某日、吉祥寺アップリンクで公開中の「ビニールハウス」(2024年)を見る。衝動的に暗い韓国映画を見たいと思い映画館に足を運ぶ気になった。「暗い映画を見たい!」と思うのもちょっとおかしな話だが、韓国映画にはそのような魔力がある。


ムンジョンは訪問介護の仕事をしながらビニールハウスで暮らすシングルマザーである。彼女が担当するのはとある老夫婦(盲目の夫と認知症の夫人)である。ある日、ムンジョンは浴室で暴れた老夫人を揉み合いになり、夫人はタイルに頭を打ちつけるて死んでしまう。その隠蔽を図るムンジョンは同じく認知症を患う自らの母親を夫人の身代わりにしようとする。


本作のキャッチコピーは「半地下はまだマシ」である。普段、映画を見ない人には不親切なコピーだが、言うまでもなくこれは「パラサイト 半地下の家族」(2019年)における半地下を指し示していると思われる。こちらは半地下に住む貧しい四人家族が高台にある金持ちの一家に寄生することで生計を立てる様をブラックユーモアの味つけで描いた怪作だが、貧しい家族が主人公である点は共通している。


シングルマザー、貧困や格差、認知症など現代社会における様々な問題が背景にあるという意味では興味深い映画ではあるのだが、「パラサイト 半地下の家族」と比べるといろんな意味で物足りないという感想を持つ。その差は監督の絵作りの力量であり、物語の展開の暴走具合の違いである。次から次にヒロインを襲う悲惨な出来事も不幸のための不幸を描いているように感じ、感情移入しずらい。


ちょっと前に高速道路の一角にテントを張って暮らす家族を描く「高速道路家族」(2023年)という韓国映画があったが、本作もビニールハウスという非常に魅力的な舞台設定を取り上げている。もちろん日本でもダンボールでできた簡易な寝床で生活する浮浪者は存在するが、中年女性がそのような環境で暮らしているケースは稀であろう。しかし、作りようによれば、その安っぽい家屋の姿にヒロインの荒涼たる心象風景を重ねることもできるように思うのだが、わたしにはそのようにビニールハウスが見えなかった。


先にわたしは暗い韓国映画には「魔力がある」と書いたが、それはわたしがかつて「殺人の追憶」や「チェイサー」や「悪魔を見た」のようなバッドエンドの韓国ノワールにシビれたからである。だからわたしは評価が高くても「国際市場で逢いましょう」や「SUNNY/サニー」のようなロマンチック・コメディ系の韓国映画を見ていない。


*同作。(「映画.com」より)