水野の部屋を出た私は、コンビニに寄ってポップコーンと雑誌を買った。



家の前に着いた時には8時をとっくに過ぎていた。




私は、ドアノブと同じ素材でできた鍵穴に鍵を差し込んだ。




「あれ、開いてる」




店はとっくに終っている時間で、バパは店の片付けを終えると必ず鍵をかける。



しめ忘れるなんて今まで1度もなかったのに。




「ただいま」




「おう。おけーり」




真っ暗なカウンターに座っている男が私をみている。



私は溜め息をついて、店のスイッチを手探りでみつけ、明かりをつけた。




「なにやってんの?」




竹次郎はふふっと目を細めて笑い、私を見た。



「この不良娘が!今何時だと思ってるんだ!」




「…8時半くらい?」



私は壁にかかっている古い時計を指差して言った。



「そう言う意味じゃねえよ。こんな時間まで何やってたんだよ」



私はカウンターに、ガサガサとコンビニの袋を置いてから、竹次郎の横に腰掛けた。



「ちょっとね」



竹次郎は機嫌よく笑う私の横顔を怪訝そうにみる。




「何にやついてんだお前。…まさか男か!男が…」



「違うよ!ただちょっといい事があっただけ」



竹次郎は知りたそうな顔をしていたが、何かを思い出したように妙な声をあげた。



「なに?」



「お前、あの例の韓国人と歩いてたらしいな」



私は驚いて竹次郎の顔を見る。



「は?何で知ってんの?」



「やっぱりマジかよ。クラスの奴が見たって言ってるぜ。どうなんだよ」




「どうって、確かに歩いてたけど何にもないよ」



「何にもないって?なんでだ?」




こうなったら竹次郎はしつこい。

私が曖昧な事を言ってたら私が入ってる事なんかお構いなしに、お風呂にも入りかねないし、入ってきた事がある。




それは、中学の時に彼氏ができたのを誤魔化していたからだった。




「係が一緒なの。文化委員。今日呼び出されたの。なんかプリントを渡すためだって」



「プリント…」



竹次郎は自分のバックから、グシャグシャに丸められた紙を出した。



そこには「チャリティーコンサート、編集 文化委員」と書かれていた。




竹次郎はプリントをグシャグシャにまるめてバックに突っ込むと、腕を組んで首をひねった。



「なんでりかと韓国人が一緒の係なんだよ」



「知らないよ、クジでそうなったんじゃん?」



竹次郎は私が家を追い出すまで首をひねっていた。







次の朝、私は余裕をもって、かなり早く家を出た。



いつもの様に用水路の脇を歩いて学校に行く。



生え始めの草には、ビー玉のような水滴が沢山ついていて、歩くたびに草から弾かれて飛んだ。




「りか」




下を向いて歩いてると、後ろからそう呼ぶ声がした。



私が振り替えるのを戸惑っていると、彼は器用に土手を降り、私の横に並んで顔を覗きこんできた。



「今日は早イね」




ちらりとサカキ君の顔を見ると、彼はオハヨウと笑った。




私はまた下を向いて、おはようと言った。



しばらく2人は無言で歩く。



私はこの状況に気が気ではなかったが、彼は楽しそうに口笛を吹いていた。



学校が遠くに見えてきた所でサカキ君が口を開いた。



「昨日、何て逃げたりしたの?」




このままサカキ君が何も喋らずに学校に着きますように、と願っている最中だった。



私は、戸惑う。



「俺ノ事、覚えてる?」



私、サカキ君の顔を見る。真剣な表情。




「うん」



正直に言う。




「本当に?」




サカキ君、声がうわずってる。



「本当だよ。忘れた事…ないもん」



サカキ君は何かを呟いた、多分韓国語。




「今何ていったの?」




「すごい!本当に?って言った。俺本当に嬉しイ」



隣りでにこにこ笑うサカキ君を見て、私もつられて笑顔になった。



