経済学者の成田悠輔氏の発言がネットを中心に物議を醸している。高齢化社会への対応策としての高齢者の「集団自決」「集団切腹」についての発言である。この発言は数年前(2021年12月)のABEMA Primeでの発言とのこと。そこで成田氏は次のように発言したと伝えられた。


「僕はもう唯一の解決策ははっきりしていると思っていて、結局高齢者の集団自決、集団切腹みたいなものではないかと」


「やっぱり人間って引き際が重要だと思うんですよ。別に物理的な切腹だけでなくてもよくて、社会的な切腹でもよくて、過去の功績を使って居座り続ける人がいろいろなレイヤー(層)で多すぎるというのが、この国の明らかな問題」


批判を受け、氏は「議論のためのメタファー」としてそのような言い方をしたと弁明しているが、確かに批判が沸き起こっても仕方ない不適切な発言だと思う。SFとしては面白いが、現実でこのようなことを実現させるのはほとんど不可能であるとわたしは思うからである。世の息子や娘たちが自らの父親や母親を自死させる法案を採択するとは到底思えない。


しかし、一方、氏の提言がまったくの戯れ言だとも思わない。現実化は相当に難しい提言であるが、痛い真実も内包していると感じるからである。いわゆる「老害」を懸念する氏の真意はこういうことではないかと想像した。


「わたしたちの社会がもしも沈没を余儀なくされたタイタニック号だと仮定するなら、船の沈没に際して救命ボートに乗り、助かるべきなのは未来がある子供たちなのであり、そうでない老人たちは自らの意思で海に飛び込み、自死してもらうしかない。もちろん、その死は強制ではなく本人の意思で決める。これが苦渋の決断であることは言うまでもないが、「生か死か?」という極限状況においてはその選択をせざるを得ない」


だとすれば、その考えに同意する人間がいてもおかしくはない。しかし、ややこしいのは、そのように潔く子供たちにボートを譲る達観した老人ばかりがタイタニック号に乗船しているとは限らない点である。「ボートに乗せろ!」とばかりにこの世に執着する老人は多いと想像する。いずれにせよ、この提言が現実的ではないことは言を俟(ま)たないが、氏が言うように議論のきっかけにはなるのは確かである。


*切腹。(「刀剣ワールド」より)