景気という言葉は日常会話の中でもしばしば登場する馴染み深い言葉である。「景気がいい」「景気が悪い」というのは、天候の挨拶に匹敵するくらいの頻度で人々の間でかわされている言葉の一つではないか。「どうですか、景気は?」という問いが関西圏内だと「儲かりまっか?」という風にくだけるのだと思う。しかし、景気という言葉は、よくよく考えると不思議な言葉である。


●景気

景気とは、売買や取引などの経済活動全般の動向のこと。 日本語における「景気」という言葉は、中世に和歌の批評における余情意識を表現する用語として用いられており、景色・雰囲気などの意味合いを込めて使われてきた。(『方丈記』など)転じて評判や人気などの意味にも用いられる場合があった。 経済用語としての「景気」にも実体経済の動向のみならず、これに伴った世間一般の社会的心理をも含めて捉えるケースも多く、英語などの他言語には正確に合致する単語はないと考えられている。(「Wikipedia」より)


つまり、景気という言葉は、日本語だけにある独特な表現である。それは実体ではなく、ある種のムード(雰囲気)を言い表す言葉なのである。しかし、実体がないとは言え、わたしたちは自分が生活する世の中の景気を敏感に感じて生きていると思う。それはわたしたちが日々の暮らしの中で、経済活動を行うからである。


消費者側の立場で言えば、欲しいものを安く手に入れることが容易である場合、販売者側の立場で言えば、販売する商品がたくさん売れて売り上げがぐんぐんの伸びる場合、世の中は「景気がいい」状態であり、その反対の場合が「景気が悪い」状態であると言っていいだろう。また、モノを介さないサービス業のような仕事も、景気がよければたくさんの受注があり、また、得意先もたくさんの発注をするだろう。要するに世の中で「経済が回っている」状態が景気がいいのであり、そうでない状態が景気が悪いということである。


わたしの仕事(舞台作り)は、経済とは密接に関係していない分野なので、これまで景気とは関係なく活動してきたように思うが、舞台作りもつまるところ経済と無縁ではない。演劇公演も芸術の創造という側面以外に興行という側面があるからである。よって集客の問題は常に身近である。そういう商取引の側面において、一表現者として肌で感じるのは、コロナ禍以降、世の中はずっと景気が悪いということである。


✳スーパーの果物コーナー。