Netflixで「妻消えて」(2022年)を見る。人妻失踪をめぐるミステリと知り、俄然、見たくなり一見に及ぶ。中国映画。


風光明媚なリゾート地の島。結婚一周年の記念に島を訪れたホー・フェイの妻リー・ムースが失踪する。地元警察は捜索を依頼してもけんもほろろ。そんな彼の前に妻を名乗る女が現れる。しかし、彼女はまったく見知らぬ女。彼は事実を認めないが、女は妻であることを裏づけることをいろいろ知っている。そんな時、彼は一人の女性弁護士と知り合う。


見る前からちょっとした予感はあったが、本作はロベール・トマの舞台劇「罠」(1960年初演)を原作として、その内容を換骨奪胎したものである。一見、そのように見えないように背景や小道具が改変されているが、大元はそこである。「罠」のストーリーは以下のようなものである。


●「罠」(ロベール・トマ作)

フランスの人里離れた山荘。この山荘に滞在していた夫婦の妻が失踪する。夫のは地元警察に妻の探索を依頼する。そんな彼の前に妻がひょっこり現れる。よかったと思っていた矢先、夫は決然と言う。「これは妻じゃない」と。しかし、様々な物証がその女はが妻であることを裏づけている。夫は次第に追いつめられていく。


物語の構造がほとんど同じであることがわかるであろう。本作は、舞台を人里離れた山荘からリゾート地の島に変え、夫が自分の主張を受け入れない妻や警察に対抗すべく敏腕の女弁護士とタッグを組み、彼女とともに真相を追うという風に改変されている。また、主人公をスキューバダイビングのインストラクターにして、神秘的な海中の景観を幻想的に描き、カーチェイスや銃撃戦などを盛り込んで、よりエンタテーメント性を強調している。それはそれでよいのだが、ロマンチックな場面にいちいち歌入りのラブ・ソングがかかること、挿入される過去の回想場面の多さを含めて全体は冗漫に弛んでいると感じる。


わたしが知る限り、トマの「罠」を元にした(あるいはトリックが似ている)作品は以下の三つである。


●「生きていた男」(1958年)イギリス映画。アン・バクスター主演。

●「消えた花嫁」(1986年)アメリカのテレビ映画。エリオット・グールド出演。

●「生きていた男」(1984年)日本のテレビドラマ。桃井かおり主演。


最後のどんでん返しに関しては触れないが、「罠」の持つ劇構造はそれだけオリジナリティがあったということである。正確に言えば、イギリス映画「生きていた男」の方が早く作られているが、「バニー・レークは行方不明」(1965年)や「フライトプラン」(2005年)や「ゴーン・ガール」(2014年)もこの系譜に入れていいなら、そのヴァリエーションはもっと多くなると思う。


✵同作。(「daily daily」より)