人、走りまわって遊んでいる子供たち、たくさんの森の住人たちが楽しそうにしています。

 ああ、良かった。トムさん、ビーバーおじさん、ラルクおばあちゃん、マリヤちゃん、何も知らない、何も出来ないボクなのに、みんなが助けてくれたおかげだよ。本当にどうもありがとう!

 ちまはゆっくり立ち上がると帰る準備を始めました。

するとあちこちから、

「パン屋さん、美味しいパンをありがとう」

「仔猫ちゃん、また来てね。ありがとう」

たくさんの声がかかります。

「これ、森でとれた山ぶどうだよ。持って帰ってね」

「こっちはアケビ、これも美味しいよ」

「はいこれお団子、帰り道でたべてね」

お土産で荷車が一杯になりました。

「帰りはこの川沿いの道を行くといいよ。この川は町まで流れて行くから」

トムさんが帰り道を教えてくれました。

「それじゃあ皆さん、そろそろ帰ります。ありがとうございました。また来ます!」

ちまはみんなに大きく手を振って歩き始めました。

「さようなら、またね」

「気をつけて帰ってね。ありがとう」

森のみんなも手を振って見送ってくれています。

ちまは何度も振り返っては手を振り、大きな声でありがとうと言いながら川沿いの道を町へ向かって歩き始めました。

 

 終章 ありがとうが一杯

 ゴローリゴロゴロ ガタンゴトン

 ゴローリゴロゴロ ガタンゴトン

 ああ、良かった良かった。パンは全部売れたし、楽しいことばかりだったな。森の中では金色のキラキラ道を歩いたけど、帰りは銀色のキラキラだ。

森は暗かったけど、川は明るくて歩きやすいし、これなら日が暮れる前に町に帰れそうだよ。

 ちまはニコニコ顔で歩いています。川はさらさらちゃぷちゃぷ優しい音をたてて、流れる水は銀色にキラキラ輝いています。たまにすれ違う人と挨拶をしたり、川の向こうにいる人に手を振ったりしながら歩いて行きます。

 グ、ググゥ

ちまのおなかから。大きな音が聞こえました。

 ああ、そういえばボク、今日は何も食べてなかった。おなかが空いたことも忘れちゃってたよ。

そうだ、お客さんから頂いたお団子があったな。あれを食べよう。

ちまは立ち止まって川の水で手を洗い、水をすくって飲みました。

 冷たくて美味しいな。桶の水より美味しい気がする。

その場に座って、足を水に漬けてちゃぷちゃぷ動かしてみました。

 ああ気持ちいい。今日はずっと歩いてばかりだったから、疲れがとれるよ。

それにしても水ってすごい。手を洗えば奇麗になるし、のどが乾いたら飲むことができる。洗濯する時やお料理にも水は必要。すごいぞ、水!

 さあお団子食べよう。ん?中に何か甘いものが入ってるけどなんだろう?

親方がたまに作ってくれるお団子は醤油をつけて焼いたお団子です、いつもと違う味のお団子は今日初めて食べました。

 この甘いものはなんだろう?今度お客さんに会ったら中身がなにか聞いてみよう。

ちまはお団子を食べ終わると立ち上がりました。

 さあ元気が出たよ。お団子が無かったら、おなかが減って歩けなくなったかもしれないぞ。感謝、感謝。

お団子をくれたお客さんの顔が頭に浮かんできます。その後次々にいろんな人の顔が浮かんできました。

 ラルクおばあちゃんや、トムさん、マリヤちゃんにビーバーおじさん、それにボクを外に出してくれた親方。みんなのおかげで今日は楽しかったし、いろんなことができたっけ。おかげ、おかげ、おかげ様だよ。

