大人になってからはめっきり男友達と呼べる同性の友人が減った。昔のようにその人と用もないのにわざわざ連絡を取り合い、どこかへ一緒に行くということがなくなった。独身時代ならともかく、結婚して家庭を持つとすべての人間関係の基点が家庭になるから、そのようになるのも仕方ないことなのかもしれない。しかし、わたしはほとんど毎日のように会う男友達がいる。


俳優・映画監督のMさんである。年齢はやたしより一回り若い。共通の友人を介して知り合ったのだが、いつの間にかわたしたちは親友と呼べるような関係になった。もちろん、そのようになった要因は、Mさんがわたしと同じ分野に関心がある人だったせいもあるが、それだけではこのようにならなかったにちがいない。それはわたしたちが同じ町に住んでいたせいである。


わたしは大概、どこかへ行く前、自宅から駅に向かう途中にあるドトール・コーヒーに立ち寄る習慣がある。時間は特に決まっていないが、だいたい午前中である。そこに行くと八割以上の確率でMさんがいるのである。だから、わたしたちは待ち合わせをしているわけでもなく、そこで会うことが多いのである。つまり、わたしたちは偶然会う機会に恵まれている。会えば自然と四方山話をすることになり、互いの家庭や生活環境などがわかってくる。


このような事実からわかるのは、住んでいる場所というものは人間関係を築く上で非常に重要であるということである。わたしたちがもしも別々の町に住んでいたら絶対にこういう関係にはならなかったし、同じ町に住んでいてもわたしたちがドトール・コーヒーに通う習慣がなければ親しくなることもなかったにちがいない。


Mさんが女性だったりすると、お互いちょっと身構えてしまうように思うが、そうではなかった点も幸運だった。わたしたちは今日も地元のドトール・コーヒーで会い、目的もなく他愛ない世間話をして一時を過ごす。そう、目的がない点が重要で、そういう要素がないから気楽なのである。これを親友と呼ばず何と言おう。


*ドトール・コーヒー。