ハズフォルニアスクールもいよいよ残すところ1回となりました。これまでの3回は講演会として実践的なまちづくりを学んできました。今度は僕らが当事者となって、参加型のワークショップ形式でアイデアを出し、行動につなげることが目標になります。



その進行役・ファシリテーターを引き受けてくれたのが、働きごこち研究所の藤野貴教さんです。藤野さんが追求していることは“働き方”で、『2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方』という本も出版されました。AIやロボットが身の回りに入りこんできたときに、僕らにできる備えとはどんなことがあるのかを書かれています。



藤野さんは“仕事”には3種類あるといいます。それが肉体労働・頭脳労働・感情労働で、そのうちの感情にまつわる仕事がいま求められている、と。たしかに、肉体はロボットに任せられるようになるかもしれないし、頭脳はコンピューターのほうが計算が早いです。そこで、AIやロボットが苦手な領域で、感情労働こそこれから価値が高まるであろうと藤野さんはいいます。



感情労働ってどんなものか。なんとなく自分の職場で最近思い当たる出来事がありました。



マーリーというアメリカ人で22歳の青年が1月ほどウーフーとして畑やお店のお手伝いをしてくれていました。アメリカ人らしく自分の意思をしっかり伝えるという部分では、オーシャンもごたぶんに漏れず日本的な職場なので、ぐさっと本質を指摘されて感情が揺らぐような事態がいくつかありました。



先日、昼過ぎにマーリーがカフェからピッツェリアに降りてきました。何か仕事がないかと言うので、薪割りを頼んで手伝ってもらいました。夕方作業が終わってから、マーリーとある文化的な問題で議論をしていると――マーリーと仕事をしていると議論をすることがよくある――ふと彼はこう言いました。「ちゃんと説明もされないのに、道具だけ渡されて『やっといて』と一言で済まされるようなライン仕事は我慢でき

ない。身体が拒否するんだ」と。



どういうことか聞いたら、カフェの仕事でテーブルセットの仕方について注意をうけたけど、それを守らなかったからポジションを外されたとマーリーは言いました。僕は「ルールなんだから守って、ボスの言うとおりにしなよ」と答えると、彼はこう続けました。



「言われたことだけをやるロボットみたいな仕事はやりたくない。僕は、テーブルセットでフォークやナイフを木目にそって置いたんだ。そのほうが美しいと思ったから。だけど、受けいられず縦に直された。そこに議論の余地はなかったし、説明もなかった。ただ、縦じゃなきゃだめって、それだけ」



きっと『バケモノの子』は見てないだろうから、ジャッキー・チェンの『カンフーキッド』は見たかと僕は聞きました。「とにかくマネをして、形から入ることで見えてくるものがあるでしょ?」



「だからといって質問してはいけないってことはないと思う。僕の意見は無視されていると感じたし、人間的な仕事だとは思えなかった」とマーリー。



「そうか。それならまあ、君の判断も間違いじゃないと思う」と答えた。



カフェ側の名誉のために補足しておくと、マーリーは英語。そしてランチ時間はみんな緊張感をもって忙しく働いています。説明や議論をしているヒマはないし、店側はいろいろ考えて今の仕事になっていると思う。英語では深い説明もできないから日本語を喋ってくれ、と言うこともできる。



たぶん日本では、飲食店にかぎらず多くの職場でこういうやり取りがあったら、「生意気言ってるんじゃない、嫌ならやめろ」と一蹴する出来事だと思う。○○年働いてから言え、○○を身につけてから言え、というふうに発言権に条件をつくる。



ボスや先輩の指示に従うのが当たり前、という環境は指示待ち人間をつくりそうです。それにピラミッド型で権力のある人が仕事を動かすありかたを是とする空気もうまれそう。マニュアルが整っているライン仕事なら、ルールから外れると生産性が落ちるので指示通り動く人間のほうがいい。



だけど、僕がいま働くオーシャンにはマニュアルはほとんどなくて、その日に取り組む仕事が毎日ちがうから、個々が自分で優先順位をつけないと仕事がなかなか進まない。そういうときに、アイデアを出してすぐに実行できればいいけど、ボスに伺いを立てて説明しなければ行動できず、さらにアイデアを採用されなかったら心の炎も冷水を浴びせられたような気持ちになる。



藤野さんの感情労働に戻ります。部下が冴えないアイデアを出してきたと仮定しましょう。それを否定して、正解を提示して動かすのは20世紀の働き方だと藤野さんは考える。おれが正しい、ではなく、相手が納得のできることとして話せるかどうかにかかっている。ありがちなのが、納得していると思っても上司の独りよがりの押しつけで、無理矢理YESを引き出していることもある。



「なんでそんなめんどくさいことをしなきゃいけないの」「直感で理解することだから、説明してもしょうがない」というスタンスだと、会話に時間をかけないかわりに、採用活動に追われることになる。



時間をかけるべきは「管理と競争の反対にある創造と協働」だという。作業の効率化よりも、お互い納得しあえるかに時間を割くことに価値がうまれるという考えです。



マーリーとのことだけじゃなく、ハズフォルニアスクールでも目指すところはまさに感情労働です。講師の話しを聞くだけじゃなく、参加者が協働して動きだせる場所にできたら楽しそうです。



本のレビューなのか、ハズフォルニアスクールの宣伝なのか、職場を考える日記なのか、なんなのかよく分からない文章で申し訳ありません。



マーリーとの議論のあと、テーブルセットの仕方をスタッフに聞いたら、使う順番に手の届きやすいふうに並べているとの回答を得ました。すぐにマーリーにその説明ができたらよかったんでしょうけど、言語の壁が立ちはだかりました。



第4回ハズフォルニアスクールはまだ受付けておりますので、ぜひお気軽にご参加ください。グループワークの話しを聞いてみたい、ということでも大丈夫ですよ。

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