言うまでもなく警察とは、わたしたちの社会秩序を守るべく、法律に則って犯罪を取り締まる権力機構である。何かしらの犯罪の被害に直面した時、わたしたちが頼りにするのは警察である。彼らは無料で犯罪捜査をしてくれる。また、罪を犯した加害者を逮捕し、裁判にかけるための証拠を固める。被害者側、加害者側双方に対して警察組織は国家権力を背景にした問答無用の強制力を持つ。


話は変わるが、コロナ禍の最中頃から他人のマスク着用に関して神経質にアレコレ言う人がいた。様々な公共の場面で「マスクを着けてください!」と文句をつける人である。まあ、彼らの気持ちもわからないでもないが、マスクを着けるか着けないかは本人の任意の問題であり、他人がとやかく言っても仕方ないところがある。そういう人たちをちょっとからかいながら「マスク警察」と呼ぶらしいことを知った時、言い得て妙であると感じた。


もちろん、マスクの着用は法律で定められているわけではないから「マスク警察」の人たちに強制力はないわけだが、同じような「◯◯警察」は世の中にたくさん存在するにちがいない。例えば、時折、サウナ内でのルールをいちいち注意するオヤジがいる。「床に残った汗をタオルで拭いてから退出せよ!」という注意を周りの人々にするオヤジである。こういう人も一種の警察であり、「サウナ警察」と呼べる。


また、現代には「タバコ警察」と呼びたい人たちも存在する。「マスク警察」や「サウナ警察」と違い、彼らはもっと強気である。「ここで喫煙すると罰金ですよ!」というわけである。こちらは条例による法律的な規制が背景にあるので、注意された人は「知るかよ、オレの勝手だろう!」と言い返すことはできない。条例違反だからである。だからそう言われたらすごすごと引き下がらざるを得ない。


このように国家権力を背景としない警察は案外と身の回りに存在する。人間の最小の共同体である家庭を例にしでも、夫にとっての妻、息子や娘にとっての母親や父親というものは家庭内における警察であると言えなくもない。


保「ふふふふ」

満「何だ」

保「身内にも刑事がいるとは思わなかっだよ」 

満「・・・」


拙作「夜明け前-吉展ちゃん誘拐事件-」(論創社)の中で誘拐犯・中原保が自分の罪を追求する弟・満に言う台詞である。ある意味で身内=家族こそ最も厳しい警察である。


✵警察官。(「いらすとや」より)