ちまはアハハハと笑い声をあげました。突然ひらめいた・おかげ様・という言葉がおかしかったのです。

 ははは、おかげ様?なんだよおかげ様って。まるで神様みたいじゃないか。

ちまは何かに気がついたのか、自分のまわりをあちこち見回します。

 神様は見えないし話もできない。だけどおかげ様はすぐそこに見えるし、話も出来る。ボクのまわりにはおかげ様がたくさんいるじゃないか!白い山や

ちゃぷちゃぷ流れる川、青い空や雲、可愛いお花、こんなのも全部おかげ様だぞ。神様、おかげ様だ! あははは。

ちまは両手を胸の前で合わせて、あちこちに向かって、おかげ様ありがとう、ありがとう、おかげ様と言っています。

 さあ歩こう。日が暮れる前に帰らなきゃ親方が心配しちゃうよ。帰ったら親方に話すことがたくさんあるぞ。忘れちゃいけないのは三日に一度、ぶどうパンを焼いてもらうこと。それからクッキーさんから頂いたクルミを使ってクルミパンを焼いてもらうこと。木苺を摘んだことや、マリヤちゃんの妹になっちゃったこと、まだまだたくさんあるぞ、どうしよう、なにから話せばいいんだろう。困った、困った。うふふふ。

もちろん、ちまは、ちっとも困ってなんかいません。

 ああ、そうだ、それから明日はシチューを作ってもらおう。そうしよう。

お母さんにシチューを作ってもらえるマリヤちゃんがとても嬉しそうで、ちまは少し羨ましかったのでした。

そうとなったら早く帰らなきゃ。町はもう、すぐそこに見えています。

 

その頃、

あいかわらずクマの親方は店の奥でウロウロソワソワしています。

朝早く、パンを焼いたのは一度きりなのでもうお店にパンはありません。

羊のお姉さん店員が呆れた顔をして親方に言います。

「もう、そんなにちまちゃんのことが心配なら、いっそのこと探しに行けばいいのに」

「探しになんか行かなくたって、そのうち帰ってくるから。ぜんぜん気にしてないから」

親方はそっぽを向いてしまいます。

「あらあらそうですか。それじゃもう私は帰りますね」

お姉さんは・開店・の札をひっくり返して・閉店・にすると店の外に出ました。帰り道はちまを探して歩こうと思いながら。

 クマの親方は一人で激しく後悔していました。

ああ、なんであんな事を言いつけたんだろう。なんてバカなことをしたんだ。

いつも自分の後ろをちょこちょこついて歩くちまが今日はいません。心配で心配で、パンを焼くことなんて出来ませんでした。

親方はちまのことを、いつのまにか本当の自分の子供のように思っていたのです。

もう邪魔だなんて二度と思わない。思うものか。外に出ろなんて言わない。

ちまはいつだって自分の後ろにいればいいんだ。

ちまがどこかで途方にくれているんじゃないか、疲れて泣いてるんじゃないか、なにか危険な目にあってるんじゃないか、そう思うといてもたってもいられずに店の外に飛び出します。外はもう夕焼け空です。

これはいかん、日が暮れる前に探さなきゃ。暗くなる前にちまを連れて帰らなきゃ!そう思った時、どこからか音が聞こえて来ました。

 ゴローリゴロゴロ ガタンゴトン

耳をすまさなければ聞こえない小さなお音ですが、はっきり確かに聞こえてきます。 

ちま、どこだ!どこにいる!

親方はさらに耳をすまして音のするほうに目を向けました。

すると夕焼けに染まった丘の上に、小さな影が見えてきます。

 ゴローリゴロゴロ ガタンゴトン

小さなちまが大きな荷車を曳いてこちらに向かって来ます。

つまづいたりよろけたりしながら、ゆっくりと、それでも確かにこちらに向かって来ます。

ちま!

親方は全力で走り始めました。

ちま!荷車なんてもう曳かなくていいんだ、そんなものは捨ててしまえばいいんだ、早くこっちに来るんだ、早く帰ってこい!

