先日、短い間だったが韓国のソウルで過ごした。二度目の渡韓である。一度目の時はそんなことはしなかったが、二度目ということもあり、初歩的な韓国語を自分なりに覚えて渡韓に臨んだ。その意欲はこのブログにも書いている。


《わたしは渡韓して、韓国の友人と再会した時にすんなりと韓国語が口から出るように、日常の中で上記の言葉を使うようにしている。音にして耳で覚える。これは芝居の台詞を我が物にするのと同じである。韓国語を学ぶ現在のわたしは、さながら役作りをしている俳優のようである》


そのようにして臨んだ渡韓だったが、結果を言えばほとんど事前の準備は役に立たなかった。いざ、韓国人を前にするとまったく言葉が出てこないのである。なぜ出てこないかと言うと、気後れする気持ちが邪魔をして、感情が音にならないのである。韓国語で店員を呼ぶ時の「すいません!」は「チョギヨ!」なのだが、ハッキリした音でこの言葉を発声できない。仮に発声できできても、言葉と感情が一致しないゆえに蚊の鳴くような音になってしまう。


何かを食べて美味しい時、「マシッソヨ!」(美味しい!)と笑顔で言えばいいのに、怖い顔をして「マシッソヨ」と言ってしまう。お礼を言う時、「カムサハムニダ!」(ありがとうございます)と笑顔で言えばいいのに、戸惑いながら「カムサハムニダ」と言ってしまう。表明したい感情と表現が著しくズレてしまう。言うなれば、アキ・カウリスマキ監督の映画の登場人物のような感情表現になってしまう。端で見たらこれはほとんどコメディかホラーである。


この状態は、おそらく東京に来て自分の生まれた場所の方言を気にして言葉をハッキリと口にできない地方出身者の心理に似ているかもしれない。あるいは、相手役に自分気持ちを伝えるのが苦手な俳優のそれにもよく似ている。自分の発する台詞に自信がないからこういう現象が起こる。


いずれにせよ、この度のわたしの韓国での韓国語チャレンジは完敗であった。「次回こそは!」と決意を新たにする。


✵ソウルの地下鉄にて。