先日、ノーマン・ジュイソン監督の訃報が届いた。97歳。大往生と言える年齢だが、わたしが映画を熱心に見出した頃、この人は注目すべき監督の一人だった。代表作は「シンシナティ・キッド」(1965年)「夜の大捜査線」(1967年)「屋根の上のバイオリン弾き」(1971年)「月の輝く夜に」(1987年)辺りだろうか。


わたしが初めて見たジュイソン監督の映画は「ローラーボール」(1975年)である。ウィリアム・ハリソン原作の近未来SF。必ずしも評価が高い映画ではないが、本作はわたしがテレビではなく初めて劇場(名画座)で見た映画の一本であり、強い印象が残っている。(併映は「フレンチ・コネクション2」と「地球の頂上の島」だったと思う)しかし、この時にジュイソンが過去にアカデミー賞を取った有名な監督だとはまったく知らなかった。上記のようにこの監督の守備範囲は広く、ミステリーや人間ドラマからミュージカル映画まで実に広い。ジャンルを問わずという意味では、後輩のジョエル・シュマッチャー監督のような職人監督だったのかもしれない。


すべての作品は見ていないが、やはり一本を選ぶなら「夜の大捜査線」だろうか。人種差別的な警察署長(ロッド・スタイガー)と優秀な黒人刑事(シドニー・ポワチエ)が共同でとある殺人事件を捜査するという内容の先駆的なバディ・ムービー。いがみ合っていた二人が友情を獲得するラストシーンは静かな感動がある。ジュイソンはこんなアメリカ人の儚い夢を堂々と演出していた。クインシー・ジョーンズの叫ぶような主題歌も効果的である。


また、「華麗なる賭け」(1968年)も忘れがたい映画である。スティーブ・マックィーンとフェイ・ダナウェイ共演のロマンチック・ミステリー映画。金持ちの実業家がゲーム感覚で銀行強盗を計画し、実行犯たちに金を奪わせるが、敏腕の保険会社の女性調査員に出会い、彼女と恋に落ちるというストーリー。わたしが初めて「マルチ・スクリーン」と呼ばれる分割画面による映画の手法を初めて見たのはこの映画だった。


必ずしも芸術家肌の映画監督ではなかったかもしれないが、観客が喜ぶエンターテイメント映画をたくさん作ったことはすばらしいと思う。謹んでご冥福をお祈りする。


*「夜の大捜査線」の一場面。(「映画.com」より)