親方のスピードはどんどん上がっていきます。

 アレ?あれは親方じゃないか。何してるのかな?ドドドドってすごいスピードで走ってるよ。親方、あんなに速く走れたんだな。

いつもはのそり、のそりと歩く親方がすごいスピードで走る姿を見て、ちまはぷぷっと笑ってしまいました。

「ちま!無事か、ちま!」

目の前に現れた親方は、ちまをぎゅっと抱きしめました。

「く、苦しい、苦しいです、親方」

「ちま、無事か?どこか怪我でもしてないか?」

「少し疲れてるけど、怪我はしてませんよ」

「そうか」

親方はちまを離すと、あちこち触り始めます。

「く、くすぐったい、こんどはくすぐったいよ」

「そうか。そうか。くすぐったいか」

二人は顔を見合わせて笑いました。

「さあ、帰ろう、ちま」

「はい」

親方はちまを肩に乗せると、荷車を曳いて歩き始めます。

ちまは落ちないように親方の耳を握りました。

「親方はいつもこんな景色を見てるんですね」

「ん?なんだ、どんな景色だ?」

「ボクは小さいから、見えるのは地面ばっかり。だけどここはずいぶん高いので、いろんなものが見えていますよ」

「そうか。じゃあちまも早く大きくならなきゃな」

「はい。ボクも親方くらい大きくなれるかな?」

「いや、そこまではちょっと無理だな」

二人はまた笑いました。

「おなか空いてるだろ?」

「はい。そりゃぁもう腹ぺこですよ」

「じゃあ、帰ったらクロックムッシュを焼こう」

「わーい」

ハムとチーズをたくさん使ったクロックムッシュはちまの大好物です。

 そうか。マリヤちゃんはこんな時踊り出だすのか。はははは。

お店に着くと、親方はさっそくクロックムッシュを焼き始めました。ちまは荷車に乗っている荷物をせっせと運びます。山ぶどうに木苺、クルミ、あけび、

かわいい花やいろんなものが乗っていました。

親方はクロックムッシュと温かいミルクを持ってやってくると、テーブルの上にいろんなものが乗っていることに気がつきました。

「ちま、これはいったいどうしたんだい?」

「これは森のみんなから頂いたお土産ですよ」

「森?ちまは今日森に行ってきたのか?」

「はい。森には親方を知ってる人が何人かいましたよ。ビーバーおじさんとかシマリスさんとか、親方によろしくって」

「そりゃ懐かしいな」

 ちまは夕食を食べながら、あれこれいろんな話を始めました。

目をキラキラさせて、嬉しそうに楽しそうに話をします。たまに身振りや手振りを交えながら、大きな声で話しを続けています。

 親方はうんうんと頷いて話を聞いています。いつも親方の背中に隠れて小さな声で話すちまは、もう、そこにはいませんでした。

親方は少し寂しいような気もしましたが、すぐにこれで良かったんだ、さっきまで後悔してたけど、間違ってなかったんだと思いなおしました。

「それでね、親方、そうしてとうとうパンは売り切れたんです!」

ちまはバンザイのポーズをしています。

「そうか、よくやったな、ちま」

「はい!」

ちまはパチパチと自分で手を叩いています。

「なにしろ森にはありがとうが一杯あるんです」

 ありがとうが一杯  いい言葉だと親方は思いました。

「ボクがありがとうと言うと、同じようにありがとうが返ってくる。あっちにもこっちにもありがとうが一杯あるんです!」

「そうか。たしかに森にはありがとうが一杯ありそうだな」

森のことを良く知っている親方は、なんとなくちまの言うことがわかります。

「はい。それからおかげ様もたくさんいます。あちこちにいます」

「おかげ様?なんだいそれは?」

「それは、、ふふふ、秘密ですよ。親方様、おかげ様」

ちまは胸の前で手を合わせています。親方には良く判らなかったのですが、きっといいことなんだろうなと思いました。

「明日、ボクは食べたいものがあります」

「おや、めずらしいな、ちまがそんなことを言うなんて。なんでも言ってごらん」

「シチュー!シチューが食べたいです」

「そうかシチューか。とびきり美味しいシチューを作ろう。羊のお姉さんも招待しようか?」

「賛成!ありがとう、親方」

ちまは親方の太い腕に飛びつくと、よっぽど疲れていたのでしょう、そのまますぅすぅと寝息をたてはじめました。

「寝る子は育つ、、だな」

親方は、ちまが起きないように気をつけて、ちまのお気に入りのかごのベットに運んで寝かせました。

 もうそろそろ大きなかごに代えなきゃな。

「ちま、無事に帰ってきてくれてありがとう。おやすみ、ちま」

親方はそっと部屋のあかりを消しました。

 

