お店をオープンしたのは
12月の寒い時期だった。


気付けばあっという間に
今日はクリスマスイブだ。


団体のお客さんに知り合いに私のお友達にとプレオープン以来のお店の賑わい。
これまた満員御礼。

寒いはずの12月だが、私は半袖で汗をかきながらお酒と料理を運び続ける。

クリスマスイヴ感、全くなし。


すると友達がケーキを持ってお店に来てくれた。

やっとクリスマスイヴの雰囲気を感じ始める。


ひと段落したのでケーキを食べに行こうとすると常連さんが声をかけてきた。


“あゆみちゃんお客さんだよ!“


“(私のケーキタイミング!!)“


ケーキのフタを閉じ、再びお客さんの元へ戻る。
そして入り口に立って待っているお客さんに


“いらっしゃいませ!何名さま...“


と振り向き声をかけると
静かに・・・

『1』のポーズをしている。








石田さんだ。


今日はいつもと雰囲気が違うからすぐに気付かなかった。

赤のライダースジャケットに黒のスキニーパンツ、大きな荷物を持って現れた。


よりによって今日は、プレオープンの時を思い出させるかのような大盛況。

盛り上がりまくってるお客さんとお客さんとの間のカウンターしか空いていない。


“(今日はこの雰囲気
ゆっくり仕事出来ないかと...)“

と心の中で伝える。


しかし仕方がない。ここは居酒屋だ。嫌になったら帰るだろう。


“こんばんは!こちらどうぞ!“


座るのですらギュウギュウなカウンターの席に大きな荷物を抱えながら座った。


“お荷物、お預かりしておきましょうか?“


“あ、いいんすか?すんません、お願いします“


いつも通りの
謙虚暗男くんだ



“生ビールでいいですか?“

“あ、はい。すんません。ありがとうございます“


“(この人、なんでこのお店でわざわざ飲むんだろう?もっと静かな所で飲めばいいのに)“


そして生ビールを持っていく。

あれ?今日はパソコンを出していない?
さすがにこの空気では本人も仕事は無理だと気づいているようだ。


"(それなら今日は話せるかな!)“

お客さんでこんなに話してない人は石田さんくらい。
そろそろ慣れてきてくれたはずだから話す良い機会かもしれない。

オーダーを取りつつ話しかけにいこうとした。


その時。


飲みに来ていた友達が声をかけてくる。

“ケーキ食べたーーい!“

お酒が進んで陽気になってきている。食べさせて早めに帰らせてあげよう。


“オッケー!今切ってくるね!“


この時には
石田さんに声をかける事は
もうすっかり忘れてしまっていた。



友達にケーキを持っていきながら彼氏と別れたばかりの友達の話を聞く。妄想話の好きな友達。

慰める代わりに妄想話に付き合い話に乗っかる私。



“彼氏、優しいんだよねー“(妄想)


“えーいいなぁ。私の彼氏は顔はイケメンなんだけど全然優しくないんだよねー。“(妄想)


と妄想話をしゲラゲラ笑い合う。
友達も元気が出てきたようだ。よかった。

“残ってるケーキはお客さんにあげて“

と言い友達は帰った。

カウンターを見渡すがこの時間に飲みながらケーキを食べれそうな年齢層は、、、居ない。


すると石田さんと目が合う。


“(あ!話そうと思ってたしケーキのこと聞いてみよう)“



“石田さん。ケーキ食べます?“


“え、ケーキっすか!?
あ、はい。いただきます。“


安定の即答。



“今日クリスマスイヴなんで
友達が持ってきてくれたんです!
食べきれないので良かったら、、“


“嬉しいっす!ありがとうございます!“



どうやらケーキ好きだったようだ。とても喜んで食べている。もっと大きいカットをあげればよかった。





“お酒、おかわり持ってきます?“


“あ、このあと予定あるんで今日は帰ります“



一杯で帰るなんて珍しい。


お会計をして預かっていた大きな荷物を渡す。
 



“めちゃくちゃ大荷物ですね!“


と言うと

 


“あ、はい。今日これからパーティーなんで“


と。




そこで私はハッ!となった。







やっぱり

この人
芸能人なんだ!




話しかけていこうと思ってたけど私なんかがズカズカと踏み込んではいけない違う世界の人だ。



だからこれからは
あまり余計な事を聞くのは、、




やっぱりやめとこう。



つづく。




ほいでは!