モスクワで大規模なテロリズム事件が発生したという記事を目にした。少数のテロリストたちはロックコンサートが行わる会場を襲撃し、130人以上の一般市民を銃器を使って殺害したという。イスラム国(IS)が犯行声明を出したというからテロリストたちはいわゆるイスラム過激派ということになろうか。わたしはその犠牲者の数の多さと殺害方法からすぐさま「ホテル・ムンバイ」(2018年)で描かれたあの地獄の風景を思い出した。


「ホテル・ムンバイ」は2008年11月にインドのムンバイで起こった同時多発テロを描くサスペンス映画である。わたしはこの映画を通してこの事件のことを知ったが、本作の冒頭、隣国パキスタンから夕陽に輝く海を渡ってインドへ潜入するテロリストの少年たちの姿が描かれる。その姿に重ねて彼らをテロ行為に誘うテロの首謀者の電話の声が聞こえる。


首謀者「周りを見ろ、兄弟。奴らが奪ったものを。お前たちの父親と先祖たちから奪ったのだ」


わたしはイスラム過激派のテロリストたちがいかなる理由でテロ行為に走るのかよく理解していなかったので、本作の首謀者の声はその事情を理解する上で役立った。もちろん、世界で起こるテロリズムがすべてそのような理由で行われるわけではないだろうが、本作に限って言えば、要するに貧富の差による怨恨がテロ行為の最大の動機にはなっているというわけである。「奪われたから奪い返す」ための意思表示として彼らは無差別に人々を殺傷する。


なぜインドのムンバイがテロリストたちの標的になったかと言うと、ムンバイがアメリカ資本による商業施設や高級ホテルがある繁華街だったからであると思われる。劇中で件の首謀者は「ワシントンに悲鳴を聞かせてやれ。我々の兄弟の仇だ!」というような台詞を吐くが、テロリストたちが目の敵にしているのがインド人ではなくアメリカ人であることがわかる。「だったらインドじゃなくてアメリカでやれよ!」と思わないでもないが、2001年の同時多発テロ以後のアメリカは出入国に関する規制が厳しくなって、実行犯が潜入しずらいのかもしれない。


この度、モスクワで起こった大規模なテロリズムがどんな理由で実行されたのかはまったくわからないが、根本的な理由は「ホテル・ムンバイ」のテロリズムと同じということだろうか? しかし、なぜ殺戮が行われる場所がロシアのモスクワだったのかは続報を待たないと判断できない。実行犯とされる四人のテロリストたちは全員拘束されたというが。大きな恐怖を味わい亡くなった人々のご冥福を心より祈る。


*「ホテル・ムンバイ」のテロリストたち。(「GAGA」より)