【牧】今日はよろしくお願いします。オーシャンでの展示会は今年で4回目になりますか?

【松林】去年も話しましたけど、以前は芸術性の高い、エッジの利いたものをつくっていた頃から、今はお客さんの感想や要望を聞いているうちに作品が変わってきていると。そのあたりの寛司さんの作品作りの気持ちを聞きたいと思っています。

【松本】ずっとアート系の作品作りをしてきて、売れない時代が長かったんですね。自分の考えていることをやるんだけど、売れない。だけどこの道でやると決めたのでやるしかない。値段もあるときは高すぎたり、安すぎたり。なんだか人体実験をしているうちに、今こうなってます。



【牧】木工作家として何年続けてこられたのですか?

【松本】14年目ですね。今は、昔作ってたよりも売れやすくなってますね。昔は外界を閉ざして、自分の内面にあるものを追求していました。好きなことをやってるんだけど、売れずお金がなくなるので、続けることもできなくなってました。自由もなくなり。作るのは好きなので、作れる自由がなくなるということは、面白くない。人に取ってもらえないものじゃ意味がない。そこで自分の出した答えは「自分はカラッポだった」ってこと。自分のなかには宇宙が広がっていると思っていたけど、残念なほどに何も無かった。落ち込みました。内にいてもダメだったので、外に目を向けようと。

【牧】そのとき寛司さんは、直感的にそう思ったんですか?それとも誰か方向を示してくれるような人が周りにいたんですか?

【松本】分かんないけど、そのときは考えがちで、28から30歳ぐらいのときは何とか食えたんです。皿が30枚とか100枚とか注文が入ったり。あるときはあって、無いときは無い。昔は自分の作品が好きな人が1人いればいいと思ってたけど、その1人を見つけるのにすごく時間がかかった。自分の好きなリズムを見つけるのに時間がかかりましたね。

【松林】今は自分のペースをつかんだ、ということですか?やっぱり家族の存在なんですかね?

【松本】そう、変わりましたね。マイペースというのかな。一生懸命やってもこれぐらいのペースかなって。サーフィンにも行きたいし、家族ともいたいし。作品がぶ厚く、丸っこくなったと思いますね。子供が落としても割れないような。

【松林】今はエッヂの利いたものを作りたいと思っていますか?



【松本】思いますよ。でも今はそっちヘの創作意欲がないです。

【牧】今はマイペースになって習慣ができたという話しですけど、昔のばーっと勢いにまかせて作っていたときと比べて、どちらが制作できる作品の数って多いですか?

【松本】トータルでは今のほうが多いです。だけどアート作品が作れなくなりました。作業が単調になって。子供のことをしなきゃいけないのがそうさせるのかも。昔はアトリエで寝て、もっと夜中まで遊んでいましたけど。今は子供を保育園に送ったり、時間が決まってきますよね。変わらざるをえないですね。

【牧】寛司さんはこういう食器を作っていますけど、ご自分で料理もするんですか?

【松本】あんまやらないですね。だけどたまにやってみて、チャーハンの木べらが欲しいなとか。まな板ってすぐ黒くなるなとか。そういうところで僕なりの答えを出していくという感じです。あと、カッティングボードとかどんなサイズでも売れるんだってことに最近気付きました。そうなってくると、僕が勝手にこういうサイズがいいと思って作っても、お客さんは色んなサイズを探している人がいて、それを僕が狭めて出会いを無くしちゃってたりする。そう思ってからは、今度は木にあわせて、自由に作るようになりましたね。木べらでいえば今までは中・大だったのが、お客さんにいわれて小・中にしたら売れるようになりました。

【牧】そこのベンチ(寛司さんの後ろにあるもの)は売物ですか?

【松本】売れなかったんですよね。値段はまあまあします。お寺の木をいただいて作ったんです。お坊さんが買ってくれると思って。だけど完成して見せたんですけど、なんとかかんとかで買ってくれなかったんですよね。「言うだけかよ!」みたいなところから学んだり。アートとして、禍々しいものをこめたり、神事に使いそうなものとか、集中して作っていたときがありますけど売れなかったですね。

【牧】寛司さんのことを知らずにお店で器を手にして、その作品と人柄にソフトな印象をもつと思うんです。その街のセンスのいい人たちが選んだりすると思うんです。展示会のパンフレットなんかもおしゃれで。だけど、僕しばらく前から交流していて「寛司さん絶対不良だよな」って思ってるんです。何かギャップを感じるんですけど・・・。



【松本】正しく見てると思います。それは出さないようにしていますからネットには。それは仮想現実なので。合ってしゃべらないとね。おれはアートって何だろうってことをずっと考えています。商売は「売れるもの・売れないもの」ってなりますけど。作ってみて「いいね」と思えるものを出せる人が作家だと思います。10中8、9きれいなラインが出せること。フィボナッチ数って知ってますか?

