「仮題・ぬえの密室」綾辻行人 | 京都市某区深泥丘界隈

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綾辻行人原作『深泥丘奇談』の舞台、京都市某区深泥丘界隈を紹介します。内容は筆者個人の恣意的な感想に過ぎず、原作者や出版社とは関係ありません。

 

 

 

 「仮題・ぬえの密室」は、2022年8月10日に出版された綾辻行人先生の短編集『人間じゃない〈完全版〉』に収載された作品です。元々は、2017年9月に出版された『7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー』のために書き下ろされた一編です。綾辻先生の作品としては極めて珍しく、小野不由美先生、我孫子武丸先生、法月綸太郎先生、麻耶雄嵩先生といった実在の人物が登場します。このブログを読んでいただいている方はよくご存じと思いますが、皆さん京都大学推理小説研究会(略称「京大ミステリ研」)出身です。京大ミステリ研では部員による「犯人当て小説」の発表が伝統になっていて、部室には第1回から最新作までの一覧表が掲示されているとのことです。

 

 「仮題・ぬえの密室」は、部室には掲示されていない「すごく奇妙な犯人当て小説」があったような気がするが、誰もその題名や作者を覚えていないというお話です。我孫子先生、法月先生は綾辻先生の自宅へ招かれ、奥さんの小野先生を交えて、何時何処でどんな話を誰が発表したのか推理していきます。その過程で、タイトルは『ぬえの密室』だったのではないかとおぼろげに解ってきます。作品の中でも触れられているように、「ぬえ」とは『平家物語』『源平盛衰記』や横溝正史の『悪霊島』に登場する「鵼」あるいは「鵺」と書く架空のキメラ生物です。「ぬえ」とは書かれていませんが『深泥丘奇談』にも「ぬえ」を連想させる生物がしばしば登場します。私のブログ「タマミフル」は「仮題・ぬえの密室」に触発されて書かせていただきました。

 

 そして、その話が語られた場所も百万遍の喫茶店〈らんぶる〉であることが解ってきます。〈らんぶる〉もかつて実在した喫茶店です。ただ、残念ながらすでに閉店しており、別の店に建て替わっています。

 

 

 

 

 写真はかつて〈らんぶる〉があった場所にある建物です。『京都謎解き四季報 古書と誤解と銀河鉄道』のところでご紹介した「すき家」のすぐ北側に建っています。壁面にデカデカと「充実POD」と書かれていますが、どう見ても印刷屋らしからぬ怪しげなお店です。調べてみるとどうやら「ジャジャーンカラ京大BOX店」というカラオケ店のようです。公式サイトにリンクを貼っているので、ご覧いただければと思いますが、学生運動の拠点になっている集会ルームを再現した「熱烈!集会ルーム」や、森見登美彦先生の『四畳半神話大系』にでてくるような「京大生の溜まり場ルーム」といった部屋があるユニークなお店です。京都の学生寮に住んでいる人たちがアイディアを出したそうです。

 

 古くからの喫茶店がなくなったり、立て看板が撤去されたり、百万遍の風景が変化していくのは寂しいものですが、こういったけったいなカラオケ店等が、学生の文化を継承していく場所になってくれればと思います。