「ずっと会いたかった。りかの事忘れた事ないよ」



サカキ君は空を見た。




私は、うん。とだけ言った。



「でモ、
りかが『サカキ君』じゃなくて名前で呼んてくれたらもっと嬉しな」




「え、だって呼びにくいよ。サカキ君でいいじゃん」



私は慌ててサカキ君の顔を見る。サカキ君は難しい顔をした。



「ジャあ、1回たけ言って。お願い!」



サカキ君は人差し指をたてて、無邪気に笑った。



私、困る。
私の人生15年間で下の名前を呼びすてにしている男はアイツ以外いない。




「1回だけ?」



「うん」




「わかった。…」



「りか!」



遠くで私の名前を呼ぶ声がした。



この声は、私がこの世で名前で呼ぶ唯一の男。



「お前、俺が忠告しただろうが!そいつに近付くなって~!」



竹次郎はこっちに向かって凄い勢いで近付いてくる。



「あぁ…。
サカキ君ごめんね、アイツ、竹次郎っていって…」



「ふーん」




サカキ君はそう言って目を細めると、私の手を掴んだ。



「え…え??」




「行こ」



サカキ君はそう言うと私の手を引いて走りだした。



それを見た竹次郎はさらにスピードを上げて追いかけてくる。



登校中の生徒は、喚きちらす変な男と、そいつから手を繋いで逃げている私達を面白そうに見ていた。




「まいたな」



「うん」




私達は息を切らしながら話す。




別に竹次郎から逃げる事なかったのに。



サカキ君がボソっと何かを言った。



私、聞き取れなかったのでもう一回聞く。




「あの人、りかノ恋人?」



サカキ君、今度はハッキリと私の顔を見ずに言った。なんか怒ってる。




「竹次郎が?まさか!アイツは隣りの家に住んでるただの幼馴染みで…恋人なんかじゃないよ。」



私は、早口になる。
なんでこんなに必死に言い訳してるのか、自分でもわからない。




「…アイツの事は名前て呼ぶんダ。竹次郎って」




サカキ君は凄く怒ってみえる。

私、本当にめんどくさくなって聞いてみる。



「サカキ君が何でそんなに怒るの?
竹次郎は生まれた時からずっと一緒にいる兄弟みたいなものなの。
変だけどイイ奴なんだ」




サカキ君は私を見た。前よりさらに恐い顔になった。



「りかはあんな奴の事、好きなンだ」



私、カチンときた。



「あんな奴なんて言い方やめてよ!
サカキ君が怒る気持ちも…わかるけど…竹次郎はね…」




「竹次郎、竹次郎うるさいよ」



サカキ君の静かな声が廊下に響く。



私はその場から動けなくなる。



「俺があの時どんな気持ちてキスしたか、りかは知らない。

りかを想ってきた5年間をりかは知らナい!


受験の日にこの学校でりかヲ見つケタ時俺がとんな気持ちだっタか。


りかガ同じクラスにいるのを見テどんな気持ちだったか。


窓の外を見てるりかの横顔を見た時どんな気持ちだったか、


どンな気持ちで昨日りかに話しかけたか、


りかは知らナイ」




サカキ君は横を向き「ゴメン」と呟いた。



「ゴメン。
1人で熱くなって俺、バカだな。
りかにとっテは昔のいい思い出だよな。
もう言わナイ。忘れて」



サカキ君はバックを肩にかけ直し、後ろを向いた。
私の事、見ようともしない。




小さくなるサカキ君の後ろ姿をみながら、私はサカキ君を抱き締めたい、そうしなきゃいけないような衝動にかられた。




サカキ君は私からどんどん遠く離れていく。



早く行かなきゃ。




追いかけて、ゴメンって言おう。
私もあなたと同じくらい。




でも、私はその場を動けない。




サカキ君は、廊下の角を曲がり



見えなくなった。





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走りに走った私は、学校の外れにある体育館の裏まできて、ずるずると腰を下ろした。



