DVDで「キリング・オブ・ケネス・チェンバレン」(2019年)を見る。ニューヨークで実際に起こった警官による黒人男性射殺事件を元にしたサスペンス映画。原題は長いが、「ケネス・チェンバレンの殺害」というタイトルである。


2011年11月19日の早朝。ニューヨークのホワイトプレーンズ。老齢の黒人で元海兵隊員のチェンバレンのアパートに三人の地元警察官がやって来る。心臓病を患う彼の医療用通報装置が誤作動したせいでの安否確認のための訪問だった。しかし、チェンバレンは警官を部屋に入れることを断固として拒否、事態は次第にエスカレートしていく。


警官「警察です。安否確認のため伺いました」

チェンバレン「ご足労かけて申し訳ない。機械が誤作動してしまったみたいで」

警官「そうでしたか。ご無事ですね」

チェンバレン「ハイ、この通り」

警官「ならよかった。ではこれで失礼します」

チェンバレン「わざわざありがとうございました」


本来、これだけで済んだはずの住人と警官のやり取りがこじれにこじれ、最終的に警官隊が部屋のドアをぶち破り突入する事態に発展する様をリアルタイム(83分)で描くのが本作である。結果、何も悪いことをしていない住人のチェンバレンは警官に射殺されてしまう。まったく悪夢のような出来事だが、住人と警官の小さな意地の張り合いがエスカレートしていく様はリアリティに満ちていて、緊迫の83分間はあっという間である。


やり取りがエスカレートしていく過程で、白人警官の黒人への思わぬ偏見や差別意識が露呈していく様が興味深い。事態が悪化の一途を辿るのを目撃する我々はまさに「隔靴掻痒」の気持ちを味わうことになるが、一見、正しい主張をぶつけ合う両者の間には相手に対する抜きがたい人間不信があることが次第にわかってくる。そして、そこに本作の作り手の問題意識があると思う。


Tictokの動画で警官に職務質問されるが、断固それを拒否する警察嫌いの人の動画を見たことがある。「任意なら拒否します!」と警官への協力を断固として受け入れない人が世の中にはいるのである。映画を見ながらそんな人を思い出したが、ある状況下においては、こういう警官との些細なやり取りがとんでもない悲劇に発展する可能性があることを知り、強い恐怖感を覚えた。


*同作。(「映画.com」より)