韓国のソウルに滞在中。本日は雨。昨日は昼間は遠出せず、東大門のホテル近くの有名店でジャージャー麺を食べ、洒落たカフェで長い時間を過ごす。ソウルは世界一カフェが多い国だと聞く。ところで、ソウルは漢江(ハンガン)という大きな川で南北に分けられている。わたしたちが滞在しているのは川の北側で、今回は漢江を渡りソウルの南側へ行けなかったのが残念である。この大きな川はこの近辺に生きる人たちの精神にどんな影響を与えているのだろうか?


夜、大学路の小劇場R&Jシアターで韓国の劇団による「八月のシャハラザード」を観劇する。この劇団は以前にもわたしの戯曲を上演してくれている。開演時間は20時と日本よりちょっと遅め。自作が日本人以外の人によって演じられるのを見るのは初めてである。客席には若い男女が多い。キャパシティは100 人くらい。韓国人の観客はいったいどんな反応を示すのか? ドキドキして開演を待った。


韓国の観客の特性なのか、この劇団の特性なのかわからないが、開演前から観客は出演者に対して非常に親和的である。つまり、ノリがいい。こういう雰囲気は日本の劇場では余り見たことがない。芝居はリアリティよりもコミカルな演技が強調されていて、若い観客の笑いをよく誘っていた。演者はわたしの半分くらいの年齢の人たちだが、登場人物の役柄を考えれば、そのようになるのは当然なのかもしれない。「天宮亮太」「川本五郎」「夕凪」という登場人物名がそのまま使われていて、韓国語の中にそれらの言葉が出てくるのが面白い。


舞台造形のクオリティは必ずしも高いとは思わなかったが、それでも舞台を見ながらわたしの心は静かな喜びに満ちていった。それは、違う文化を持つ異国の若者たちが、「八月のシャハラザード」という芝居を選び、その作品に真剣に取り組んでくれているその事実が心から嬉しかったからである。終演後、挨拶した若者たちの顔も生き生きしていて喜びに拍車がかかる。


大学路を始め、三日間、ソウルの空気を吸って過ごしたが、演劇だけではなく、韓国の人たちが様々な場所でパワフルに毎日を過ごしている姿を目の当たりにして、わたしはますます韓国が好きになった。かくしてわたしの二度目の渡韓は終わり、これから仁川空港へ向い、日本に帰国する。


✵劇場の前にて。

✵劇団の人々と。