犬神家の一族で思うこと その2 | 事件鑑定人のブログ@鑑定人イシバシ

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私が事件鑑定人としてこれまで経験したことを書きます。
特定を避けるため、一部、ぼかしたりフェイクもありますが、概ね実体験です。





犬神家の一族といえば、なんといってもこの画像だ。
湖面に突き出た2本の足・・・・・

被害者は「すけきよ氏」である。

よくもまぁ、いい案配に逆立ちできたものと感心する次第だ。

ここで、水面下ではどうなっているか考えてみる。




 


前掲図は三次元CADで再現した遺体発見状況である。

映画では実況見分せず死体を引き上げていた。

誠にけしからん捜査怠慢であるが、それはひとまず置いておこう。

 




 


作中では、被害者の頭部は湖底のヘドロに刺さった状態であった。

小舟から遺体を引き上げていたので、水深は最低でも50cm程度はあろう。

ところが、水深の最低値で考えてみても根入れ長は40cm程度しかない。

いくら、水の浮力が期待できるとはいえ、人体を支えるに、この根入れ長(深度)では心許ない。

そこで、被害者となられたすけきよ氏には申し訳ない限りであるが、支柱基礎の考え方で試算してみる。


 




計算にあたっては、被害者体躯が硬直した剛性構造と捉えてみる。

また、土圧などの係数は面倒なので標準値を採用した。

かなり、大雑把な計算方法で恐縮であるが、約90cmの根入れがあれば佇立が維持できそうだ。

ただし、あくまでも仮説設置であり、風圧などは考慮していない。

 





 

とりあえず再現するとこうなった。

万歳して逆さに湖底に突き刺さった態様であれば、逆立ちが維持できそうである。

  

ここで一つの疑問が沸く。

被疑者は女性であるが、女の一人の手で被害者を約90cm湖底に突き刺す作業は不可能だ。

必ず、死体遺棄に際して共犯者がいた筈である。

しかし、この事件では、被疑者が自殺したため死体遺棄の状況が闇に包まれた。

ところが、遺体発見時の初動捜査が充分であれば、共犯者の可能性は判明した筈である。

完全な警察の捜査怠慢であり、失態だ。

犬神家連続殺人事件・・・・・捜査本部は設置されなかったのであろうか?

この事件は、殺人事件における初動捜査、特に鑑識の重要性を痛感させる事件である。