新編・伊勢物語 第二百八十二段 八ヶ岳棒道 星原二郎第二百八十二段 八ヶ岳棒道 昔、男ありけり。今も男ありけり。 その男、甲斐の国へやんごとなき用ありて行きけり。 八ヶ岳の山麓の武田信玄公の開きしといふ古道を通りけり。 甲斐より信濃の諏訪への一本道にて、戦国の世を眼(まなこ) 瞑(つむ)りて 思ひける程に歌、浮かび来ぬれば この道を 軍馬嘶き 駆け行きしか 八ヶ岳ふもと 信濃へ通ふ と 詠み 血気盛んなる若き日の武田信玄公の 馬上の姿を思ひけり。