第二百六十一段 続・能煩野
昔、男ありけり。今も男ありけり。
その男、古代の悲劇の英雄の倭建にこころひかれ
所縁の地のひとつ、能煩野へと行きけり。
行きて歌を
夏空の 碧澄む中を 白智鳥
建のみたまは 天翔けります
御社の 古りし鳥居の 奥どころ
木立の中に みこと眠らす
御陵の 能煩野神社は はつなつと
めぐりの田より 蛙にぎはし
小山なる 御陵の辺を たもとほり
みことを思ふ 夏の日盛り
小山なる 能煩野の杜より 見下せば
田面を渡る 夏の風吹く
と 詠みて 倭建の命の末期を想ひ涙流しけり