「ルー…」



私は肩で大きく息をしながら、目の前の空間をぼんやり見つめた。


「ルェハ…」



私は、そう呟き。


溜め息をつく。



あり得ない間違いでも無い…か。




私は壁にもたれかかり、目を閉じる。




すると、不意にある光景が頭を過ぎり、私は顔を真っ赤に染めた。




それは、何度も思い出してきた幼い頃のルーとのキスでは、なかった。




「ひゃーありえない!ありえない!」



私は頭を犬のようにブルブルと振って、両耳を手でおさえた。




恋愛にはまるっきり奥手な私。元彼とは普通に手を繋ぐまで1ヶ月かかった。




幼い頃とはいえ、初めてキスした…初恋の相手が同じ教室にいるなんて、考えただけで頭がおかしくなりそう。




遠くから、機械的な鈍い音が聞こえてきて、耳の中で響いた。




どれくらいそこに座っていたか、我に帰った私は制服のポケットからケータイを取りだして時間をみた。




午後の授業がとっくにはじまっている時間。



さっきの機械音はチャイムの音だったようだ。




「ヤバっ」




私はケータイをポケットに押し込んで、教室へと急いだ。



1年生の校舎につき、誰もいない廊下をそろそろと歩く。




休み時間とは違い、しんと静まりかえった廊下には、講義する先生の声だけが響いている。




私、自分のクラスの前までくると、深呼吸を一つして、ドアを開けた。




視線が一斉に私に移る。熱心に古典の講義をしていた女の先生が私の方を向いた。




この先生、髪の毛をキッチリと後ろで纏め、派手な赤いセーターに、黒いズボンをはいている。



歳は50代後半くらいで、名前は確か荒巻。
入学式の後の学年集会で、学年主任だと紹介されていた。




荒巻先生は、つり上がった眼鏡の奥から、皺の刻まれた厳しい目元でこっちの様子を伺っていた。




「遅れてしまってすみません、早瀬です。私…」




走りながら考えてきた、ありきたりな言い訳をしようとするより先に、先生は口を開いた。




「気分悪かったんだってね。
顔が少し赤いね、だいじょぶかい?熱は?」



「あ、あの、微…熱だったので大丈夫です」



「それじゃ、早く席に着きなさい。無理しないように」



見た目とは違う荒巻先生の優しい言葉に驚きつつ、皆の注目を浴びながら自分の席につく。




荒巻先生は手を叩いて自分に注目を集めると、また古典を学ぶ重要性について話だした。




サカキ君が先生に嘘ついてくれたのか…な。お礼言わなきゃ。




しかし、私はサカキ君の方に目をやる事もできず、午後の授業は終わりホームルームが始まった。



「連絡事項のある奴いるか?」




自分の連絡を一通り喋り終えて水野は言った。




「ハイ」




皆が一斉に声のした方を向いた。



「なんだ榊」




「紙かアリマス」



「紙?」



水野はサカキ君が持っている紙に目をやった。


「あぁ文化委員のプリントな。

よし、前に出てきて配れ」



サカキ君は、プリントを1列ずつ配った。
私の列まできた時、彼の視線を感じたが、私は下を向いてしまった。




サカキ君はプリントを配り終えると自分の席についた。




回ってきたプリントには、学校のコーラス部と吹奏楽部が街のチャリティーコンサートに参加するので、暇な人はぜひ行くように、という内容が書かれていた。




生徒会室、わかったんだ。




私はプリントを見ながらぼんやり考えていた。
すると、ガヤガヤと騒がしい声が聞こえてきた。




顔をあげるとホームルームは終っていて、皆は帰る用意をしたり、ふざけあったりしていた。




「早瀬、ちょっとこい」



私、水野に呼ばれ、教壇の前までいく。




「今から少しだけいいか?」




陸上部の事だと直感した私は断るチャンスだと思い、大丈夫ですと答えた。




「よし。じゃあ俺は職員室によって行くから、体育教官室に行って待っといてくれ」




私は生返事をして、教室を出て行く水野を目で追って、自分の机に戻り、友達にさよならをして鞄を掴んだ。




私の通ってる海陽高校は、部活動が盛んで、バスケ部とバレー部が主に使っている中央体育館。



フェンシング部、剣道部、柔道部、弓道部、レスリング部が使っている2階建ての武道場。



そして、校内の外れに卓球部、バトミントン部が使っている第1体育館、と体育館が3つもある。


水野の教官室は第1体育館の2階にあって部活動生以外は滅多にここまでは来ない。



私は教官室の前まできて、念のためにノックをしてみたが、返事は返ってこなかった。




「失礼します」



私はドアノブを回し、中に入ると、すぐに鼻を両手で抑えた。




