拙作「八月のシャハラザード」が韓国のソウルで上演される。場所は大学路(テハンノ)の小劇場である。作者としては嬉しい限りだが、自作がソウルで上演されるのはこれで三回目である。今までに「バンク・バン・レッスン」と「淑女のお作法」が同じ大学路で別々のグループにより上演された。わたしはそのどちらも見ることができなかったのだが、今回は渡韓して観劇しようと思っている。


そもそものきっかけは、日本で演技の勉強をしていたKさんという在日韓国人の女性が、養成所で「バンク・バン・レッスン」をテキストとして使っていたことに端を発する。その後、Kさんは韓国を拠点に演劇活動をするようになり、その際に拙作を取り上げてくれたのである。2022年に渡韓した時に彼女と初めて会うことができたが、Kさんは翻訳の仕事をしながら、韓国の劇団に日本の演劇を紹介し、上演の手助けをしているという。


その際に、わたしは最近、取り組んでいる「昭和事件シリーズ」の上演も希望したが、韓国では、シリアスなものよりコメディの方が受けがよいとのことだった。それが韓国演劇全体の傾向なのか、大学路界隈(ここは演劇の街である)の傾向なのかわからないが、韓国の演劇事情に詳しいKさんが言うのだから、それに従うしかない。


しかし、わたしがそもそも「昭和事件シリーズ」に取り組むきっかけを作ったのは、韓国映画「殺人の追憶」(2003年)を見たことによる。実際に起こった連続殺人事件を元に、豊かな想像力で再構築したその映画は、わたしに実話ベースの物語の面白さを再認識させた一編である。だから、逆に日本で起こった有名な事件を元にした芝居を韓国で上演することには意味があると考えるし、そういう題材の芝居を受け入れる土壌もあるはずである。


たまたま今年の頭に「八月のシャハラザード」は上演したばかりだが、この幽霊ファンタジーに対して韓国人の観客にどのような反応するのだろうか? まあ、人間の生と死をテーマとして持つ内容の芝居だから決してちんぷんかんぷんということにはならないと思うが、期待と不安が入り混じる。わたしは現在、二度目の渡韓に向けて韓国語を勉強中である。わたしの目下の夢は、ソウルで自ら作・演出する舞台を上演することである。

以下に掲載したビジュアルが韓国公演のポスターだが、イラストとして描かれているのは、本作に登場するあの世への案内人「夕凪」であると思われる。ハングルによる表記を見るだけでわくわくする。

✵韓国公演のポスター。