【牧・松林】知りません。

 



【松本】自然のなかに現れる美しい曲線を調べるとだいたいフィボナッチ数列になっているんです。アンモナイトのうずまきもそうです。この螺旋状とかゆらぎがある黄金比が美しいといわれてます。美しいというだけでなく、強い形になっていたり。それを僕は図形化して見せることをやってきました。アートってなんだ?と考えると、どうもアートはバランスのことだと思えます。

【牧】今も寛司さんはこの「いかにきれいなラインを出せるか」ということを大切にして創作されているんですか?

【松本】波が崩れるところとか、木屑のなかの螺旋にも、黄金比があるんです。それを見つけていくことは創作にとって欠かせないものです。あと、自分の欲求ですね。あるていど作って稼げたら終わりじゃなくて、まだ何かあるぞと思わされるもの。飽きのこない手応えが創作に残るんです。もっといいことありそう、みたいな勘が僕のなかに働いていると思いますね。

【牧】それは仕事を続けるのに大切そうなことですね。松林の話しで、むかし服屋に勤めていたときに「売っても売っても報われない、苦しくなった」といってたのと真逆のパターンですね。

【松林】うん。者も人も大量消費されてて、お金と者の売買はあるけど結局何も残らない気がして。

【松本】例えいろんな物が効率よく作られるようになっても、僕はこの仕事に未来があると思っていて。やりがいがあると思うんです。フロンティア精神が原動力なんですかね?謎の欲求があるんです。追っても追っても減らない欲求で、それが悪いことでもなさそうなんですよ。どの業界でもそういうものを追ってる人がいると思うんです。それをアーティストとかプロといいますよね。やってる内容は、パターン化して単純業務なんですよ。昔は10数時間掘り続けたりもしました。理想は4~6時間ですけど、あまり少なくても物足りないです。それから、自分のために使う趣味の時間があってもいいですけど、ワークは人のためにやったほうがいいですね。

【牧】寛司さんは普遍的に変わらないデザイン性のものをこれまで追求していますけど、この時期や時代にあわせて自分が追い求めて変化しているものもあると思いますけど、寛司さんのなかで変わったものって何ですか?

【松本】自分、ですかね。3人目の子供が生まれて、2人目が生まれたときにかわいかったんですけど、3人目が生まれてよりかわいいってなりました。なんだこれヤバいな、と。これからは、子供にすすめたいことをやってみたいです。悪い体験はどうせするんだから、自分が良いと思ったことを見せていきたい。例えば木べらは10年前から変わっていません。いちばん変わったのは自分ですね。欲望を探求していったら制せられた、というのか、正しく生きさせられている、というのか。同じ単調な作業を10何年もやっていて、人からは「外注に出しなよ」とか「罪でも償っているのか?」っていわれるんですけど。

【牧・松林】笑。

【松本】僕はこの作業が好きで続けているんですけどね。あと、自分の子供には自分が経験したことを語っていきたい。この器を作って生活していけるのはすばらしいことだと思うんです。できれば衣・食・住のクラフト同士で交換しましょうといいたいですね。日本銀行券を使わずに、物々交換してやっていけたらそれは豊かだと思います。物作り・手作りってそういうことが可能なんですよ。

【牧】寛司さんが今、世間一般の仕事をしている人たちを見て、苦しくなっている部分って理由は何だと思いますか?

【松本】やっぱりコントロールされてる。それはそれでいいこともあるんですけどね。好き嫌いなので自分が決めることですから。だから自分みたいなやり方は少数派だとは思いますよ。ぱっと思うことでいえば「良い車を買うんだ」というのではやる気が出ないんで。サーフィンに行ったり、家族とすごしたりしたいです。時間を売らないようにしています。もちろん物欲は探究心でもあるからいいと思いますけど、執着したりして、数字でランク付けするパターンに陥りがちですよね。

【牧】僕も寛司さんの言うような「やらされてる感のない仕事」をオーシャンで維持していきたいです。だけど職場で頼んだり頼まれたりしてると、いつの間にかやらされてる感がひょっこり出てきたりしてしまいます。

【松本】僕も人と接するとありますよ。だけど最近は、人のためにすることも自分のためにすることもイコールだと思ってます。どっちが得ではなく、もろに返ってくる世界。返ってくるペースも早いです。だったら自分が変わるということ。自分が相手にしてもらいたいように先に動くとか。100%はできないけど、目指す。それもアートで美意識だと思います。できればその美しさを、頭で考えるのではなく、野生で出せるようになりたいですね。いちいち「こうしたらウケるんじゃないか」と考える世界にいると締め付けられます。だったらできるだけ善意でやって、善意が返ってくるパターンにもちこみたい。それを理想としています。

【松林】今日はありがとうございました。展示会を楽しみにしています。

 

 

〔オーシャン取材班〕

アイランドサーフ松林

ピッツェリアオーシャン牧