韓国映画「殺人の追憶」(2003年)のDVDを購入したのは、今はなき渋谷のBOOK/OFFだったと記憶する。正確な時期は記憶にないが、おそらく2010年代の半ばである。このDVDは二枚組で、一枚は本編、一枚は監督や出演者たちのインタビューや撮影風景が収められた特典映像である。久しぶりに特典映像を見直してみて驚くのは、ポン・ジュノ監督の若さである。


当時、この人はまだ三十代である。「パラサイト 半地下の家族」(2019年)でアカデミー賞作品賞を受賞して授賞式でスピーチするポン・ジュノの貫禄と比べると、その姿はほとんど青年という印象である。しかし、特典映像のポン・ジュノは、若いながらも淡々と、しかし、聡明な語り口で作品を語っている。「“農村スリラー”がこの映画の代名詞だと思います」という言葉も印象的である。あれから数十年、この人は韓国映画界は元より世界の頂点に上り詰めたわけである。


そこで、ポン・ジュノは「作品の性質上、出演者は舞台俳優を中心に集めた」と語っているが、それは要するに実録犯罪映画という作品の性質上、アイドルのような有名俳優ではなく、無名だが個性的な俳優をキャスティングしたということであろう。粗野な田舎刑事を演じるソン・ガンホは元より、暴力的な刑事を演じるキム・レハや赤いパンティを履いている第二容疑者を演じるリュ・テホは、みな舞台俳優であることをわたしはこの特典映像のインタビューを通して知った。


そのインタビューに本作の原作に当たる舞台劇「私に会いに来て」の一場面らしき映像があり、わたしは本作が元々は舞台劇だったことを初めて知ったのである。その情報をきっかけにわたしは舞台劇「私に会いに来て」を日本語に翻訳してもらい、神宮前プロデュースにより上演したのが2018年のことである。その時、わたしは脚色と演出を担当したが、これが「私に会いに来て」の本邦初演である。その折に舞台劇の作者であるキム・グァンリム氏にもお会いした。つまり、フラリと立ち寄ったBOOK/OFFで廉価で買い求めたDVDは、非常にいい買い物だったわけである。


インタビューの最後に、ポン・ジュノは「本作はわたしが真心こめて作った作品です。皆さんの記憶に長く残る作品になることを願ってます」と視聴者に語りかけるが、すべての誠意ある表現者の気持ちを代弁するすばらしい締めくくりであると思う。


✵「殺人の追憶」の特典映像DVD。