 ここに書かれているのは、仔猫のちまの、ありがとうが一杯なお話です。

 

                                おわり

 

 

 

前のお話はこちら↓

 

氷の上でスケートをする

「親方、この小さい椅子も積むの?」

「ああ、それも積んでおくれ」

ちまとユリアお姉さん、親方の3人で大きなソリに荷物を積んでいます。

「まぁ、その椅子はちまちゃん専用みたいだけど、親方が作ったのかしら?」

親方は聞こえないフリをしています。

「いいわねえ、ちまちゃん。親方にいろいろ作ってもらえて」

「はい。小さなコタツも作ってもらいました」

ちまはニッコリ笑って答えました。

「ちま、部屋から小さい火鉢を持って来ておくれ」

「え?またお餅焼くの?」

「お餅はもう無いよ。釣りをしてお魚を焼くんだよ」

ちまは釣りが何か知らないのですが、お魚と聞いて嬉しくなりました。

「ちまちゃん、お部屋に行くなら私と一緒に行って着替えましょう」

ユリアお姉さん、大きなバッグからデニムのオーバーオールを出しました。

「これは私が小さい頃に着ていたのよ。スケートの時は必ずね」

「それじゃ、私は残りの荷物を積んでおくよ」

クマの親方はソリに残りの荷物を積み始めました。

「じゃーーん。どお、親方コレ似合ってる?」

「ああ、似合ってるよ」

「ちまちゃん、可愛いから何でも似合うわよ。 ね、親方」

「む、まぁ、そうだな」

またしてもお姉さんがぷぷぷっと笑います。

「帽子を編んでおいたわ。白いのがちまちゃん、緑のが親方の」

「わぁ、ありがとう、お姉さん」

「ありがとう、ユリアさん」

「どういたしまして」

「さて出発しようか、ちま、ソリに乗りなさい」

「あら親方、私は乗れないの? そんなに重くないけど」

「座席は一人分しかないんだよ、困ったな」

「じゃぁちまちゃん、私の膝の上に座って」

「はーい。 出発進行!親方、お弁当忘れてないよね?」

「ああ、ちゃんと積んであるよ」

親方が二人を乗せたソリを引っ張って進みます。

「わーい、楽チン、楽チン。 楽しいね、お姉さん」

「そうね、楽しいわね。ソリに乗るのはずいぶん久しぶりだわ」

「雪が降るとソリに乗れるんだ。雪がなくならないといいな」

「いや、それはそれで困るな。お店も開けられないし」

大雪のせいで、パン屋さんは臨時休業しています。町のみんなもお休み中です。

 