部屋の中は煙草と汗の匂いが混ざってむせ返りそうだ。



水野の教官室の奥には職員用の大きな机、本棚、手前にはパイプイスが2脚と冷蔵庫が置いてあり、


6畳ほどのスペースにはものが溢れて居心地はサイアク。



美味しいとは言えない空気を吸いすぎた私は、たまらず部屋にひとつだけある小窓を開けて外の空気を吸い込んだ。



机の上には雑誌やプリント類が乱雑に置かれ、安っぽい銀色の灰皿には吸い殻がこんもりとつまれている。




「お、来たな。よし、ここに座れ」




水野はパイプイスの方を指差して、ジャージを脱いだ。




私は所々破れて、スポンジが飛び出ている、座り心地が良いとはいえないイスに腰掛ける。



水野は脱いだジャージを自分のイスの背にかけて、煙草に火をつけて険しい顔で2、3度吸い込んだ。



「さて、なんで呼び出されているかわかるか?早瀬」




水野は煙草を吸い殻の山に押し付けて消した。
部屋の中にムワッとした嫌な匂いが立ち込る。



「陸上部になぜ入らないかということですか?」




水野は、静かに笑ってもう1つのパイプイスを私の横に持ってきてそこに腰掛けた。




「早瀬、お前今日体育館の裏でなにしてた?」




水野はさっきまで吸っていた煙草の匂いがはっきりとわかる距離まで顔を近付けてきた。




「えっ」




私は水野の顔を見る。
水野は眉間に皺をよせ、促すような顔で私を見つめ返した。




「昼休みが終って、授業が始まっているのに体育館の裏でしゃがみこんでいただろう。
何かあったのか?」




「あ、えっと、その…気分が」




「お前が勢いよく走っていったのも見たぞ。気分が悪い奴があんなふうに走れるか?」




私は下を向いてしまった。気付いてからはすぐ教室に戻ったし、授業をさぼる気なんて無かった。




「先生、私…」




「早瀬、ポケットの中、見せてみろ。携帯があるんじゃないのか?」




「……はい」




「出してみろ」




私、ケータイをポケットから出して水野に見せる。



「いいか早瀬、携帯は校則違反だぞ。
学年集会の時にも、始めのホームルームの時にも言ってただろ。聞いて無かったのか?」



水野は大きな手のひらを私の方に見せて、携帯をのせるように促した。




私は渋々と水野に従う。



「どうしたんだ、早瀬」



水野は私のケータイを握りしめて私の顔を見つめた。



「中学校の時はあんなに部活を頑張ってただろう。顧問の先生からも聞いたぞ」




私、下を向く。



何もわかって無いくせに。




水野は続けた。




「それが高校入学2日目から遅刻、サボり、校則違反。なにか不満でもあるのか?」



「違います!ケータイだって…」




「何だ?」




「なんでも…ありません」




私、ケータイなんかクラス全員が持ってます…なんて、最低な事を言いそうになる。



「早瀬、先生に言ってくれないか?
あんなに部活を頑張ってたのに。部活はやらない、そんな派手な格好をして違反をする。
そんなんじゃ…」




「何も言わなかったら親に報告しますか?」




「必要があればそうする事もある」



私は小さく息を吐いて、水野の方を向いた。




「派手な格好は…してみたかったんです。
中学校の時は部活してたからできなくて…。
部活はできません…家の、手伝いをしなきゃいけないんです。」



「家の手伝い?」




「そうなんです。お母さん、去年の夏に死んじゃって。
父は店をやってるんで、力になりたくて」




私は明るく笑いながら、何でもない事のように話した。




「…だから、本当に悪い事したいとかじゃないんです。
先生…父には言わないで下さい。迷惑かけたくないんです」




私、無意識に声がうわずってる。




水野は席を立ち、机の前まできて煙草に火をつけた。




「つらかったな」




水野は一言だけそう言って煙りを吐いた。



暫く沈黙が続き、水野が口を開けた。



「よし、早瀬。この部屋片付けるか?」




「え?」




「お前がこの部屋、綺麗にしてくれたら、携帯、返してやるぞ。
お父さんにも、もちろん言わない」




「本当!?」




私は弾かれたようにイスから立ち上がった。




「ああ、体育教師に二言は無い」




そう言って、水野は少年のように笑った。




私は、机の上に散らかった書類、雑誌を分けて棚に戻し、溜まった煙草の吸い殻を捨てて、丁寧に床を掃いた。




ポットや、コップ、灰皿を洗い、冷蔵庫の中の賞味期限切れの物や照明についた埃、集めたゴミ袋に入れた。




仕上げに雑巾掛けして掃除が終わった頃には、19時を回っていた。




