性加害疑惑がある映画監督が準強姦の容疑で逮捕されたという記事を読んだ。わたしは映画監督ではなく舞台演出家だが、映画にせよ舞台にせよ、演出を担当する人間は組織の構造上、権力を持つことになるので、その力を利用しようとすればいくらでも悪事が働けるように思う。記事に書かれていることが事実だとすれば、逮捕された映画監督は相当に卑劣なやり方で若い女優たちを食い物にしていたということになる。(被疑者は冤罪を主張している)


この事件にする関するいくつかの記事を読んだが、一番印象的だったのは、週刊文春による以下のような記事である。


《複数の関係者によると捜査は約1年前から水面下で進められていた。捜査に協力していた女優は、対応した女性捜査員からこう声をかけられたという。 「被害者は複数人いて、手口は悪質。すぐにでも逮捕できるが、すぐに出て来られないように、しっかり周りを固めたい」 》


わたしがハッとしたのは、被害女性の話を聞いたのが男性ではなく女性の捜査官だった点である。


わたしはこの事件が週刊誌で告発された時から注目していたが、担当捜査官が女性であることを想像したことはなかった。しかし、被害女性が性的な被害の内容を話した相手が男性ではなく女性の捜査官であるのは理にかなっている。そして、その女性捜査官はおそらく男性捜査官よりもずっと親身になって被害女性の傷ついた心に寄り添ったちがいない。その結果、「許せない!」と感じたからこそ「(刑務所から)すぐ出て来られないように」という恐ろしい言葉で被害者を慰めたのだと思う。


その決然たる言葉は「天国と地獄」(1965年)の戸倉警部(仲代達矢)を思い出させる。戸倉警部は誘拐犯人・竹内(山﨑努)を死刑にするために犯人をすぐに逮捕せず泳がせるのである。いや、戸倉警部というよりも「告発の行方」(1988年)で、レイプされた被害女性(ジョディ・フォスター)に寄り添う女性検事(ケリー・マクギリス)と言った方がよいか。


おそらく決してわたしたちの前にその姿を見せることはないであろうその名もなき女性捜査官がどんな人なのか、わたしの想像力は強く刺激された。


*女性捜査官。(「イラストAC」より)