「さぁ、着いたよ」

「ここが池? 真っ白だよ」

ちまは凍った池を見るのは初めてです。

親方は凍った池の上にどんどんソリを進めて行きます。

「親方、大丈夫なの? 池に沈まない?」

「ははは、大丈夫だよ。カチコチに凍ってるからね」

「ちまちゃん見て、子供達がスケートをしているわ」

凍った池の上をスイスイと滑っている子供たちがたくさんいます。

「あれがスケート? 変わった靴を履いてるけど」

「ちまちゃんの靴も用意してあるわよ」

「なんか面白そうだ!」

ちまは早速ソリから降りることにしました。

「ちま、滑りやすいから気をつけて降りるんだよ」

「あ、わ、わぁ」

ちまがすべって転びそうになったところをお姉さんが助けてくれました。

「ちまちゃん、片足ばかりに体重かけちゃダメ。しっかり両足でバランスとるのよ」

「は、はい、氷の上はツルツルですね」

親方は慣れた足取りで氷の上にシートを広げています。

「さぁちまちゃん、スケート靴を履くわよ」

親方がシートの上にちま専用の椅子を置いてくれました。

「ちま、ここに座りなさい」

お姉さんがバッグから赤いスケート靴を二つ出してきます。

「この小さいのがちまちゃんの靴。私が子供の頃に使ってたのよ」

椅子に座っているちまにお姉さんが靴を履かせてくれます。

お姉さんは慣れた手つきで自分も靴を履きました。

「さぁ、ちまちゃん、まずは氷の上に立つ練習よ」

ちまがお姉さんの手につかまって、ゆっくり立ち上がりました。

「お姉さん、なんか足元が、、ぐらぐらします」

「しっかりと刃の上に乗って。まっすぐに立って」

お姉さんはちまの手を持ったまま、後向きですぅっと進んで行きます。

「お、お姉さん、倒れちゃうよ」

「ちまちゃん、腰を引いちゃダメよ。しっかりまっすぐに立つの」

お姉さんはちまを引っ張ってスイスイ進んで行きます。

「どお?ちまちゃん。慣れてくると長くつより立ちやすいでしょ」

「はい」

ちまは猫なので、もともとバランス感覚が良いのです。

「ちまちゃん、左足を少し前に出して、体重を乗せて、、」

ちまはお姉さんに言われたとおりにしてみます。

「次は右足を前に出して、、」

なんとなくジグザグに進んでいるようです。

「そう、その調子よ。右、左、、」

お姉さんに引っ張られながら少しづつスピードが上がって行きます。

 

その頃、親方は鉄の棒でこつんこつんと氷に穴を開けていました。

「よし、開いたぞ」

親方は穴の前に座って釣りを始めます。

「おやかたー、見て見てー、ボク滑ってるよー」

声のする方を見ると、ちまがお姉さんに手を引かれてこちらに来るのが見えました。

「おー、ちま、上手いじゃないか」

ちまとお姉さんが親方の前まで来ました。

「親方、何してるの?」

「お魚を釣ってるんだよ」

「お魚? 氷の下にお魚がいるの?」

ちまは氷に開いた穴を除いてみましたが何も見えません。

「お、来た来た」

親方が釣り竿を上に揚げると小さな魚が2匹ついていました。

「あ、お魚だ、お魚が2匹!」

ちまが歓声をあげます。

「私はそろそろお弁当の準備をするわ。火を起こしておかなきゃね」

お姉さんが火鉢の準備を始めました。

「じゃぁボク、もう少しスケートの練習をしてますね」

ちまがちょこちょこと足を動かして滑り始めます。

「わ、わわっ、あ、いたたたた」

ですが、少し進んだところで転びました。

「ち、ちま!」

親方が慌てて駆け寄ろうとしますが、お姉さんに止められます。

「ダメよ、親方」

ちまは起き上がってまた滑り始めましたが、すぐに転びます。

親方はそんなちまの様子を見てハラハラしています。

「親方、子供はああやってスケートを覚えるの。手出ししちゃダメよ」

「そ、そうなのか、、」

「ああ見えてちまちゃんは運動神経がいいの。すぐに滑れるようになるわ」

それでも親方は心配そうにしています。

「親方、お魚をたくさん釣ったら、ちまちゃんが喜ぶわよ」

「そうか。そうだな」

親方はまた釣りを始めました。

 

「親方、見てーー」

ちまが右に左に方向を変えながら上手に滑っています。

「ボク、滑れるようになったよー」

ちまが笑いながら親方の近くまで滑って来ます。

「すごいな、ちま。もう滑れるようになったのか」

「上手な子がいたので、真似をしたら滑れるようになりました」

「お魚もたくさん釣れたぞ」

「わぁ、本当だ。楽しみだな」

お姉さん、火鉢の上にミルクのポットを置くと、

「じゃぁ、ミルクが温まるまで今度は私が滑って来るわ」

お姉さんが滑り始めると、あちこちから声がかかります。

「ユリアさーーん、こっち来てー」

「素敵! ユリアさん」

お姉さんがジャンプしたりクルクル回ったりするたびに、あちこちから歓声があがります。

「すごい、お姉さんすごい!」

ちまがビックリしてお姉さんを見ています。

「ユリアさんはスケートの選手だったんだよ」

「ボクもユリアさんみたいにスタイルの良い美人になれるかなぁ」

「美人になりたかったら野菜をたくさん食べなきゃな」

「え、野菜?野菜はちょっと、、」

ちまは野菜があまり好きじゃありません。

「お姉さんは野菜をたくさん食べているだろ」

「たしかに。お姉さんは野菜のサンドイッチとサラダばかり食べてるかも」

「そうだよ。だからちまも野菜を食べなきゃダメだ」

「はい。ボクも野菜を食べて、お姉さんみたいな美人になる!」

そう言うと、ちまはお姉さんの方に向かって滑り始めました。

「ボク、お姉さんと滑って来るね」

 