水野はご苦労さん、と言って、冷蔵庫からスポーツ飲料を出して私に投げてくれた。




私は喉がカラカラだったので、それをいっきに飲み干した。




「ほら、もう一丁いくぞ」




水野は私のケータイを投げるフりをした。



「あっ!」



私は慌てて両手を前に出す。




「冗談、もう携帯、持ってくるなよ。まあ、たまに持ってきてもらおうかな」



水野はそう言ってケータイを私にくれ、頭をポンポンと叩いた。




「いい先生じゃん」



私は教官室のドアを閉めて独り言を言った。



ママが死んだ時、私は色んな人に慰めの言葉をもらった。長々と手紙に3枚も書いてくれた人もいた。



でも私が求めていたのはそんな大袈裟な言葉じゃない。




私は水野が言ってくれた、たった一言が嬉しかった。




私はベッドから立ち上がり、パジャマを脱いで姿見の前に立った。



「サイアク」



私の瞼は昨夜あまり寝付けなかったせいで、少しむくんでいた。




私は腰に目を落とす。



左腰に、古い大きな傷が見える。




私はよく覚えてないのだが、幼い頃に怪我をしたらしい。



私は掛けられている制服をとりにいった。




準備を終えて家を出る頃にはホームルームが始まる時間だった。




校門の近くまで走ると、ゆっくり歩いている女の子が目に入った。




なんだ。そんなに急がなくてもよかったんだ。




私はポケットからケータイを取り出して時間を確かめた。



8:58
もうホームルームが終わって1限目の授業が始まりそうな時間。




私は驚いて、また走り出す。



ただでさえ水野に目をつけられているのに、これ以上あいつに関わりたくなかった。



女の子を追い抜こうとした時
「ハヤセ!」
とその子がよんだ。




「あ、え?」




私はその子の方を見る。全然知らない子だ。




「え~っと、ごめん。誰だっけ?」




急いでる事を忘れて、その子の顔をもう一度見てみた。




真っ黒な髪にクルクルと細いパーマがかかっていて、色素の薄い目、西洋人形のような可愛い顔立ちをしてる。




背は低めで、私の肩ぐらいだから155センチないくらい。




「早瀬でしょ?あんた。陸上で全国に行ったとかいう」



顔からはちょっと想像つかないサバサバとした口調。




「あ~。同じクラスだよね?確か」




昨日、水野が教室に入ってくるまで席に着いていた中で、こんな頭の子が寝ていた事を思いだした。




「うん。同じ」



西洋人形は無表情でそう答えた。




「へ~…」



私達は一緒に歩きだした。
が、校門に差し掛かると遅刻している事を思い出した。




「ねえ、もう授業始まってんだけど…」



「知ってるよ」



「なんで急がないの?」



「遅刻するんなら1分も1時間も同じだから」




西洋人形がたんたんとそう言うので私は一瞬そうかな、と納得しそうになった。



「それ違うと思う。私はだけど」




私はゆっくりと歩いている西洋人形に向かって私は遠慮がちに言ってみた。



「うん。あたしもそう思う」



西洋人形はそう言ってスタスタと歩いていった。



「変な子」



私はクルクルパーマの後を急いで追った。




一緒に教室に入った私達は皆の注目を浴びながら、1限目担当の英語の女教師にガッツリ怒られ、授業が終わった後、職員室にいる水野のところに行くように言われた。




私が気まずくて下を向きながら席に着いたのに対して、西洋人形は王女の様に歩き、席に着いていた。




「早瀬、中島、こい」




授業ががおわると、水野がドアを開けて入ってきた。




私と「中島」は水野について職員室に行き、水野の机の前に立たされた。




また怒られると身構えていた私達(私だけのような気がするけど)に水野は、次の事を淡々と言った。




3限目が始まる前に体力測定用の機材を体育委員を手伝って出しておく事。



クジで委員決めをしたけど私達がいなかったので適当に決めたという事。



遅刻をしないようにする事。



「中島さんって言うんだ。下の名前なんていうの?」



私は職員室のドアを閉めながらクルクルパーマの中島を見た。




「愛。でも中島でいいよ」



「あ、オッケー」



中島とはそれから何も話さずに、教室に戻った。



中島は教室に戻るまで鼻歌で、聞いた事の無い明るい曲を歌っていた。




教室に戻ると、横の席のおとなしそうな女の子が、さっき決まった委員が書かれたノートを見せてくれた。



その子は学級委員長になったというので、私が「最悪じゃん」と言うと、首を横に振りながら立候補したと言った。




「早瀬さんは確か文化委員だったよ」




