今、世間を騒がせているビッグモーターに関しては幾つもの相談が寄せされている。
主にメディアの取材依頼であるがここで、鑑定人の立場について申し上げる。
【交通事故鑑定人とアジャスター】
自動車事故にまつわる職能で鑑定人とアジャスターがいる。
アジャスターも鑑定人と名乗ることが多々あるため傍目から見るとヤヤコシイ。
ここで鑑定人とアジャスターについて整理する。
【鑑定人とは】
そもそも、鑑定人には二種類いて医療鑑定と工学鑑定に分類できる。
医療鑑定を大雑把に言えば医師が後遺障害について医学的知見を述べるものだ。
工学鑑定は道路交通法上の義務を履行したか否かを痕跡等から判ずる職能である。
こと工学鑑定に限って言えばいわゆる過失割合判断が専らの業務だ。
そのため、損害額の個々については不得手分野である。
【アジャスターとは】
他方、アジャスターは事故の損害額が幾らが妥当かを算定する職能である。
ディーラーや修理工場から上がってきた見積の査定が専らの業務だ。
過失割合に言及するアジャスターもいるが、勉強不足の点は否めない。
車両の構造については詳しいが、事故の機序や法令については不得手分野である。
【ビッグモーター不正】
よく聞かれることがビッグモーターの修理見積不正に気付かなかったのかという点。
コレについては交通事故実務者はとっくに知っている。
ただ、この手の過剰修理や傷をねつ造するのはビッグモーターに限ったことではない。
町の整備工場でもやっているので我々は車両の修理見積を信頼していないのが実態だ。
また、数百万から時として億を超える人的損害に比べれば修理費は些末な金額である。
水増しした金額にしても5~10万程度。
これらを審らかにする鑑定費用の方が高い。
つまり実務者からすると、「あ~察し・・・」という感覚である。
何処でもやっていることなのでビッグモーターの社員にも罪悪感はなかった筈だ。
不正であるものの 天使の分け前的な小銭 というのが現実である。
ある種の商習慣として定着していた部分も否めない。
保険や修理業界的に見過ごされてきたのはこのためだ。
【誰が不正を暴くのか】
誰が不正を暴くべきだったのか?・・・・これは原理的にアジャスターの仕事である。
しかし、アジャスターにこの職責を担わせるのは酷と言えば酷・・・・
彼らは道路交通法の過失の構成要件や工学的機序の勉強を殆どしていないからだ。
中には 「何でこの人は鑑定人にならないんだろうという?」 という秀でた人もいる。
おそらく、独学と実務の中で研鑽された技術であろう。
しかしコレは例外中の例外で殆どのアジャスターは事故解明に必要な教育を受けていない。
他方、交通事故鑑定人は修理不正を審らかにすることは求められていない。
つまり、5~10万程度の過剰見積を見破る職能が必要とされてこなかった事が原因である。
【受益者は誰か?】
今回の過剰修理等の受益者は当然ビッグモーターである。
しかしながら、過剰修理でエンドユーザーも少なからず受益はあった筈だ。
消耗品の早期交換や小傷のサービス修理などで恩恵は受けているはずである。
例えば事故修繕の際に
「ついでにサービスでココも修理しときました」
とメカニックから告げられて異を唱える消費者はいないだろう。
つまり、厳密に捜査すれば消費者も不正請求の恩恵を被った共犯者だ。
勿論、保険等級によって損を強いられたユーザーもいることにはいるだろう。
しかし、保険を使用するか否かは契約者の判断だ。
100%過失がある事故など滅多にないため保険使用は避けられない。
ビッグモーターのみに責を押しつけることには強い違和感を覚える。
【敢えて炎上覚悟で話すリアル】
敢えて炎上覚悟で言わせて貰う。
今回の事案で不正に気づかなかった保険会社の方に問題がある。
民事訴訟の世界は結構非人情で、請求しなかったら賠償して貰えない。
言い方は悪いが不正に気づかない方がヴォケというのが罷り通る世界だ。
損保は今回の事件で査定能力の低さを露呈したにすぎない。
【ビッグモーターについて】
そもそも、広大な敷地・湯水の様な宣伝を掛けているのがビッグモーターだ。
それらコストが車両価格に上乗せされている事は当然である。
いわば同じ車であれば町工場で買った方が断然安い。
何でこんな簡単なことに気付かないのだろう?という気持ちの方が強い。
勿論、BM社のブラックな働かせ方や除草剤散布に対しては憤りは感じている。
この件については刑事的責任追及は必要だ。
【慚愧に堪えない】
この事件で慚愧に堪えないことがある。
確かに不正請求はいけないことであるがこれを過度に追求するとどうなるか?
査定コストが跳ね上がり、その分は保険料に上乗せされる。
また、厳密に査定すればサービス修繕などもできなくなる。
結果的に割を食うのは消費者だ。
そろそろ冷静さを取り戻していい頃だと思う。