「あははは」

「うふふふ」

しばらくすると、二人が手をつないで帰って来ました。

「親方、ボクもうおなかがペコペコだよ」

「ちょうどお弁当もミルクも暖かくなっているよ」

親方がふたりに暖かいミルクを注いでくれました。

「わーい。いただきまーす」

みんなでお弁当のサンドイッチを食べ始めます。

「ちま、お魚も焼けたみたいだよ」

火鉢の網の上に小さな魚がいくつも乗っています。

「おいしい! このお魚、すごくおいしいです」

「そうか、良かったな、ちま」

「お魚は美味しいし、スケートは楽しいし、ボク、また来たいな」

「そうね、ちまちゃん、またスケートしに来ようね」

「わーい」

ちまはサンドイッチを頬張りながら、みんなの周りを滑り始めました。

「あははは、美味しいな!楽しいな!」

 

2月のお話でした。おしまい。

 

あちこちで戦争が起きてるせいか、しばらく体調不良でお休みしていました。

もう少し手をいれたらその1と結合して完成させます。

3月のカレンダーもできてないし。

 

じゃあの。

 

 

 

 

 

 

前の記事はこちら↓

 

さて飯場シリーズ第二弾です。

まず私が飯場に通うことになった経緯を説明しましょう。

 

私、学校出てから4年ほどサラリーマン生活をしていたのですが、ある日、もうやめてやる!やってられるか!と思う出来事がありまして、これからはフリーランスの映像屋さんとして食っていくぞ!なんて思ってたわけですが、そうそう仕事が来るはずもなく毎日市民プールで泳いだり、テニスの壁打ちしに行ったりしてたんです。

まぁ、慢性的な睡眠不足と超不規則な生活で心身ともにガタガタになっていたので、リハビリしていたようなもんです。

それで、手持ちの現金が無くなったのでATMでお金おろそうとしたら、残高がほぼ空っぽになっていた。

え? なんで? まだ20万円以上あったはずなんだけど?

