第七段 望遠鏡と顕微鏡
むかし、男ありけり。今も男ありけり。
その男、秋のある日
「平家物語」壇ノ浦の合戦での段にて
平家の武将の平知盛の辞世の言葉と伝はる
「これの世にて、見るべき程のことは見つ。
今は自害せむ」
を思ひて、歌を
われもまた 見るべき程の ものは見む
望遠鏡はた 顕微鏡もて
と詠み、見るべき程のものを見むまでは
死んでも死に切れぬと思ひしかど、
平知盛と違ひ、「望遠鏡はた 顕微鏡もて」とは
いささか、欲深きとも思ひけり。