高裁では、私の鑑定が全面的に採用され、第一審の鑑定人の見解は否定されている。
当然、第一審判決は破棄され、原告の要求を全て退けた。
つまり、行政の責任を一部認めていた判決が第二審でひっくり返ったのである。
原告は一円も貰えないばかりか、一級建築士による鑑定費用まで全額負担となった。
私の鑑定費用の約90万円も、訴訟が提起されなければ必要なかった性質のものである。
市民感覚的な筋論から言えば、本来は原告が負担するべきではなかろうか。
これらについては請求はなされていないのは、おそらく、行政の温情であろう。
しかし、この支出が市民オンブズマンなどの目にとまれば、返還訴訟が惹起される危惧もある。
つまり、原告は行政が負担した訴訟費用返還訴訟に怯える惨憺たる結果に終わった。
ここで、原告の敗因について考えて見よう。
この事案で特徴的なことは、原告が自ら積極的に立証していないことが挙げられる。
いわば、被告側の事前・事後調査写真を用いており、自ら行ったのは、補修費の積算のみ。
自ら行ったとはいえ、修繕業者に丸投げで全て他人任せである。
具体的に何処がどのように変異したか・・・・損壊したかについて証拠保全を怠った。
また、先の記事でも上げたが、浴室タイルのクラック(亀裂)についても問題がある。
建築士が指摘した同箇所の損傷が誤りであることを原告は知っていたはずだ。
自身の家であれば、影によって生成されたものか実際に目で見れば判るからである。
これについても、シラを切り、工事によって出来た損傷として請求を継続させた。
この行為は、原告自身が真実をねじ曲げたと捉えられても仕方のない行為である。
裁判官の心証を害したのはこういった事情もあったのであろう。
原告は、事前事後の画像を見て、家屋の亀裂が伸長したと思い込んだと思う。
確かに、写真を目視しただけでは、工事後の方が損害が拡大していたように見える。
損傷部分のピクセルを数えれば、事後の方が大きい。
しかし、これは、撮影したカメラ画素数の相違に由来するものである。
実際は撮影したカメラ性能の差によって、事後の方が鮮明に撮影されていただけだ。
強い思い込み・・・・これは、素人が陥りやすい罠でもある。
もし仮に、提訴前に専門家に相談していれば、その思い込みに気づけたかも知れない。
鑑定可否を推測するための予備調査であれば費用は廉価だ。
今回の鑑定では100箇所以上の痕跡が鑑定対象だが、予備的に数箇所検証のみ。
いわゆる、抜き取り検査だ。
費用は10万円程度であるが、裁判費用よりも相当に安いことになる。
予検査で不利な結論が出れば、裁判で勝てる見込みは低い。
これらを真摯に受け止めれば、提訴を控える選択肢もあった筈である。
提訴前なら、「お止めなさい」 と忌憚無きアドバイスも可能だったからだ。
現に、私の元に相談に来る依頼者の相当数は予検査とアドバイスだけで終わっている。
しかし、一旦、訴訟に上れば、鑑定人は忌憚無きアドバイスなど出来ない。
また、裁判であれば全件検査となるため、鑑定費用は跳ね上がる。
提訴前の準備を怠ったこと・・・・これが原告の敗因であることに相違ない。
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一般社団法人 法科学解析研究所 代表理事 石橋宏典