委員長はそう言いながらノートを渡してくれた。



私の名前は確かに「文化委員」と書かれた欄にあって、そのとなりには「あの人」の名前が書かれてあった。



「文化委員ってなにやるの?」



委員長に聞いてみる。



「11月の文化祭でクラスをまとめて、それ以外は暇らしいよ」



「そっか」




私の横に書かれてたあの人を見てみると、相変わらず女の子に囲まれながら笑っていた。




私はこの日の午前中、授業をまじめに聞き、何人かの子と親しくなり、体力測定の準備をした。




「文化委員は昼休みまでに生徒会室まで来てください。繰り返します――」



仲良くなった子達とお弁当を食べているとこんな学内放送がながれた。




「ね、りかって文化委員になったんじゃなかった?」



「そうだよ、行っておいでよ。あと1人誰?」




「わかんない。いいよ、1人で行く」




私は、サカキ君の方は見ずに教室を出た。




文化祭まで暇じゃなかったのか、文化委員。

あ、生徒会室がどこにあるか聞いて無い。




教室のドアを開けようとすると、先にドアが開き「サカキ君」と女の子2人が出てきた。



私が、無視して教室に戻ろうとすると、サカキ君が話しかけてきた。



「イっしょニイコウよ。ぼく委員。おナジ」



「あ、うん」



私はサカキ君を見る。



女の子達が私を見る。いい表情、とはちょっと言えない。



「ルェハ~。あたし達も行くってぇ」



女の子達はサカキ君の腕を引っ張った。




「早瀬サンイル。だイじょうぶ。さ、イコ」



女の子達の冷やかな視線を後ろに感じながら、私はサカキ君の後ろを追った。




黙々と歩くサカキ君の後ろを歩く事、約5分。




「ねえ、生徒会室どこにあるか知ってるの?」



「え?」




「だから、どこに、行くか、わかってる?ウェア?」




サカキ君は笑って私を見ている。




「シラナイ」




私、ガクリと肩を落とす。




ここはどこだろ?




「サカキ君、とりあえず、下、に、おりるよ。Down、OK?」




サカキ君は「OK」と笑って言った。




今いる、音楽室や美術室が並んだ階から下に降りても、上に上がっても生徒会室は見つからなかった。



「私、聞いてくる、職員室で。
職員室って何て言うんだっけ。
ティーチャールーム、いい?」



私がジェスチャーを交えながらそう言うと、サカキ君はクックックッと体を曲げて笑い出した。




「え?なに?」



私は意味が分からず笑い転げる外人を見ていた。



「職員室はね、staff roomでイイと思うよ」



サカキ君は涙目になりながらそう言った。




「あ、そう。…え?」



私は聞こえてきた流暢な日本語に驚く。




「え?」




「あ、俺、けっこう日本語わカるよ。
母サン日本人たし。発音は旨くてきないけと」





コイツっ!





「ねぇねぇ、何てサッきから黙ってるの?」




私はこの生意気な外人がいないかのように、歩いた。




「おーい。さっきも通っタよココ」




私は立ち止り、後ろからついてくるサカキ君を睨んだ。




「なんで黙ってたの?」



「ナニ?」




「日本語。喋れるのに何で黙ってたの?私バカみたいじゃん」




私は静かに言った。




「日本人、外人に優しいでしョ?たから」




「ねえ、黙っててくレない?
徐々に喋れるようになル予定たから」



そう言ってサカキ君は笑った。




私、笑えない。




「知らない」




この場から離れようとした私は腕をつかまれた。




「何するの?やめてよ!」




私は掴んでる手を離そうと腕をぶんぶん振る。




「前と同じコト言ってる」



無礼な男は怒ってる私をみながら目をキラキラさせている。




「離してって言ってるでしょ!」




私が腕を強く引くと同時に奴は手を離した。




私はその勢いでこけそうになる。




「大丈夫?」




私、また腕を掴まれそうになったので、その手を払う。



「触んないで!」




「…さっき」


私、少し冷静になる。



「同じ事言ってるってたけど、…どういう意味?」




「初めて会った時モ言われた。怒って『やめて』ッて」




私はサカキ君の顔をしばらく見る。
まさか…いやいや、考え直す。




「りか、もう、俺の事忘た?」




私はその場に立ち尽くす。足の裏が床に糊付けされたみたいに。




「ルー」は悲しそうな顔でこっちをみた。




私は、



たまらず、





逃げ出した。




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