当時はスマホアプリなんかで確認する手段なんて無いので、慌てて通帳持って記帳しに行ったんです。

そしたら、車のローンのボーナス月加算ってやつでごっそり引き落としになってたんですわ。

あーこりゃいかん、一文無しになってしもた! 入金の予定なんてまったく無いし。

とりあえず数千円でもいいから現金欲しいし。

そこで思い出したのが、学生時代の友達が日雇い労働のアルバイトしてたこと。

さっそく友達に電話したら、そこの社長にお世話になった挨拶もかねて連れていってくれるとのこと。

私の家から車で10分くらいの場所に、その飯場はありました。

関東総業って手書きの看板がかかっている、古い学生寮みたいな建屋でしたね。

「ごめんください」

玄関で声をかけると

「おう」

と言ってパンチパーマに作業服のちょっと怖そうなおじさんが出てきました。

「電話くれた兄ちゃんか?俺はここの番頭だ」

「はい。あ、これどうぞ」

と言って友人が一升瓶を差し出すと、

「おお、こりゃ悪いな、ありがとさん」

と言ってニコニコしています。

「昔、社長さんにお世話になりまして」

と言った瞬間、機嫌が悪そうな顔になって、

「へえ、そう」

と言ったきり黙ってしまいました。

後で聞いた話ですが、以前の社長は売上を持ち逃げしたらしく、その債権者が居抜きでこの飯場を差し押さえて経営してるとのこと。

番頭さんは、債権者の怖い筋の人から派遣されて来てるんですね。

「で、ウチの仕事楽じゃないけど出来るの?」

「はい、たぶん大丈夫だと思います」

私は学生の頃に解体のアルバイトしてた事があると伝えました。

「あ、そう。あの車、兄ちゃんの?」

「はい」

「車で来て、ウチの人夫運んでってくれるか?」

「はい」

「じゃ、日当¥7.500で車の手当て¥2.000の合計¥9.500で良ければ明日の朝6時に来てくれる?」

「はい、わかりました」

あっさり日払いのバイトが決まって、なんか拍子抜けしちゃいました。

さて、次の日朝6時に飯場に行きますと、むさくるしい男達が広間でワイワイガヤガヤしながら握り飯を頬張っています。

卓袱台が二つあって、その上の大皿に、にぎり飯がたくさん乗っているんです。

「山本さん、鈴木と高橋つれて浅田建設行ってくれ」

番頭さん、山本さんという人に昼食代と交通費を渡しました。

飯場に定住しているベテランは「世話役」と呼ばれていて、今風に言えば現場リーダーってヤツでして、さん付けで呼ばれています。

「内田さん、田中と川本連れて、そこの兄ちゃんの車で杉山の現場な。 あ、田中の野郎まだ寝てんのか? おい、お前、田中起こして来い!」

田中という人と同じ部屋で寝起きしてるらしい人が部屋に向かいました。

「まったくあの野郎、たった3日の満期もろくに勤めやしねえ」

田中という人は、もう4日も飯場にいるらしいのですが、腰が痛いとか調子悪いとか言って、まだ2日しか働いてないのだとか。

「番頭さん、田中、トンコしました」

起こしに行った人が戻ってきて、そう告げると

「なぁにぃーーーーー、トンコしやがっただとぉーーー」

番頭さん、大声で叫びました。

トンコっていうのは、逃走、トンヅラのことで、田中さん、夜明け前に飯場から逃げたらしいです。

広間のあちこちでクスクス笑う声が聞こえましたが、番頭さんが周囲を睨むと皆黙りました。

なんで田中さんは逃げたのでしょうか?

田中さんは4日滞在していたので、天引き一日¥4.500×4で¥18.000、ところが2日しか仕事してないので日当¥7.500×2で¥15.000しか稼げていない。

つまり¥3.000の赤字ってことです。

すると、5日目の今日¥7.500の仕事をするとプラスマイナス0で満期解放されるってことになるんですが、田中さんってば、¥3.000赤字で逃げちゃったんですね。(笑

 

「しょうがねぇ、内田さん、3人で行ってくれ。兄ちゃん、行先は内田さんが知ってるからよろしくな」

そんなこんなで、飯場のお仕事初日がスタートしたのでした。

 

第三話に続く

 

 

 

 

 

 

前の記事を読んでいない方はこのへんからどうぞ↓

 

 

 

さて、すっかりサボっていたパチプロのお話ですけど。

私、重要な事を忘れていまして、その⓹で書いた優良店の秘密っていうの書き忘れていたんですよ。

 

パチプロのネギが

「この店は甘いですきに」

と言ってたアレです。

 

私が通っていた店は、客に対する還元率が高い良く出る店っていう評判の優良店だったのですが、なぜその店はたくさん出すことができたのか?

この店の常連客は、ほとんどが私やネギが打っている権利ものと、ゴト師のツルコーが打っている一発台についていて、だいたい50人位いたと思います。

この50人が、毎日コンスタントに負けるだけで店の経営にかなり貢献していると思われます。

当時のパチンコには「定量」というものがありまして、あらかじめ店が定めた出玉に達すると「定量打ち止め」となります。

私の打っていた権利もので3000発、一発台で4000発が定量となっていました。

定量に達すると店員がやってきて「お客さん、打ち止めっす」と言ってドル箱をカウンターに運んでくれます。

この時、出玉をジェットカウンターという機械に流して計量するのですが、権利ものの場合3000発ちょい超えたところで計量ストップします。

3050発とか、そのへんで。

だいたい定量より100~200発くらい多く出てるのですが、その残り球はカウンターのお姉ちゃんが足元の大きなバケツに貯留します。

それで、客には3000発分の景品しか渡しません。余り球なんかカウントしないのです。

「定量3000発」なので客に文句は言わせないと、まあそういうことですね。

出玉3050発くらいをカウンターに流しても、3000発分の景品しか渡さないので、その分は店の儲けです。店の経営者に対しても、ちゃんと儲けが出ていると思わせることができますね。

