第五段 心底より
むかし、男ありけり。今も男ありけり。
その男、バツイチとなりての後に再び
求婚したる女ありけり。
その女、伊勢の国に住みゐたり。
三河より通ひしかど
縁うすく、幾度の逢瀬の後に
別れの時、来ぬれば歌を
吾が輩が 心底そこより 心から
惚れたる女は お前ひとりよ
と詠みて、女のもとへ送りけり。
しばらくの後、女より 返し 届きけり。
わたくしが 心底あらたに 惚れたのは
京都の男 諦めくだされ
男、泣く泣く諦めにけり。