宇佐から別府に向けて特急ソニック号に乗り込む。いかつい顔の青いヤツ。ぼくは特段〝鉄ちゃん〟ではないが、地域によって電車の色やデザインが違うのは、旅の気分を大いに盛り上げてくれる。
ところで、ぼくは九州の方言やイントネーションが好きだ。東京というかJR東日本の駅であれば
「うさ⤵︎ うさ⤵︎ です」
になるかと思うが、ここでは
「うーさー うーさー」
と抑揚の少ない、それでいて溌溂とした笑顔を連想させる女性(録音)のアナウンスであった。
もう15年も前になるか、出張で福岡にいたある晩、ひとり居酒屋でちびちびやっていた。
テーブルに置かれた共用の醤油だったか何かに手を伸ばそうとしたとき、隣り席の女性が手伝ってくれて、それがキッカケでそのまま一献付き合ってもらったことがあった。彼女は久留米出身とのことだったが、
「〜っちゃ」
ぼくは思わず「も、もう一回言って」とお願いしてしまった。
〝っちゃ〟って... 〝ラムちゃん〟かキミは。
恋に落ちそうな瞬間であった。
そんな甘い思い出に浸るも束の間、30分程で日本一の温泉街といわれる〝別府〟に到着。
日本一と云われる理由は〝源泉数〟と〝温泉湧出量〟が日本一だからとか。
別府駅を出てまず目に飛び込んできたのが〝ピカピカのおじさん〟の銅像。
こういうのって大阪っていうイメージだけど。
いや... 〝エッチビル〟って、今さっき着いたばっかだよ、別府ったら♡
別府タワー北側の眺望。
砂浜があるだけでリゾート感が漂う。
西側の眺望。
湯けむりを期待していたが、この日は見えなかった。
別府タワーの窓ガラスは所々ヒビが入っており、年季を感じさせる。修繕されていないところを見ると、客足もあまりないと思われる。
気立ての良い受付の女性から色々と別府の話を聞くことができたのが良かった。因みに、ここは夜景がキレイだと言うので、ホテルにチェックインしたあと戻ってくるつもりでいたが、夜は雨が降り出し、断念した。
別府は源泉地によりいくつかのエリアに分かれていて、それらをまとめて〝別府温泉〟と呼ぶそうである。
今回泊まったのは〝堀田温泉〟というエリアにある『リゾーピア別府』で、和モダンな部屋がなかなか良い。
武道場?のような畳の肌触りが疲れた素足に心地良い。
革張りソファもゴロゴロできて童心に帰る。
全国制覇の前にまず九州を制覇したい。今回の旅行でそんな気持ちになった。残すは佐賀、長崎、宮崎、鹿児島の4県。
九州の人に言わせると、同じ九州でも場所によって方言や文化が異なると云う。そりゃそうだろう。東京でも下町と山手、さらにその中でもエリアによって人々や町の雰囲気が変わる。
そう言えば(ビールで思考が一気にドイツへ)ケルンの友人を訪ねた際、友人家族が異口同音にケルンとデュッセルドルフの〝不仲〟を面白おかしく語ってくれた。不仲と言っても決して争いごとがあるわけではなく、互いに揶揄し合うのを楽しんでいるようであった。
まず絶対に互いの地ビールを貶し合う。
ケルン=ケルシュというピルスナー、明るい色
vs
デュッセルドルフ=アルトビール(古いビールという意味)、暗い色
ぼくは断然、黒ビール派なのだが、黙ってケルシュを頂いた。
友人は Düsseldorf を Düsseldoof なんて言って笑っていた。‘dorf’ はもともと〝村〟という意味で、‘doof’ は〝うすのろ〟くらいの意味らしい。
日本でもエスカレーターでの立ち位置や、醤油か塩か?いや味噌か?みたいな地域差があり、非常に興味深い。
エスカレーターに関しては、関西以西はみな右に立つのかと思いきや、大分ではみな左に立っていた。
職場で九州出身の若いヤツに、
「〜でしょ」
とタメ口をきかれ、それを聞いていた別の部下が
「テメー誰に向かって口きいてんだ?」
なんて叱責したという珍事があったが、九州で「でしょ」は敬語だとか。
じゃ、タメ口ではどう言うのか。
「〜やろ」
らしい。
翌朝、雨降りしきる中〝明礬温泉〟へ。
開店と同時に着いたのもあるが、雨だったのが功を奏して?客はぼくのほかに数人だけ。
〝撮影厳禁〟だというので写真はないが、入浴剤でも入れたかのような青みがかった乳白色は幻想的であった。単純鉱泉のサッパリとした堀田温泉とは対照的に、硫黄分の濃いとろみ感のあるお湯。同じ別府温泉でも、泉質は色々あるようだ。
明礬の湯を楽しんだあと、クルマで杵築市へ向かったのだが、途中〝湯けむり展望台〟の案内標示を発見。雨が降っていたので心配だったが立ち寄ることに。
ここは〝21世紀に残したい日本の風景百選〟の2位にランクインしていた場所。晴れているとあまり湯けむりが上がらないらしく、またしてもラッキーであった。