まぁ、これくらいならどこの店でもやってる事なんですけど。

この店には「足元のバケツ」がありまして、ここに溜まった球をチョコチョコとカウンターに流してその出玉レシートを「着服」するんです。

これ、一日で相当な数量、おそらく15000~20000発位になるはずです。

2円50銭の換金で4~5万円ですね。

これをマネージャー(釘師)とお姉ちゃん(愛人)、ホール主任と副主任で分けます。

はい、税金のかからない所得が月に数十万も得られるし、ちょくちょく焼肉屋とか寿司屋とかで福利厚生しちゃったりするんですね。

だから見せかけの人件費や経費が安く抑えられるし、自分の懐は痛まないのでオーナーも文句は言わない。

そんな理由もあって、釘の甘い「良く出る優良店」に出来るんです。

常連客が沢山いて、毎日適度に勝ったり負けたりして帰る。(ほとんど負けですが)

評判がいいので客が沢山集まるし、たしかに他の店より出ている実感がある。

(いや、これもほとんどが負けなんですが)

店の経営状態が良いので、プロに対しても大目にみて寛大になれる。

磁石使いのゴト師ツルコーみたいなのが、一発台で稼げるワケです。

 

でも結局は客の懐から巻き上げているんですけどね。

ギャンブルってのは、店や胴元と勝負してるなんて考えを持っている人がほとんどですが、甘いですね。甘すぎます(笑)

たとえばパチンコだと、自分の周囲にいる人間、他の客との叩き合いなんですよ。

自分以外の客が負けるから、自分が勝てるんですよ。

店側は誰が勝とうが負けようが知ったこっちゃないんです。必ず勝つ側なんです。

だからね、本当のプロっていうのは、ひっそりと姿を消して他の客の負け分を回収していくんです。

常連客と一緒になって勝ったの負けたの騒がない。

目立たず気が付かれず、他のカモの負け分を回収するんです。

 

私、パチプロ経験をしてギャンブルの本質を知ってからは、勝とうと思ってギャンブルしたことは無いです。

あくまで遊び、レクリエーションの一種として「楽しむ」ことにしています。

 

あ、もう20年以上やってませんが、競馬の場合はちょっと違うかな。

私、競馬はたぶん収支プラスだと思います。

どうすれば勝てるか?

必勝法は「馬券を買わない事」と「当たる馬券を買う事」です。(笑

いや、まったく買わないってことじゃないんです。自信のあるレース以外買わないってことでして。

自信のあるレースなんて一日12レースで、ひとつあるかどうか。

すべての開催レースの結果をストックして、分析に分析を重ねて、考え抜いた結果の鉄板レースです。オッズなんてどうでもいいんです。

それでも、そうそうあたりゃしない。はずればっかりです。

でもね、自信のあるレース三つのうち一つでも当たれば、だいたい収支はプラスになります。

考え抜いた予想を持って競馬場に行きます。

朝、最初のレースから見ます。

パドックを見て返し馬を見てレースを見る。

もちろん馬券は買いません。

その日の馬場のコンディションや騎手の調子、レースの流れを分析します。

そしてお目当てのレースが来た時、その日の分析結果と自分の予想は合致しているかを考えます。

その結果、予想と違っていたら馬券は買いません。

そして最終レースまでしっかり見て帰ります。

競馬場へ行って、馬券を買わずに帰ることが出来るようになって収支はプラスになりましたね。まぁ、でも楽しくはないですよ。

自分の好きな馬を応援して、ワーワー声援して、勝ったの負けたの騒ぐ。

そんなのが楽しみですよね。

確実に負けますけど(笑

 

脱線しました。

パチプロのお話はたぶん後2回くらい。

仔猫のちまちゃんのお話も下書き終わってないし絵もたくさん描かなきゃだし、飯場の話も始めちゃったし、もう収集つきませんよ。

 

じゃあの。